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○王妃様のお誘い

2018/4/13 加筆・修正しました


 お父様と一緒だったのは、王宮の玄関ホールまででした。

「じゃあ、仕事があるから」

と、お父様はさっさと別の棟へと行ってしまいました。


 私は、王妃様付の侍女に案内されて、王妃様専有区域の応接室へ。

「ローズマリー様がお見えです」

 侍女に促されて、中に入ると

「マリー、いらっしゃい。待ってたわ~」

 いきなり王妃様に抱きつかれました。

 そして挨拶する暇も無く、ソファへと案内というか、連行されました。

「堅苦しい挨拶はいらないから」

と、言われてしまいましたので、

「リーリア様、お久しぶりです」

とだけは言いました。


 王妃様はうふふと笑って、

「卒業おめでとう。卒業式はびっくりしたわ。マリーが卒業生代表挨拶だなんて」

「成り行きでそうなってしまいました」


 元々挨拶するはずだった人は、極度の上がり症で、緊張するとお腹の調子が悪くなるらしく、国王陛下の前での挨拶は絶対無理だと辞退したのでした。

 代理を誰にするかで卒業生で投票した結果、私が選ばれました。

 伯爵家という理由からでしょう。

 

「そういえば、体調はもうよろしいのですか?」

 王妃様が卒業祝賀会を体調が優れないという理由で欠席されていたことを思い出し、尋ねました。


「ああ、具合が悪かったわけではないの。ダスティ学長からマリーの卒業後の待遇が決まってないと聞かされたから、確認のため一足先に戻ったの。主催者の陛下が欠席するわけにもいかないでしょ。それに、わたくしも直接担当者に理由を聞きたかったから」

 学長が陛下に文句を言ったという噂は、どうやら本当のことのようです・・・。


「貴女のお母様から、植物学を専攻していたと聞いているのだけど、具体的にどの様な事を学んだのか、教えてもらえないかしら?」


「植物に関する全般です。花はもちろん、野菜・薬草・果樹などの栽培方法から、品種改良まで。植物の特徴を生かした造園についても学びました。とても興味深いものばかりでした」

「植物関係ということは、やはり伯爵家(おうち)の影響?」

「それもありますね」


 我が伯爵領は、王国一の花の生産地です。

 何代か前のご先祖様が花好きの奥方のために珍しい花を収集したのをきっかけに、花の研究が盛んとなり、品種改良や新しい栽培方法の確立などで、気がつけば質・量ともに王国一となっていました。

 王都の我が家の庭園は、王国二番目のすばらしさです。

 一番はもちろん王宮ですが、庭師はうちの領地で修行した人たちだそうです。

 そんな環境で育てば自然と花にも興味を持つのですが、一番のきっかけは、お祖父じい様がお祖母ばあ様に自ら品種改良した薔薇でプロポーズした話を聞いたからです。


 嬉しそうに話すお祖母ばあ様を見て、わたしもそんな風にプロポーズされたいと思ったのですが、品種改良って難しいのです。

 数年では出来ないです。

 お祖父様のだって、曾祖父ひいじい様から引き継いだのを完成させたものだったらしいですし。(曾祖父様七割、お祖父様三割ぐらい)

 ならば、自分が結婚して子供が出来、その子が結婚するときに、男子だったらプロポーズするために、女子だったらお嫁入りの品として使えるように品種改良をする!と、決意したのが13歳のときでした。


 貴族女学園を16歳で卒業した後、領地のお祖父じい様の元で学びたいと、お祖父じい様に相談したところ、 

「どうせなら王立大学に進学しなさい。品種改良だけでなく、色々なことを学ぶことが出来る」

と、言われました。

 

 王立大学に進学して、植物について幅広く学んだほうが私には良いとお祖父じい様は考えられたようです。

 お祖父じい様から渡された本、

『花の香りの癒し効果』『庭園設計~憩いの空間の作り方~』『ハーブのある暮らし』

は、とても面白い内容で、これらの著者が王立大学の教授や講師をされているとの事でした。


 この方達から直接教えを受けることができる機会を得るためには、王立大学を受験し、合格するしかありません。


 女学園時代の3年間は、放課後は図書室にこもって勉強しました。

 貴族女子で王立大学を受験した人はこれまでいなかったため、情報量が少なく、先生方も色々と協力して下さいました。

 私が大学に合格した時は、先生達のほうが感動して泣いてました。



「マリーはこれからどの様にする予定なのかしら?」


「そうですね・・・?私としては、せっかく学んだ知識を活かしたいので、領地に戻ってお祖父じい様のお手伝いをしたいのですが・・・・・・。お母様次第でしょうか?」


 それを聞いた王妃様の瞳が一瞬キラリと輝いたような気が・・・・・・。


「それなら、私の元で働かない?手入れはしてもらっているのだけど、造った当時のままで、最近はあまり訪れていない私専用の庭園があるの。そこの管理と、改装をお願いしたいの。それだけでは、貴女のお母様を説得できないでしょうから、私の仕事の補助サポートを主な仕事という事にしておいて・・・。仕事の内容は難しくはないから、マリーなら大丈夫よ。そうね、毎日通うのは大変でしょうから、部屋も用意するわ。庭園にコテージがあって、そこをリフォームすればいいでしょう。お給金などは他の王立大学卒業の方と同じぐらいでいいかしら?」


 王妃様からのお誘いは、とても魅力的なものです。

 

「実際に見に行きましょう」

そう言って、王妃様自ら庭園へ案内して下さいました。侍女と女性近衛騎士の護衛を引き連れて。



 王妃様専用庭園は、思っていた以上に広かったです。

 街の広場がすっぽり収まってしまうぐらいの長方形。周りを低木の生垣に囲まれていて、各辺の真ん中あたりに入り口があります。長い辺に沿って花壇があり、中央は芝生の広場。短い辺の一方に温室、もう一方にコテージが建っていました。


 コテージもなかなかの大きさで、2階に個室が5部屋。小さめの2部屋は中でつながっていて、寝室と書斎として使えそう。浴室も付いていました。

「こちらの部屋をマリーの部屋にしましょう」

残りの部屋は少し広めなので、

「こちらの部屋は広いから、女性の庭師を三人と侍女一人を二人一部屋で使用して、残りの一部屋は客室として残しておきましょう。設備が安全に使えるか確認と、家具を運びこむのと、やることが結構あるわねぇ。それから、作業する服はどうしましょう。せっかくだから女性らしくかわいいのがいいわね。これは早速仕立て屋を呼んで、デザインを決めなければいけませんね」

 王妃様はどんどん一人で話を進めて行きます。


 私としては、この環境が気に入ったので、出来れば働きたいのですが、

「一応、父と母に相談してみないことには・・・」

お父様はともかく、お母様が許してくださるか・・・。

大学に進学する時も、『婚期が・・・』と心配していましたから。


「それなら大丈夫よ」

と、王妃様は自信ありげにおっしゃいました。


 王妃様が用意して下さった馬車で自宅に戻ると、実家に帰っていたお母様が帰宅していました。


 熱を出したお祖母様を心配して、お祖父様がお母様を呼んだらしいです。大袈裟なんだからとお祖母様は笑っていたそうで、季節の変わり目で、ちょっと体調を崩しただけだったそうです。父方も母方もとても愛妻家なお祖父様たちです。


「リーリアに呼び出されていたの?」

 私が乗ってきた馬車の紋章を見てお母様が尋ねてきました。

 お母様と王妃様は友人同士でした。


 王妃様から預かってきたお母様宛の手紙を渡しました。

 手紙には王妃様の提案、私を王妃様の補助サポートとして王宮で働かせたいといった事が書かれています。


「マリー。貴女はどうしたいの?」

 手紙を読み終えたお母様が尋ねてきました。


「私は、できれば王妃様の元で働きたいと思っています」

 大学で学んだ知識を、あの庭園に活かしたいのです。


「それなら、仕方がないわね・・・。リーリアにも何か考えがあっての事でしょうし・・・」

と、あっけなく許可が下りました。

 お父様も同様でした。

 王妃様にはお父様が伝えることになりました。


 二日後、再び王妃様に呼び出されました。

 通された部屋には、仕立て屋が待機していました。

「デザインは決まっているから、採寸ね。それから、この前言っていた女性の庭師を紹介するから」

 かなり細かく採寸され、その後、王妃様庭園へ。


 そこにはきれいな女性が三人。庭師の方たちです。

「よろしくお願いしますね」

「はい、精一杯お手伝いいたします。ローズマリー様」

 三人の庭師さん、リズさん、エミリーさん、ローラさんが丁寧にお辞儀をしてきました。


「あの、そんなに改まらないで下さい。私の技術はまだまだなので。それと、私のことははマリーと呼んで下さい」

 そうお願いすると、

「それでは、これからはマリー様とお呼びいたしますね」

と、微笑んでくれました。


「コテージで暮らせるよう準備が整ったら連絡するから、それまでは親孝行でもしておいてね」


 王妃様のお言葉通り親孝行、お母様によるダンスとマナーのレッスンの日々となりました。 



 

 

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