星に願いを(1)
11月下旬頃の話となっています。
久々に訪れた『デイジー』は、いつもと様子が違いました。
いつもは女性客で賑わっている店内ですが、今日は、半数近くが男性です。
「『冬の大流星群』が近いですからね」
流星群が近い事が、男性客が多い理由らしいのですが、よく分かりません。
「『星の加護』っておまじない、ご存知ないですか?」
「いいえ。エミリーさんは?」
「わたしも詳しくないんですよ」
星の綺麗な夜に、窓辺に願い事に関係する物を置いておくおまじないだそうです。
例えば、美しい髪になりたい時は櫛だとか。
星も、見える数が多ければ効果が大きいと言われているらしく、流れ星だとなお良いそうです。
昔から、流れ星に願い事をすると叶うと言われていますしね。
なので、今度の流星群が『星の加護』の効果が最も期待できるらしいのです。
「『星の加護』については分かりましたが、まだ、男性客が多い理由が分からないのですが」
「恋人への贈り物を買いに来られているのです」
『星の加護』のおまじないをした贈り物を贈り合うことが、数年ほど前から恋人達の間で流行となっているそうです。
「冬は他の季節に比べて行事が少ないですからね。さりげなくデートに誘う理由が欲しいんですよ」
言われてみれば、冬の行事で思いつくのは新年を祝うお祭りぐらいです。
「『冬の大流星群』は、他の季節の流星群と違って早い時間から多くの流れ星が見えるので、『流星群を一緒に見よう』って、誘えるんですよ」
他の季節の流星群は、真夜中を過ぎた頃から徐徐に増えるのに対して、冬の流星群は真夜中の少し前ぐらいが一番多く見られるそうです。
「納得しました。その時、渡すための贈り物を選びに来ているんですね」
と、エミリーさん。
「そうなんです。アクセサリーが定番となっているんですよ。男性のお客様の為に、お勧め商品を集めた売り場を作ったんですよ」
アクセサリーに使われている石の持つ意味の説明と、『星の加護』のおまじないの方法を説明した紙が置いてあります。
男性のお客様は、それを熱心に読んでいます。
「女性のお客様は、何を買われていきますか?」
男性には、何を贈るのでしょうか?
「革製の腕輪が人気ですよ。今なら、期間限定でお婆様が作り方の教室を開いていますよ。基本の材料のセットがあって、とても簡単なんです」
面白そうなので、エミリーさんと参加することにしました。
作り方は簡単で、基本は革ひもを三つ編に編んでいくだけでした。輪にするための端の部分をどの様にするかによってデザインが変わってきます。
「色々と応用出来るんですよ」
そう言って、見せてくださった作品は、革ひもに石を通して編んだ物や、色の付いた紐を一緒に編みこんだ物、紐の太さや本数を変えた物など数種類。
「どれも基本にちょっと手を加えただけですね」
エミリーさんが関心しています。
「教室に参加された方は、基本セットと追加の材料を買われて帰って行かれるんですよ。教室で作ったのは、お父様かご兄弟に上げるそうです」
元々は、髪飾りの時のように品薄になるのを避けるために考えた方法らしいのですが、かなり好評のようで、今後、定期的に教室を開くことを計画中だそうです。
お留守番のリズさん、ローラさん、メアリにお土産を買って、コテージに戻ると、ジェームス兄様が訪ねてきていました。
「明後日から、2週間ほど王都を離れることになったから、伝えておこうと思って」
「では、これをお兄様に差し上げます」
先ほど作った腕輪を渡しました。
「これは?」
「わたしの手作りです」
意外そうな顔をしているお兄様に、腕輪を作ることになった経緯を話しました。
「ふ~ん。『冬の大流星群』に『星の加護』か・・・。そう言えば、大陸の西の国では、流星群の頃にお祭りがあったはずだ。星が関係していたのは確かなんだが・・・。詳しいことは忘れた」
「興味深そうな話なのに・・・」
残念です。
「すぐに調べてやりたいんだが、旅の準備で忙しくて無理だな。代わりの者に頼んでおくから・・・。あまり頼みたくは無いが、仕方が無いか・・・」
仕方が無いって・・・、よっぽど頼るのが嫌なのでしょうか?いったいどなたに頼むのでしょう?
***************
「エドワード、兄上から伝言だ」
「はぁ~~~」
ロジャーの一言に、大きなため息が出てしまった。
最近、仕事がかなり忙しかった。
原因は、ロジャーの兄ジェームスから上がってきた報告書。
西部の王国領にある古城の調査の報告書だけでなく、主がいなくなり、今は王国の管理下に置かれているベントリコーサ侯爵領についての報告書。これがかなりの枚数になる。
処理済の報告がほとんどだったが、すべての報告書に目を通し、サインをしなければいけない。
最近は、マリーとも会っていない・・・。
仕事の合間、気晴らしにコテージに行こうとすると、ジェームスがやって来たり、コテージに行ってもマリーが留守だったり。マリーと会うことを邪魔されているようだ・・・。
やっと、報告書すべてのサインが終わり、明日からはジェームスが出張でしばらく王都を留守にすると聞いて、久々にマリーに会えると、ひそかに喜んでいた時だった。
「それで、用件は?」
仕事なら、サイラスとロジャーも巻き込んでやろう。
「『大陸の西の国で、冬の流星群の時期に行われる祭りについて』調べて欲しいそうだ。本当は、兄上自身が調べたかったらしいんだが、明日から出張だろ。少々、急ぎの用件らしい」
「で、何故、俺が調べることになるんだ?」
「『庭園を散策することで暇をつぶすよりは有意義だろう』と、言っていた」
これで、またしばらくマリーと会えない。
「この件の報告は、兄上ではなくマリーにしてほしいそうだ。エドワードが忙しかったり、休みが欲しいのであれば、代わりに僕かサイラスが調べるつもりだけど・・・」
「いや、俺が調べる!」
サイラスとロジャーの手は借りない。
「そう言うと思った。それじゃあ、伝えたからね。よろしく」
ロジャーが部屋から出て行った後、自然と口元が緩んだ。
堂々とマリーに会う理由が出来た。
俺は、早速図書室へと向かい、西の国について書かれている本を探すことにした。
現実世界の季節は夏ですが、物語の流れから冬の話となりました。




