◯魔力検証
2020/06/19加筆・修正
シオン先生に薬草園に呼び出されました。
「今日呼んだのは、ローズマリーの魔力を測定しようと思ってね」
そういえば、先日、私が魔力持ちと言ってましたね。
「では、測定のための道具について説明しよう」
先生が取り出したのは、長さが50センチほどの杖でした。先端には私の握りこぶし程度の大きさのクリスタルが付いています。
「私が知っている測定の道具とは違うようですが?」
私の記憶では、大きな水晶玉のようなものだったはずです。
「ああ、あれは重いので持ち運びが不便だ。それに、多くの者が誤解しているようだが、あれは本来、魔術師としての適正を判断する道具だ。魔力の量が魔術師の素質に関係しているからな」
あの水晶玉は、魔力量が多いほど眩しく輝くと聞いていました。
私の場合、光らなかったので魔力がないものだと思っていました。
光る人はそう多くはないので、光らなかった水晶玉を見て、ちょっと残念だったのは覚えています。
「この測定杖の金属部分を持つことによって測れるのだが、これを持ってもらえるかな?」
先生が後ろに控えている事務員の男性に杖を渡します。
男性が持つと、クリスタルがオレンジに光りました。
「彼の場合は、下位の魔力量となる。私では・・・」
先生が杖を持つと、クリスタルが眩しいほど輝きます。太陽の光のような輝きです。
魔力が少ない方から、赤、オレンジ、黄色、緑、青、濃紺、紫と変化するそうなのですが、先生の場合はかなりの魔力量のためあのような光り方をするそうです。
「では、ローズマリー。君の番だ」
恐る恐る杖を握ります。
わずかに赤く光りましたが、その光りは弱々しいものでした。
「従来の測定器だと測れなかった量なんだよ。人は僅かだが皆魔力を持っている。ただ、それが魔法を使えるほどの量ではないだけなのだ」
今までの測定器、魔法を使うことができる魔力量を持っているかを調べるためのものだったようです。この新しい測定器では、オレンジからが魔術師として認められるそうです。
「それでは、色々な場所で試してみようか」
最初に連れてこられたのは、芝生の広場の真ん中です。
杖を握ってみると、オレンジに近い赤に光りました。先ほどの弱々しい光り方ではなく、周囲が照らされるほどの光り方です。
先生の後ろに控えていた男性職員がなにやら記録しています。
「少し、場所を移動しよう」
次は、広場の端。広葉樹の並木道の近くです。
緑色に光りました。
場所を次々に移動して、測っていきます。
光り方は場所によって、赤から青みがかった緑までさまざまでした。
「今日の検証結果がこれだ」
応接テーブルの上には庭園の大まかな地図が広げられています。
そこには、私の魔力を測定した場所と測定の記録が書き込まれていました。
「見てのとおり、植物の多い場所で魔力が増加している。ローズマリーの魔力は明らかに植物の影響を受けている。ただ、不思議なのが、ここだ」
先生が指した場所は薬草園とハーブ園です。
「雑木林の中とほぼ同程度の多くの魔力量がある。影響の有る範囲が決まっているのか、植物との相性なのか、それについては今後検証していこう。室内でも植物の有無や種類によって違うのかも調べたいし・・・。しばらくは薬草園に通うように。王妃様の許可は取っておこう」
庭園のことはリズさん達にお願いすることにして、デニスさんにも一言伝えておきましょう。
「それにしても、先生はいつ私に魔力があると気づいたのですか?」
男性職員さんは退出後、女性の職員さんがお茶を運んで来てくださいました。
「大学内の薬草園で講義をしたことがあっただろう。その時だ」
薬草のなかには似ているけれど効能が違うものもあるので、その見分け方についての講義でした。
「上位の魔術師になると、相手の魔力を感じとることができる者もいる。講義室内では大した魔力を感じなかったから気にはしていなかったのだが、薬草園では何故か魔力を感じたので、注視したら君から魔力が発せられていた」
先生は意識することで魔力を視ることもできるそうです。
「だが、講義室内や構内ですれ違った時などは、全く魔力を感じないから、その時は偶々魔力が込められた物を身に付けていたのではと思っていたのだが、それならば、普段から魔力を感じないとおかしい。たまたま、植物の世話をしている姿を視て、やはり魔力を持っていると感じたのだよ」
「・・・不思議ですね」
「そう、本人が全く気づいていなのがな。詳しく調べたくても、君の研究の邪魔はできないし。それで一応ここに誘ったのだがな。断られてしまったが、なんとなくだが、いつか調べる機会ができる気はしていたし、その間にこの測定杖を開発することができたから、結果としては良かったのかもな」
翌日からさらに詳しく私の魔力の検証をするついでに、魔法の訓練もすることになりました。
魔法が使えるだけの魔力があることが分かったのですから、使えるものは使いたいと思います。
訓練場所は、芝生の広場の端。並木道の近くです。
昨日の測定で十分な魔力が測定された場所です。
「炎の魔法から始めようか」
先生が指をパチンと鳴らすと、指先に小さな炎が現れました。
「指先に意識を集中して、そこに炎が現れるイメージで・・・」
言われたとおりにイメージして、先生と同じように指を鳴らそうとしましたが上手くいきません。
「あ~。無理に指を鳴らす必要は無い。魔法の起動方法は人それぞれだ。とりあえずは『炎』と唱えればいい」
指を鳴らす姿が格好良かったので残念です。
気を取り直して、再度挑戦します。
「『炎』」
と、唱えると、出るには出ましたが、すぐに消えてしまいました。
何度か挑戦しましたが、同じでした。
「火系統は苦手みたいだな。まぁ、でも、種火としては使えるか・・・。では、次。水に挑戦だ」
コップを水で満たすことに挑戦します。これは、簡単に出来ました。
「では、雨を降らせることに挑戦してみようか」
「ぜひ!!」
魔法で雨を降らせることが出来れば、広範囲の水やりが楽になります。
「では、降らせる範囲、強さなどをイメージして・・・」
パチン。
先生が指を鳴らすと、目の前の半径1メートルほどの範囲に小雨が降ってきました。
パチン、パチンと、指を鳴らす毎に範囲や強さが変化していきます。
次は私の番です。
降らせる範囲を強さをイメージして・・・。
出来ました・・・。が、イメージしていたのとは違う!
先生と同じぐらいの範囲で、花にも優しい強さの振り方をイメージしていたのに・・・。
結構な広範囲で、大粒の雨が降ってきます。
「うわぁ~!!止んで~!!」
慌てて叫んだことで雨は止みましたが、
「あ・・・れ・・・?」
全身に襲う疲労感と、目眩で足元がふらついてしまいました。
「大丈夫か!?」
後ろに倒れそうになったところを先生が支えて下さいました。
「一気に魔力を使ってしまったようだな。どんな症状がある?」
「全身が怠いのと・・・、ちょっとクラクラします・・・」
「そうか・・・」
足が地面から離れたなぁと思ったら、先生に抱えられていました。
「あの・・・、先生、一人で歩けますから・・・・・・」
「当分は無理だろう。大人しくするように」
「いえ、でも、これは、ちょっと・・・」
お父様とお兄様以外の男性に抱えられたことが無いので、とても恥ずかしいのです。お父様達に抱えられたのも小さい頃のことですし・・・。
「肩に担いだ方がいいか?」
想像してみて、そちらの方が恥ずかしい姿だったので、このまま運ばれることにしました。
「安心しろ。魔法で周りに気付かれないようにしている」
他の人に見られていないことに安心しましたが、恥ずかしいのは同じです。
メアリ達知ったら、「羨まし~!」と、言われそうですけど。
そんなことを考えているう間に、建物に到着しました。
連れてこられた部屋は、いつもの応接室ではありませんでした。
「ここは・・・?」
「私の薬草園での執務室だ」
ソファに優しく下ろされました。
「ここなら、ゆっくり休めるだろう。私は他の仕事に行ってくる」
そう言い残し、先生は部屋から出て行きました。
「失礼します。お茶をお持ちしました」
先日のお料理好きの女性職員さんがワゴンで運んできました。
「具合は大丈夫ですか?」
お茶とケーキがテーブルの上に置かれます。
「それと、これも・・・」
お茶以外も、肘掛けと小さな鉢植えを運んできていました。
「植物が身近にある方が回復が早いと思いますので」
室内でも植物があると、魔力が測定できるのです。
「具合の方はどうですか?」
女性職員さん--名前はセイラさんと言うそうです--が尋ねてきました。
「フラフラしたのは抜けたのですが、全身の怠さがありますね」
「魔力疲れですね」
「魔力疲れ?」
「はい、長時間続けて魔法を使用した時とか、大きな魔法を使った後などに出る症状なんです。久々に激しい運動とかした後の症状に似ていませんか?」
大学卒業後、お母様にダンスの特訓を受けた後がこのような感じでしたね。
「ただの魔力疲れでしたら、しばらく休めば軽くなります。魔力切れまでおこしていたら、丸1日は寝込んでいた可能性がありますね」
私の場合は、身近に植物がある限りは魔力切れをおこす可能性は低いとのことでした。
それにしても、毎回、魔法を使う度に魔法疲れになってしまうのでしょうか?
「魔力疲れをおこしにくくなるには、魔法を使うことに慣れることです」
今日、なんとか使えるようになった魔法は、コップを水で満たすことです。毎日、それをすればいいのでしょうか?
「それでは、ごゆっくりお休み下さい。この部屋の本は自由に読んで構わないとのことです」
そう言って、セイラさんは部屋から出て行きました。
植物が近くにあるからでしょうか?いつの間にか寝ていたようで、気付けばすっかり夕方になっていました。
部屋が茜色に染まっています。
そして、向かいのソファには本を笑んでいるシオン先生が・・・。
先生の手元にだけ灯りがあります。魔法でしょうか?寝ている私に気を使って?・・・・・・って、寝顔、見られた~!?
「よく寝ていたな」
慌てて起き上がった私に笑顔で声をかけてきました。
「・・・いつから、そこに・・・?」
「一時間くらい前かな」
「起こして下されば良かったのに・・・」
「あまりにも気持ち良さそうに寝ていたからな。ところで、体調はどうだ?」
すっかり良くなっています。
「大丈夫です!今日はありがとうございました。時間が時間なので戻りますね。では!」
寝顔をしっかり見られた恥ずかしさから、急いで部屋から出ようとしたのですが、魔力疲れがまだ少し残っていたようで上手く歩けません。
「待て、送ろう」
そんな私の様子に先生は笑いをこらえているようです。
「いえ、一人で大丈夫です」
「そんな状態だと、たどり着くまでに暗くなってしまうぞ。それに、途中でコケて怪我でもしたら大変だからな」
おっしゃるとおりです。
先生にコテージまで送ってもらうことにしました。
帰りながら灯りの魔法を教えてもらいました。
こちらは、火の魔法とは別の系統とのことなので、なんとか私にも出来ました。
ですが、今の私では手元を明るくするのがやっとで、先生のように道を明るく照らすことは出来ませんでした。