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昔々、この世界が神や悪魔、鬼たちが人が交じり混沌としていた時代。

同時に数え切れない程の悪神や邪龍が世界を跋扈し人々を苦しめていた時代。

いつの頃からだろうか。

正確な事は伝えられていないが、何処からともなく現れたプレイヤーと呼ばれる者たちが人々を救ったと言われる。

彼らの力は凄まじく、剣の一振りで大岩を割り邪竜を斬り裂き、攻撃魔法は一撃で悪魔の軍団を薙ぎ払い、癒しの魔法は破損した部位を一瞬にして再生し、死者をも蘇らせたと言われる。

プレイヤーの中でも圧倒的と言えるほんの一握り上位に属する者たちは神に近い者、拝人はいじんプレイヤーと呼ばれていた。





っとまぁこんなところなのですが………………拝人って廃人の事ですよね?

漢字が違うだけで聖人扱いされてるのは何故です?確かに廃人プレイヤーはゲームに生活やら人生やら時間やら魂やらまで注ぎ込む、一種の勇者かわりものですが。

なんか違うです。

それは決して尊敬されるものじゃないのですよ。




「ほほぅ、それは楽しかったねぇ。あたしの一押しは聖獣の友エカテリーネ様かね。昔のあたしにそっくりなボッキュボンの獣人の美女だったらしいよ」


……あの人そんな小っ恥ずかしい二つ名付けられていたのですか。

知り合いです。いえ、もしかしたらそっくりさんかも知れないのですが。

わたしが知っているエカテリーネ姉さんは武器である鞭が似合う金髪巻き毛のゴージャス美人の獣人族で、裸同然のスケスケした服から見える煽情的な尻尾が特徴の、ズバリ悪女ドエスなのですよ。

因みに現実リアルは36歳のバツイチ会社員男性。

ゲームでは、ダイナマイツボディにふらふら寄ってくる男共を弄び深みに嵌まらせた後で、最後に盛大に性別をバラし、絶望の表情を見て嘲笑う歪んだ思考の持ち主。ふん。だからバツイチになるのですよ。

……あれ?じゃあ何故わたしはこんな人とお友達になったのです?…これも男運の悪さですか?

それに聖獣じゃなくてあの人のティムした殆どが悪魔系ですよ?鞭を振りながら調教される悪魔や猛獣ついでにプレイヤーを遠目からビクビクして眺めていたものです。



「えー、やっぱ俺は巨人族の剛拳無双!キングストロングの方が断然カッコいいよ。拳は天を裂き蹴りは大地を砕くってね!おっさんは?」


……またもや知り合いでしたか。取得する殆どのスキルを全て戦闘系にした凄い人です。

攻撃は最大の防御!がモットーで、戦士なのに防御系は農家のわたしと同じか下手したらそれ以下。(笑)でもさっきトム君が言ったフレーズは誇張ではなく、攻撃力だけならば多分シャングリラトップクラスだった筈でなのす。

現実リアルでは身長155センチのフリフリワンピースが似合う可愛らしい小学…いえロリ……いえいえ女子大学生のお姉様。ゲームで巨人族の筋肉ムキムキアバターが、フィールドで無双するのを見る度になんとも言えない気持ちになったものです。



「だからおっさん言うな…そうだな俺は二つ名しか伝えられてないが赫い死神だな」


…ほぇ?


「種族性別不明の謎の人物。唯一分かっているのは見事な赤髪と巨大な鎌のみ。強力な従者を従え、身の丈もある赫い鎌の一薙ぎで一瞬にして敵の首や胴体を切り離し瞬殺する事から、死神と呼ばれているプレイヤーだ」


…………ほ、ぇー……。



な、なんかそのフレーズって聞いたことがあるようなないようなでもやっぱりあるようなぁー?

いえいえ、大きいけどあれってば首斬り鎌じゃなくて草刈り鎌ですし、武器じゃなく農具ですし、何よりわたしは無害なファーマーなのですよ。

よってわたしには関係ないのですよ。は、ははは。

聞き覚えのある二つ名に内心汗がダラダラ出ていたわたしの横から大きなお腹を抱えたリズさんがお盆を手に持ち歩いてくるです。

何か怒らせたですか?あ、あれはお盆チョップの構えなのです。

お盆チョプは縦にしたお盆をそのまま脳天へと振り落とす恐ろしい技なのです。



「あんた達!何で豊穣の聖女様の名前が出てないんだい」

「豊穣の聖女様は別だって!だから母さん、お盆!お盆降ろして!」

「そうじゃそうじゃ。この国に住む者で聖女様を敬わん奴はおらんわい」

「常識だな。リズ先ずは落ち着け」

「豊穣の聖女様、ですか?」


ほぇ。また知り合いなのです?


「ええ?ファム姉ちゃん知らないの、ってゴメン!」


吃驚した顔で言ったトム君が思い出したのか両手を合わせ直ぐに謝ってきました。

うん、ゴメンなさいです。わたしは記憶喪失じゃ無いのです。知ってて当たり前なのか周りも驚いた目と申し訳なさ気でこっちを見ている目が。うう、ゴメンなさい、ゴメンなさいです。見ないで下さい、嘘をついてないのにわたしの良心がザクザクと掘られていくのですよ。

皆様に土下座したい気持ちを押さえ込みながらもトム君に教えて欲しいとお願いすると、大人に教えるのがちょっとだけ嬉しいのかどこか得意げな様子で説明してくれたのです。




今から約二百年以上前、この国を未曾有の大干ばつが襲う。

水は干上がり大地は乾き作物も育たない状態に人々は餓え、カサカサに乾いた大地で死を待つばかりだった。

しかしただ一ヶ所だけ緑豊かな大地があった。草木が青々と育ち果実や作物がたわわに実り花々が咲き乱れる楽園。名も伝えられていない拝人の一人が所有する恵みの大地とそれを護る三人の守護者達。

時の王は守護者たちに、どうか飢餓で苦しむ人々の為に実りを譲って欲しいと懇願するも、しかし守護者達は難色を示した。

この大地は主のもの。しかし多くのプレイヤーと同じく主は不在でいつ帰るか分からない今、実りは一度収穫してしまうと次に芽吹くことなく大地は眠ったままになってしまうのだと。


沈黙が続いた後、やがて守護者の一人が口を開いた。

主は心清らかで慈悲深く女神のような方、この状況を知れば心を痛める事でしょう。

元々主は人々の笑顔の為にとこの大地を育てられていました。

…分かりました、お譲りしましょう。

そして、この地は眠りにつくでしょう。


いつか主が帰ってくるその日まで



そうして譲り受けた実りは、人々に分配され命を繋いだ。

それは今まで食べたことが無いほど濃厚な蕩けるような素晴らしい味で、一口食べるだけで空腹が満たされ恍惚となり、二口食べれば力が漲る、正にこの世の物とは思えない物だったと伝えられた。



そうして人々を救った大地は眠りにつき、何時しかその地の主を豊穣の聖女と呼ぶようになったという。






素敵な昔話ですが…………味は兎も角、わたしが作ってたのは某猫仙人が持っている豆的なものです?



いえ、お野菜なんていつでも作れるし、わたし以外どうでもいい精神のファミリーたちに良く譲りましたと褒めたいのですが、そこで何故わたしが思いっきり神格化しているのです?聖女?


そんなことを言うファミリーの一人に心当たりがあるですよ。きっと犯人はシリルなのです。

シリルは智謀や詭計多端きけいたたん といった知能系スキルを数多く持っていましたから。

いや、付けたのはわたしですが反省はしていないのですよ!(キッパリ)

だって萌えるじゃないですか。

シリルの職業は執事。執事とは物腰は洗練され優雅でパリッとした汚れ一つ無い服を着こなし、主人に絶対服従、側からから離れずその智謀で敵を排除する冷徹美形は、乙女の理想。つまり鉄板なのですよ。

でも聖地って、聖女って、守護者って。

貴方たち、人が不在中に勝手に株を天井知らずに上げてどうしたいのですか?


今ではわたしの家一帯が聖地として認定されているらしいのです……出会った当初あそこは自宅と言ったわたしをラウドさん達が記憶喪失扱いする筈です。頭のおかしな子扱いされなくて本当に良かったですよ。トホホホ。

ああ、考えてたら頭が痛いです。

お皿を見ればまだ四分の一ほど残っているのですが心労からか食欲が無くなり、溜息を吐きながらスプーンを置きました。

ゔゔ。三人とも覚えているですよ。

会ったらとっちめてやるです。



「お嬢、顔色が悪いぞ」


食事の手を止め報復の方法を考えていたわたしの顔を覗き込みラウドさんが額に手を伸ばしたのです。

わ、大きな手。男性にしては長い指とタコのあるゴツゴツした硬い掌。でも働いている人の手ってわたしは好きですよ。

ちぃと熱があるか?と小さく呟きラウドさんの手が私の方に伸びて。


わきゃ!?


「ラ、ラララウドさんんんっっ!?」


ラウドさん力持ちですねぇ、じゃ無くって!まさかのお姫様抱っこ?

見てる、みんな見でるのですよーー!!

あ、あわあわわわわわわ。


「今更何を恥ずかしがってるんだ?いつもしているだろうが。

ああ、ほとんどがお嬢が気絶している時だったか?まぁいい。リザ、少々熱があるようだ。お嬢を少し休ませるぞ」


何ですと!?


「ファムちゃん大丈夫かい?こっちはいいからね。ラウド頼んだよ」

「ファム姉ちゃん、後は俺がやっとくからゆっくり休んだ方がいいよ」

「後であたしが医師を引っ張って来くるからの」


い、いえ、心労から頭が痛かっただけなんです!わたし元気モリモリですよー!


叫びも虚しく、アワアワしているわたしを他所に勝手知ったる何とやら。店の奥の階段を登り迷う事なく部屋に入りベットに降ろそうとするので暴れると、色気ダダ漏れで「お嬢、添い寝が必要か?」と意地悪く口の端をあげました。

あ、これ意識が遠のくです。


これが色男の恐ろしさですかっ。





真っ赤な顔で丁寧に辞退し、ラウドさんを追い出してから漸く体の力を抜きました。

緊張でガチガチに強張った体が漸く解れ、ほぅ、と一息付けます。


……プレイヤー、ですか。



「……ステータス」


誰も居ない部屋でわたしの声が大きく聞こえます……やはり、フレンドボタンもコールボタンも何も表示されていないのです。

この場所は好きです。みんな親切で暖かくて安心できて……でもわたしの居場所はここではないのです。


さっきプレイヤーの話を聞いて、友人やファミリーたちの顔が次々に浮かんでくるのです。

ソーカが作ってくれた農具で畑を耕して、皆んなでタネを蒔いて育てて、お昼にはシリルの紅茶とバッツァお手製のランチを食べて、午後には三人で収穫して、収穫したものを友人に渡して喜ばれて、その後、人手が足りないからと引きずられながらダンジョンを攻略して、夜は皆んなでお祝いして。


この二ヶ月、ようやく精神的にも余裕ができ始めてから、シャングリラでの楽しかった日々が時間が経てば経つほど思い出して。



「……帰りたいのです、よ」



現実リアルかシャングリラの家、どちらに帰りたいとも思わぬまま、口から出たポロリと出た思いでした。



ただ、あの場所をとても懐かしく思ったのです。





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