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○雑貨屋『デイジー』 前編

2020/05/28修正

 資料を頂いた時から気になっていた王妃様の雑貨屋『デイジー』に、休みを利用して皆で出かけることにしました。

 普段は交代で休みを取っているリズさん達ですが、デニスさんが、

「揃って出かける機会など滅多に無いだろうから」

と、三人揃っての休暇を許可してくださったそうです。

 侍女仲間と何度か訪れているメアリに道案内をお願いしました。 


 王宮の周りに広がる旧市街地を抜け、新市街地と呼ばれる地区にお店はあります。

 重厚な石造りの建物が多い旧市街地と比べ、新市街地は漆喰の壁の建物が多いようです。石造りの建物もありますが、旧市街地が白い石を使っているのに対して、こちらは蜂蜜色や薄いオレンジなどの色のある石を使っています。


 

「マリー様。あそこにある、看板に花の絵が描かれているお店が『デイジー』ですよ」

 蜂蜜色の壁に、緑の木製のドアと窓枠が印象的です。

 ドアには、四葉のクローバーの飾り窓が付いていました。

 

 ドアを開けると、カラランと心地良いベルの音がしました。

「いらっしゃいませ」

 若い女性の明るい声が店内に響きます。

 商品はメープル色の棚に陳列されています。スペースにはまだ余裕があるようで、この先、扱う商品を増やすことが出来そうです。

 一番の人気商品は天然石を使ったアクセサリーらしく、店内にいるお客様の多くが真剣に商品を選んでいました。

 先日提案した恋愛小説のコーナーがすでに出来ていたのには驚きました。



『それで、彼の誕生日に贈る物は決まったの?』

『それが・・・、なかなかいいのが見つからなくて・・・』

 

 リボンなどの小物が置かれているコーナーを見ていたときに、後ろの方から女性達の会話が聞こえてきました。


『ハンカチでいいんじゃないの?』

『いや、ハンカチはご近所のよしみで就職祝いとしてあげたから』

『ああ、幼馴染だったっけ・・・。じゃあ、手作りのお菓子は・・・・・・、無理か・・・』

『見習いだけど、菓子職人だからね』


「恋人に手作りのお菓子を贈るのは、普通の事なんですか?」 

 隣にいたメアリにそっと尋ねました。

「そうですね。“台所仕事が出来る”とアピールするためですね」

「料理ではダメなんですか?」

「料理となると家に招くか、相手の家に行って作ることになるので、結婚が決まったか、婚約した後になりますね」

「なるほど・・・」


『じゃあ、ハンカチはハンカチでも、最近流行っているイニシャルを刺繍して贈るのは・・・・・・』

『私が不器用なの知っているでしょ・・・・・・』

『難しいわね・・・。いっそ、本人に何かほしい物はあるか聞いてみたら?』

『せっかくだから、驚かせたいのよね・・・』


「ハンカチに刺繍をして贈るって・・・、親しい男性への贈り物としては普通ですよね」

 父親や兄弟はもちろん、婚約者とかには。

「いえ、それは貴族社会では当然かも知れませんが、平民にはそんな習慣ございません。それこそ、ここ最近流行りだしたことです」

「そうなんですね・・・」

 知らなかったです。


『・・・とりあえず、彼のお菓子に合いそうなお茶にするわ』

『それは良い考えね。デイジー(ここ)にはハーブティーが豊富だし』


 彼女達は数種類のお茶を買って帰って行きました。


「とりあえず、決まって良かったですね」

「本当に・・・。家族以外の男性に贈り物をすることなんてないので、私では思いつきもしませんでした。メアリはよく思いつきましたね」

 彼女達の会話を聞きながら、幾つか品名を挙げていましたからね。

「ええ・・・、まぁ・・・、友人達とそういった話はよくしますので・・・」


 メアリとリズさんはローズクオーツのペンダントを、ローラさんは香りのいい石鹸を、エミリーさんは恋愛小説を購入しました。

 私は、王妃様から頼まれた物は購入しましたが、自分の分は迷ってしまって、買うことが出来ませんでした。


 デイジーを訪ねた次の日は、王妃様の元でのお仕事です。


デイジー(お店)はどうでした?」 

 王妃様は、私が昨日購入したバラの香りのハンドクリームを早速お試しになりながら尋ねられました。

「明るい雰囲気の素敵なお店ですね。可愛らしい商品が多くて・・・・・・。そういえば、気になる会話をしていた女性がいらして・・・・・・」

 メアリと聞いた会話の内容を王妃様に説明します。


「市井ではお付き合いしている男性に手作りのお菓子を贈るのが定番で、最近はハンカチに刺繍した物を贈るのが流行っていると」

「ええ、そうらしいです」

「だけど、その女性はそのどちらも出来ないから悩んでいたのね」

「相手を驚かせたいので、本人に聞くことも出来なくてかなり悩んでいたようです」

「・・・・・・あなた達なら何を贈りますか?」

 王妃様はお側に控えている侍女達に尋ねられました。


「・・・すぐには思いつかないですね・・・」

「お守りのような物はどうでしょう?」

「相手がほしい物を贈ることが出来ればそれが一番なんでしょうけど・・・」


 侍女達も一生懸命に考えてくれましたが、結論はそうなってしまいます。


「本人に聞くのは無理でも、同じ男性の意見を参考にすれば良いのでは・・・?そうしましょう!」

 王妃様が何かを思い付いたようです。


「マリー!付いていらっしゃい」

「え?あ、はい」


 王妃様に半ば引き摺られる様にして連れて行かれたのは、エドワード様の執務室でした。


「失礼するわよ」

 王妃様、自らドアを勢いよく開けられて、室内へと入っていかれました。

 ドアの前に立っていた警備兼案内役の近衛兵を無視されて・・・。


「・・・一体何事ですか・・・?」

 エドワード様が少々不機嫌そうです。

 お仕事を邪魔されたなら当然でしょう。

「ちょっとね、アナタ達の知恵を貸してもらおうと思って。マリーのために」

「え・・・?マリー・・・?」

 私が王妃様の後ろにいたために、私の存在には気付かれていなかったようで・・・。王妃様から私の名前が出たことで初めて私に気付いたようでした。

 

「エドワード様。お忙しい中申し訳ございません。お時間があるときに改めてお伺いしますので・・・」

「いや、そろそろ休憩しようと思っていたところだったから、構わない」

 慌てて謝罪する私に対し、エドワード様は優しい言葉をかけてくださいました。

 その横で、小刻みに肩を震わせているサイラス様が気になりましたが。


 先ほど、王妃様のお部屋でもお茶を頂きましたが、コチラでも頂くことになってしまいました。

 エドワード様達の御休憩中にお邪魔してしまったので仕方が無いことですが。

 王妃様にお話したことをお二方にもお話します。


「・・・男性が恋人から貰って嬉しい物か・・・」

「在り来たりだけども、ハンカチに刺繍は嬉しいな。自分の事を想いながらしてくれた物だろうから。ただし、家族や婚約者意外からは正直怖いな。“まじない”がかかっていそうで。同じ理由でお守りもかな・・・・・・。で、どうして意外そうな目で見ているのかな?」

 私の視線に気付いたサイラス様が尋ねてきました。

「サイラス様でしたら受け取ると思っていましたので」

「いや、受け取らないよ。手紙の類は受け取ったりはするけれど。そういった物は“特別な人”でないと受け取らないから。友人としてなら実用的な物であればありがたく頂くかな」

「実用的な物ですか?」

「そう。仕事で使えて、値段も高くない物。俺の場合は手帳だろうか・・・。絵カードは栞代わりにも使えるから便利だな」

「それでしたら、私の場合は作業用の手袋でしょうか」

「あらあら、盛り上がっているわね。それで、エドワード、アナタはどうなの?」

 王妃様にからかわれてしまいました。サイラス様はお兄様のようなので気軽にお話できるのですよね。


「私ですか・・・。私はただのハンカチでも嬉しいですよ。それよりも、共に話をする時間のほうが嬉しいですかね・・・」

 しみじみと答えられるお姿に、普段の忙しさが伺えます。


「それよりも、私達の答えはその店の顧客の要望には向かないのでは?」

「それもそうだな・・・。市井の風習や流行ごとなど知らないしな」

 私もです。

「兵士達に聞いてみるのはどうだろうか?彼らの多くは貴族階級ではない一般の者達だから」

「文官の中にも兵士ほど多くはないが、そういった者はいるな。そちらにも聞いてみるか。それより、いっそ王宮に勤めている独身の者全員に聞いてみるか?」

「あら、それなら女性にも聞くのも面白いかもしれないわね」

 エドワード様の提案にサイラス様だけではなく、王妃様も乗り気です。


「では、早速、提案書を作成。陛下と宰相閣下に提出します」

「提案書作成と同時に、調査を始めても結構よ。陛下達には今から話してくるから。あ、マリーはもうしばらくこちらにいなさい」

「いえ、でも、お仕事の邪魔ですし・・・」

「いいのよ。息子エドワードも仕事ばかりで、偶には息抜きをさせないと。付き合わされるサイラスも可哀想だから。貴女がここに居ることで強制的に休憩を取らせることが出来るわ」

 王妃様の言葉にサイラス様が頷いていらっしゃいます。


 王妃様はすぐに陛下にこの件を話しに行かれました。

 そして、部屋に残されてしまった私ですが、どうすればいいのでしょう?サイラス様がいらっしゃるから、サイラス様にお話の主導権を握っていただきましょう。

 そう思い、サイラス様のほうを見ると、私の考えていることに気付いているのか、

「俺は、提案書と指示書を至急作成するから、エドワードに昨日の事を話してあげて。興味あるようだから」

と、少々イジワルな笑みを向けてきました。


 しばらく、エドワード様にデイジーのことを説明して、王宮内の自分の部屋に戻ったときにはかなり疲れていました。王宮内の部屋に泊まってしまうほど・・・。


 それから一週間後、調査の結果が集計までされて私の所へと届けられました。 


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