◯魔法披露
2020/06/26 加筆修正 サブタイトルを『ある一日』から変更
しばらくは出来ないと思っていた庭園の仕事でしたが、シオン先生が忙しくなったため、十日ぶりにお仕事が出来ます。
私がいない間、リズさん達だけではなく庭師の皆さんも色々と手伝って下さったようです。
コテージを囲む塀が完成していました。
塀は、コテージの壁の石の色に合わせて、白の木製です。高さは1メートルくらい。
塀に沿ってコテージ側にはつる性のブラックベリーを植えることにしました。株元にはしばらくは季節ごとに花を植え替えて様子見です。
庭園側にも小さな花壇を造って、花を植えるの予定なのですが、植えたい植物の種類が多くて悩んでいます。
素敵な門扉も造られていました。金属製の把手に小鳥の飾り付きです。
門扉からコテージ入口までの石畳の小道も出来上がっていました。
この道沿いには、草丈の低い香りの良い植物を植える予定です。
今日の作業を頭に思い浮かべながら、庭に出ます。
「・・・・・・」
ここ数日、朝は急いで薬草園に行っていたし、帰りも薄暗くなっていたから、庭の様子をじっくりと見る事がありませんでした。
久々に見た庭は、
「ほとんど出来上がっているじゃない・・・」
私が図面に描いていた庭がほぼ出来上がっていました。
なんでも、ここ数日、私がシオン先生の指示で魔法で芝生に雨を降らせたり、土を耕したりしていたことで、庭師さん達のお仕事がはかどったらしく、空いた時間をこちらの作業へと変更して下さったそう。
「石を運んで貰うだけの予定だったんですけどね、その他の作業も手伝って貰えたので、助かりました」
と、リズさん。
以前はヒモで周りを囲っていた菜園やハーブ園の周囲は、レンガで縁取りされていました。
このレンガは、置いているだけらしいので、畑を広げたくなった時はすぐに外せるそうです。
芝生を剥がして、むき出しになっていた地面にはウッドチップが敷き詰められています。
一角にはレモンの木も植えてありました。
コテージの裏も同様。あとは植物を植えるだけでした。
「植物は親方が手配していますので、数日中に作業が出来ると思います」
仕方がないので、作業ついでにリズさん達に覚えた魔法を披露することにしました。
庭園には、コテージの周囲を優先したため、まだ手付かずの場所が残っています。
芝生の広場で雨の魔法を。
咲き終えた一年草を取り除いた花壇では、魔法で土耕しました。
風の魔法を披露すると、
「落ち葉の季節の掃除が捗りそうですね」
と、言われました。
シオン先生が言っていた、私が薬草の世話をすると品質の良い物ができることを話すと、
「では、野菜などの食べ物系の植物の世話は、主にマリー様にお願いしてよろしいでしょうか?」
と、言われてしまいました。
その代わり、除草作業はリズさん達の担当です。
コテージ周りの作業が予定よりかなり早く出来上がりそうです。
温室と残りの庭園部分をどうするのか。
コテージ周りの作業と同時進行で行う予定だった図面作りに早速取りかからないといけなくなってしまいました。
大まかな完成予想図はいくつか頭の中にあるのですが、どれもまだ中途半端なのです。
午後のお茶をしながら、四人とこれからの庭園の作業について話しをしていると、明日の昼食後、王妃様の部屋に来るようにとの連絡がきました。
今後の庭園のことについて、王妃様にも相談することにしました。
「マリー、あなた魔法が使えるようになったんですって?」
王妃様からの第一声がそれでした。
「シオン魔術庁長官からの報告書を読んで驚いたわ」
「はい、色々と制限はありますが」
植物が近くに無いと使えなかったり、植物関係の事以外にはあまり役に立たなかったりと、微妙な魔法です。
「でも、とても興味深い内容よ。このことを切っ掛けに、さらに魔力についての研究が進むでしょう」
王妃様からの色々な質問に答えていると、
「準備が整ったそうです」
王妃様付きの侍女から、そう告げられました。
「そう、では、行きましょうか」
にっこりと微笑まれた王妃様のあとに付いていくと、到着した場所は国王陛下の執務室でした。
そこには、当然のように宰相様、エドワード様とサイラス様がいらっしゃいました。
そして、シオン先生も。
「今、彼からこの報告書について説明を受けていたところだ」
陛下達のそれぞれの手元に、その報告書がありました。
「では、本人に早速試して貰いましょう。現在、この部屋には植物がございませんので、彼女の魔力の量は僅か、従来の測定具では測れません」
テーブルの上には水晶玉の測定具が置いてありました。
先生の視線が、これに手をかざすように言っています。
言われたとおりにしました。もちろん光りません。
「では、こちらの測定杖で測定しましょう」
渡された杖の金属部分を持ちます。僅かに赤く光りました。
「報告書にも書きましたが、この杖では、人が持っている僅かな魔力も測定することが出来ます。ですが、この程度の魔力では魔法を使うことは出来ません。では、植物をこちらに・・・」
入り口に控えていた魔術庁の制服を着た男性が、部屋の外からバラが生けられた花瓶を持ってきました。
「では、再び測定します」
杖お金属部分を握ると、今度はオレンジに光りました。黄色がかったオレンジです。
「では、テーブルの測定具で」
水晶玉に手をかざすと、光りました!!
これには、室内にいた皆さんが感嘆の声をあげました。
「では、ローズマリー嬢。バラの花に触れて貰えないだろうか」
「・・・え?あ、はい」
先生に敬称付きで呼ばれたので、反応が少し遅れてしまいました。
デニスさんが選んで下さったのでしょうか?
色だけではなく形も様々なバラの花が生けられていました。
その内のひとつ。もっとも香りが華やかな花を選んで触れました。
香りが部屋中に広がったようで、入口付近に立っている従者や侍女達も驚いています。
今度は、バラの蕾に触れます。
ゆっくりと蕾が開いていきます。そして、先ほどとは違った香りが広がりました。
「驚いたな。他の魔法、特にこの雨の魔法が見たいな」
陛下がおっしゃいます。
「これは、かなりの魔力が必要となるので屋外で植物が多い場所でなければ難しいですね」
「では、改めて時間を設けて見せて貰おうかな」
陛下と宰相様、そして王妃様は、後日改めて披露することになりました。
エドワード様とサイラス様は、
「庭園の進捗状況を確認したいのだが、そのついでに見せて貰おうか」
とのことでした。
「こちらとしても丁度良かったです。相談したいこともありますので」
準備等があるので、1時間後に庭園に来ていただくことになりました。
1時間後。エドワード様とサイラス様がいらっしゃいました。シオン先生も一緒です。
エドワード様とサイラス様が庭園にいらっしゃるのは久しぶりです。
シオン先生もハーブの植え付けが終わった直後以来ですので、ほぼ出来上がった庭を見て、驚いています。
皆さんをテラスの席に案内します。
「植えたばかりなので、まだ寂しいですが」
野菜もハーブも少し成長したぐらいです。
「ローズマリーが世話をすれば、すぐに大きくなるだろう。植物の成長を意識して手入れをすれば、通常よりも早く大きくなるはずだ。試してみるといい」
試した結果をシオン先生に報告することになりました。
メアリがセイラさんから頂いた、ハーブティーを入れてくれました。
「それで、相談したい事とは?」
「そうでした。温室と残りの庭園部分についてなのですが・・・・・・」
まず、予算がどれくらい取れるのか。今回かかった費用も気になります。それによって、作業計画を立てる予定です。
あと、どの様な庭が好みなのか、エドワード様とサイラス様にも意見を聞いてみたかったのです。
そういえば、王妃様に相談するのを忘れていました。
「庭か・・・。子供の頃はいい隠れ場所だったよな・・・」
サイラス様が呟きました。
エドワード様はサイラス様の言葉に頷いています。
シオン先生は、たぶん私の魔力を観察しているのでしょう。私の頭上を見つめています。
「マリーはどのような庭にしたいのかな?」
「そうですね・・・。今、考えているのは、物語にでてくるような庭ですね」
子供の頃に読んだ絵本の風景がとても印象的でした。コテージの庭は、その絵本を参考にしています。
今までに読んだ本にも多くの印象的な風景がありました。それをぜひ、庭に再現したいと思っているのです。
「エドワード様もサイラス様も、子どもの頃のお気に入りの本があったら貸して下さいね。何か参考に出来るかもしれませんから」
「そうだな・・・。今度の休みにでも探してみよう。では、俺は用事を思い出したから先に戻る」
「私も調べたいことがあるので戻ります」
サイラス様とシオン先生は帰って行かれました。
メアリが、「新しいお茶をお持ちしますね」と、コテージに入ってしまったため、エドワード様と二人きりになってしまいました。
何を話題にすればいいのか分からず、無言になってしまいます。
「・・・ブレスレット、着けてくれているんだね」
「はい。なかなか着ける機会が無くて・・・。やっと着ける事が出来ました」
これは、エドワード様から頂いた物。とても素敵で気に入っています。
「本当は、毎日着けていたいですけどね」
汚すの嫌だし、無くすのはもっと嫌です。だから、今日みたいに作業が無い日に着ける事にしています。
嬉しそうに微笑むエドワード様と目が合いました。
「早く成長してくれないかしら・・・」
庭に目をやるフリをして、エドワード様から目を逸らします。
エドワード様の優しい視線を感じますが、気付かないフリをします。
「温室を案内してくれないか?」
挙動不審であろうわたしに、エドワード様が声を掛けてきました。
「そうですね!今、どんな状態か見て頂いたほうが・・・」
目を逸らしたまま返事をするのは失礼なので、エドワード様の方を見ると、しっかりと目が合ってしまいました。
先ほどよりもさらに素敵な笑顔でこちらを見ています。
顔が熱くなります。私の顔はたぶん真っ赤なのでしょう。
「・・・案内しますね・・・」
お茶を持って来てくれたメアリに、「後で頂くから」と言い残し、エドワード様と温室に向かいました。
温室を案内している間、顔の火照りが治まりませんでした。




