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○久々の我が家

2018/04/10 改稿しました。

2020/06/05 サブタイトル変更

 花の香りを運んでくる風はまだ少し肌寒いけれど、暖かな日差しが春の訪れを感じさせてくれる三月の下旬の昼下がり。


「ローズマリーお嬢様、お帰りなさいませ!」


 約三ヶ月ぶりに伯爵家我が家の玄関ホールに足を踏み入れると、使用人達に盛大に出迎えられました。


「お嬢様がこの様な事は好まないのは承知しておりますが、今回ばかりはご容赦下さい」

 長年、伯爵家うちで執事をしているヘンドリックに謝られてしまいました。


 ヘンドリックの言うとおり、大勢で出迎えられるのは苦手です。

 皆さん、お仕事があるのに私の出迎えで中断させてしまうのは忍びないのです。

 いつもはヘンドリックと数人の侍女が出迎えてくれるのですが、本日は十数名はいるようです。


「ここに居るものは皆、休憩中か本日休みの者ですので」

 私の考えを知ってか、ヘンドリックが説明してくれました。ですが、休憩中と休日なら尚更、しっかりと休んでほしいのですが・・・。

「皆が是非、お嬢様をお出迎えしたいと言うものですから・・・」

 そう言って、ヘンドリックがホールにいる使用人達の方を見ると、


「「「マリーお嬢様。王立大学、ご卒業おめでとうございます!!」」」


 使用人達が一斉に言葉を発しました。


 彼らは、私にお祝いの言葉を言うためだけに待っていたというのです。

 皆にお礼を言い、『休日を返上する必要は無いのに』と、言うと、『一刻も早くお祝いを述べたかったので』と、ホールにいた皆に言われてしまいました。



 数日前、4年間通っていた王立大学を卒業しました。

 王立大学は、身分や貧富など関係なく優秀な人材を育てるために設立された、ミルトニア王国の最高学府です。

 王国中の優秀な人材を集めるために、入学試験はかなり難しいです。

 その試験に努力の甲斐あって、無事合格したのでした。偏ひとえに尊敬する植物学者の先生から直接教えを請いたかったからです。


 合格したことを両親は喜んでくれました。

 入学することにお母様が少々不満そうでしたが、それは仕方が無いことだと思います。

 何しろ、貴族階級の女性が王立大学に合格・進学するのは初めてのことだったのですから。


 男性は今までに何人かはいました。私の次兄のロジャー兄様もその一人です。

 王立大学を卒業した方は身分・性別に関わらず、王宮や国の研究機関・施設に優先的に就職できます。

 平民の方でも、それなりの出世は約束されています。

 次男とはいえ貴族階級のロジャー兄様は、卒業と同時に男爵位を賜り、同年代の王宮勤務の中では出世頭とか・・・。


 王立大学設立以来“初”の貴族階級女性卒業者となった私はというと、今のところ(・・・・・)特に何もありません。

 一応、議会で私の処遇について議題に上がったこともあったそうなのですが、まだ、何も決まっていないそうです。卒業式の日に学長から伝えられました。

 このことについて、学長が卒業式に出席されていた国王陛下に文句を言ったという噂が・・・。


 そんな訳でこの先何をするか特に決まっていない私は、大学在学中の4年間、疎かになっていた(?)“女主人教育”をお母様によって行われることになっています。領地経営の補佐などは興味があるので楽しみですが、社交はちょっと不安です。お茶会は何とかやっていけそうですが、夜会は出来れば遠慮したいなぁ・・・。参加はしますが、踊るのはちょっと・・・。


 大学の寮から持って帰ってきた荷物は、衣装が入っているトランクだけ荷解きしてもらいました。

 他は急ぐこともないので明日以降にしてもらい、ゆっくりとしたかったので、自室に一人にしてもらいました。


 王立大学は、王都から馬車で二時間ほどかかる学園都市にあります。

 王都の屋敷から通うのは大変なので大学の近くに家を借りることも考えましたが、設備の整った女子寮があったので、寮に入ることにしました。

 食堂もありましたし、洗濯も寮でやっていただけることになっていたので、あらゆる事が初体験の私でもやっていけました。

 慣れてきた頃には、偶にですが自分でも料理をするようになりました。寮の個室には小さなキッチンが備え付けられていましたし、共同の広いキッチンもあったので、時々友人となった方達と一緒に料理を作ったりもしました。


 昨夜は共に卒業する友人達と、寮に残る後輩達と一緒に寮生活最後の日を満喫しました。

 卒業したら、会うことはあっても、今までの様に気軽に話すことは出来ないと思い、ずいぶん遅くまで語りあっていました。

 おかげで寝不足です。ですが、悔いはありません。


 寮の程よい広さの部屋に慣れてしまったせいか、久々の自室は他人の部屋の様に感じでしまい落ち着きません。

 ですが、寝不足と馬車に二時間揺られて疲れている所為か、いつの間にかソファで寝てしまっていたようで、気付けば空が茜色に染まっていました。


「マリー。ちょっと、いいかな?」

 ドアをノックする音と共に、お父様の声が聞こえました。

 ドアを開けると、王宮のお仕事から帰ってきた姿のままのお父様が立っていました。


「マリー。卒業おめでとう。それからお帰り」

 お父様にぎゅうっと抱きしめられました。

「卒業祝いの晩餐をしたいところなんだが・・・」

「ヘンドリックから聞いています。お婆様が体調を崩されたって」

 お母様方のお婆様が風邪をひかれたそうで、お見舞いのためお母様は実家に戻られているとのことでした。 

 長兄のジェームス兄様もお仕事で王国内のどこかの王領地に行っているそうです。

 次兄のロジャー兄様もここ数日、忙しくて帰りが遅いそうです。


「それに、私も久々の馬車旅で少々疲れていますので、お母様が帰ってきてからで構わないですよ」

「ああ、すまないね。それから、急かもしれないが、王妃様がマリーに会いたがっている」



 王妃リーリア様の実家であるサザランディー公爵家は、我がヴェニディウム伯爵家とは親戚関係です。

 さらに、お母様と王妃様個人が女学生時代友人だったこともあり、リーリア様が王太子妃だったころにはお母様に連れられて何度か王宮に遊びに行った記憶があります。

『マリー。これ着てみましょうね』

 そう言って、色々な衣装を着せられましたっけ・・・。

 かなり可愛がっていただきました。



「卒業式以降、『いつ帰ってくるの?』と聞かれていてだな・・・、うっかり今日帰ってくると言ってしまったものだから『では、明日、連れてきてね』と言われてしまった。どうする?疲れているようだったら日を改めてもらうが・・・」


 先日の卒業式には王妃様も出席されていたけれど、その後の陛下主催の卒業祝賀会には欠席されていました。

 気分が優れなくて欠席したと、その時は聞いていたのだけど・・・。


「明日ですね。わかりました」

 王妃様が急ぐには理由があるのでしょう。それならば、早いに越したことはありません。

 私の返事にお父様は心配しながらもホッとしたようでした。


「ヘンドリックが夕食の仕度が出来たと言っていたな。私は着替えてくるから、マリーは先に行っていなさい」


 お父様に言われるまま食堂に行くと、昼間とは別の使用人達にお祝いの言葉を述べられました。


 今日の夕食は、私の大好物ばかりでした。 




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