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美味しいものは正義です

小さな頃から大人に囲まれ育ってきた所為か、わたしの恋する男性は全員年上。

初恋は5歳、垂れ目が可愛らしい担当医に、お恥ずかしながらメロンメロンだったのです。年の差20才以上でしたが問題無し、寧ろウェルカムです。しかし同じくわたしの担当だったおみ足の綺麗なナースのお姉様と目出度くゴールイン。

涙で枕を濡らしたのです。

次の恋は病院内にあるコンビニのアルバイトをしていた大学生のお兄さん。

ギャルゲーオタクで当時人気だったゲームの面白さを事細かに教えてくれる陽気な人でした。

え?ゲームのジャンルですか。勿論ギャルゲーを、です。ボインちゃんとか貧乳ちゃんとか。今ではセクハラで訴えてもいいと思うのですが、当時のわたしはお兄さんとの共通の話題が欲しくて、彼がハマっていたゲームに登場する萌ちゃんだか桃ちゃんだかのキャラクターの話し方を必死で真似したのです。

現在の妙な話し方はその時の弊害ですよ。

いつかきっと黒歴史と共に直してみせるのです。

因みにお兄さんはわたしが告白する前に就職が決まり、あっさりとバイトを辞めてしまったのです。いいんです、黒歴史の上塗りになるのを事前に防げたのですから。

次はお年を召したダンディな清掃業のおじ様。

穏やかさんで、わたしの他愛ない話を何時もニコニコ聞いてくれていましたが、ある日手袋を外した手に指輪を発見、既婚者だったのです。

ショックでヤケ食いし、点滴しながら家族と先生に滅茶苦茶怒られたのです。


次は…あれ?…わたしは男運が無いですか?




そんなわたしの目の前にいるラウドさんは素敵な方です。彼にお似合いなのは大人の女性で、こんな小娘などいいとこ愛玩動物扱い。

勿論ファミリーたちに会うまでは恋愛をする気はありませんが、憧れるくらいはいいですよね?

それに不特定多数の方々とお付き合いされているラウドさんのハーレム要員になる気はないのです。私は真っ当な恋をするです!


…シリル、バッツァ、ソーカ、早く貴方たちに会いたいのですよ。

貴方たちが居てくれたらわたしは寂しさなんて感じないのに。

ねぇ、わたし今度ギルドに貴方たちの捜索依頼をお願いしようと、今貯金しているのですよ。手持ちのお金ではなく、今の自分が働いたお金で依頼したいと思ったのです。だから後少しだけ待っていて下さいね。





意識は別に向いていても、いつの間にか身体が勝手にラウドさんを空いている席に案内していたようです。無意識って不思議なのです。


年季の入った飴色のテーブルはどっしりとしてわたしは好きなのですよ。とーっても傷だらけですが。

港町らしくお酒好きな方々が殆どで、昼間から酒盛りも珍しく無い=(イコール)喧嘩も珍しく無い=(イコール)家具が破壊されるという訳ですなの。

時々他の店の喧嘩の話をよく聞くのですが、たまご亭ではまだ一度も喧嘩を見た事が無いのです。この店の常連客は皆さん、とても紳士的な人たちばかりで良かったのです。

少し軋んだ音を立て椅子に座ったラウドさんはぐるりと店内を見渡し目元を緩ませました。


「美味そうな匂いだな。お嬢、今日の日替わりは何だ?」


トマトの香りが漂う店内。今日は……じゅる…あら、はしたないヨダレが。え〜ランチですか。


「今日のランチは魚貝類とトマトのパスタですよ。

数種類の魚や貝と一緒に煮込んだ濃厚なトマトソースにモチモチの平べったいパスタが絡んで、何皿でも食べれるです。別の注文になりますけど残ったソースを、スライスしたバゲットで拭いながら食べたらもう最高です!わたしバゲット一本まるまる食べ切れるのですよ!」

「いや、残りのソースで一本それは無理だと思うぞ」


ラウドさんは苦笑しながらポンポンと頭を叩いてきましたが、むむむノリが悪いのですよ。それくらい美味しいのに。

何故ここまで詳しく説明出来るかの秘密はですね、毎日朝食に昼のランチメニューを出し、セイタさんが家族に感想を聞くのが日課になっているからです。

でも昼のランチはかなりボリュームがあり、量は少なめにしてもらっていますが、朝から黄色いたまご亭特製デミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグやニンニクバターを乗せたリブロースのステーキやら非常に重たいのです。

体型を気にするお年頃の乙女わたしに豪快に笑いながら痩せるコツは朝昼をしっかり食べて夜は軽めに取るんだよ、と教えてくれたリズさん。何故でしょう?夜も多いのですが。大好きな貴女に憧れていますし、疑いたくは無いのですが体型リズさんを見るにつけ信憑性に欠ける情報なのです。


握りこぶしでパスタの美味しさを力説するわたしの言葉を受け、ノリが良い他のお客様からバゲットの追加注文が次々に上がり始めました。皆さんのそんなところ大好きなのです。ほら、あのノリ見てください。ラウドさんも見習ってほしいですよ。



「おやまぁ、時間をズラしたんじゃが、相変わらずの繁盛振りだねぇ」

「お婆ちゃんいらっしゃいませです」


店内がソースを付けたバゲットの美味しさに歓声が上がる中、ひょっこりと店に入って来たのは、杖をつき白髪をお洒落なスカーフで巻いたシワシワの穏やかなお顔。この港町のご意見番にしてまとめ役のマヌアお婆ちゃんです。

この方、昔はお転婆?していたらしくテスコのクラーケンと呼ばれていたらしいのですが、クラーケンって船を沈める海の魔物ですよね?失礼なのです。こんなに優しいお婆ちゃんなのに。


ここに来たばかりで震えていたわたしの両手を握って気軽にお婆ちゃんと呼んでおくれ、と言ってくれた本当に優しい人なのですよ。

クラーケンより海天使テスコのクリオネと呼ぶべきなのです!……例えクリオネの捕食が頭がぱかっと開いていても、見た目重視です。


いらっしゃーいっ、とお婆ちゃんとお互いにハグをした後、カウンター裏からクッションを取り出し、ラウドさんの向かいに座ったお婆ちゃん専用のクッションを腰に当てます。足腰が弱っているご老人達に大変好評なのですよ。

経験者は語る、で入院中にずっと寝ていると身体中が痛いのなんの。腰にクッションを当てるだけでだいぶ違うのは経験済みですよ。

因みにクッションはデフォルメされたイカがチャームポイント。拙いわたしの手縫いです。シャングリラに出会う前まで暇な時は刺繍や編み物などベットの上で出来るものは其れなりに一通り出来ましたから。料理以外は女子力は高いのですよ。エッヘン!(自称)

お婆ちゃんは目尻を下げ嬉しそうにお礼を言い、次いで打って変わり近くにいたラウドさんを胡乱げな眼差しで見ました。


「なんじゃ、こんな真昼間の時間に居るのか。ファムちゃんや、こんな仕事もしないロクでも無い男は放っておいてお婆ちゃんの側においで。飴ちゃん食べるかい?」

「なに本人の目の前でほざいてやがる、飯ぐらいゆっくり食わせろ糞ババア。あ、お嬢ランチ一つな。バケット付きで」

「おお怖いのぅ。こっちに座って脅されて可哀想なお婆ちゃんを慰めておくれ」


わたしを巻き込まないでほしいのです。テンポの良い掛け合いを背に、そそくさとその場を離れ、お客様のコップに横からそうっと水を入れ、食べ終えたお皿を炊事場まで持って行く作業を一通りこなしたところで、振り返れば漸く二人漫才コミュニケーションが終わったようです。その隙にさっと間に入り先程と同じ様にランチの内容を伝えればお婆ちゃんは困り顔で胃にもたれそうだねぇと呟きました。確かにお年寄りには少し濃いかもしれないのです。うーん。あ、そうです。セイタさんには事後承諾になりますが大丈夫ですよね。


「わたしはこれから休憩なんですが、賄い食を一緒に如何ですか?

今日はひき肉と細かく切った玉ねぎ人参ジャガイモなどをコンソメで汁気が飛ぶまで煮込んだものをふわふわ卵で包んだ特製オムレツですよ。薄味の優しい味ですのでおすすめですよ。

量が足りなければ、柔らかいパンに残した具材を包めばしっとり味が染み込んでそれだけでも美味しいのですけど、中にケチャップなんか付けたらもうもう。うふふふふ。最高なのですよ♫」

「ほぅほぅ、美味そうだねぇ。ファムちゃんは美味しいものを説明する時は滑らかに話すねぇ。いや、褒めているんだよ。あたしも一緒に食べても良いかい」

「勿論です。一緒に食べた方が何倍も美味しいのです」


お婆ちゃんが居たらきっとこんな感じですか?本当のお婆ちゃんと孫の様にニコニコと笑いながら少しだけ胸が締め付けられる気がしたのです。

しんみりした気持ちは、次々に賄い食をおかみさんに頼み込みあっさり撃沈してゆく常連さん達によって直に消えましたが。ノリが良い貴方達がわたしは大好きなのですよ。





いつもなら空いているカウンターで食べるのですが、今日は四人掛けの席でお婆ちゃんとラウドさんも一緒に料理に舌鼓を打ちながら食べています。

スプーンでトロトロの卵をすくって、はふんと食べるとふにゃ、と笑顔になるです。

至福の時間を堪能していると、扉から元気いっぱいの声と共にトム君が学校から帰って来ました。

トム君はこの店の一人息子で薄い茶色の髪の元気な男の子です。

一直線にわたしのところまで来ると、後ろからギュッと抱きつきました。これが胸キュン?カワユスです〜。



「お帰りなさいです、トム君」

「ファム姉ただいま!寂しかったよ〜」

「離れろ、ガキ」

「何だよ、離せよ!あ、おっさん帰って来てたのかよ。げげ、クラーケン婆あもいる」

「はっはっはっ、年長者に対して敬いがないねぇ」

「おいガキ、俺はおっさんじゃねぇ」

「いふぇ〜、はなふぇ〜ひょ」


左右から頬っぺたに教育的指導を受けるトム君の悲鳴を背にカウンターに行けば、既にセイタさんがオムレツの準備をしているところでした。むむむ、流石プロです。その間にトレーに水を入れたコップと厚く切った食パンとバケットを軽くトーストしたのを皿に置き、ケチャップと序でにリズさんお手製苺ジャムを添えます。出来上がったオムレツと一緒に持って行けば、教育的指導が終わり両頬を赤くしたトム君がお礼を言いながらトレーを受け取ると凄い勢いでオムレツをドンドン胃袋の中に詰め込んでいきます。若いのですよ。

素早く動くスプーンを見ながらわたしも慌てて残ったオムレツを食べてます。

既に食べ終えたお婆ちゃん(早いのですよ)がトム君に学校での話を聞いてきました。

余談ですが、この世界の学校は基本庶民は朝早くからお昼まで。後は生活の為に店の手伝いやアルバイトをするのです。勿論トム君も食後はジャガイモの皮剥きが待っており、未来の店主を目指し目下修行中なのですよ。…ほぇ?わたしですか?コツを教わった数秒後にナイフを取り上げられ、セイタさんの指導を受けるも20分後には何も触るなと言われましたが、何か問題はあるですか?


お婆ちゃんの問いに今日の授業はよっぽど面白かったのか、トム君は苺ジャムを塗ったトーストの欠片を一気に飲み込んで目をキラキラ興奮気味に答えました。


「今日の歴史の授業はプレイヤーの話だったんだ。しかも上位プレイヤーの拝人はいじん様達の話!スッゲー面白かった〜」


んぐぐっ。


オムレツの具を吹き出しそうになるのをグッと堪えたわたしはエライ。でも二度目だから耐性がついてただけかもです。

初めてプレイヤーの話が出たのは数日前の夕食の席。

トム君に向かって豪快にオレンジジュースを吹き掛けたのは記憶に新しいのです。ごめんなさいです。





ーー結論から言うとこの世界はやっぱりゲームシャングリラでした。しかもわたしがプレイしていた時代より更に400年後の世界だったのです。








《追記 冒険者のランク》


Sランク

もはや人外、人類外。数人いれば大国一つ落とせる化け物並み。プレイヤーもこのランクに属すると言われている。現在5人のみ。

触るな危険。



Aランク

超一流 。自領に定住しているだけで領主がピノキオ化し他領に自慢出来る。

人類最強レベル。



Bランク

上級者。つまりベテラン。CランクからBランクになる事は可能でもBランクからAランクになるには超えられない壁がある。

ベテランです。




Cランク

中級者。胸を張って冒険者と呼べるレベル。

長年真面目にやっていればなれるランク。

悲しい中間管理職。



Dランク

低級者。一般人より頭一つ二つ抜けた程度。俺村で一番喧嘩は強いぜ。



Eランク

駆け出し。ぺーぺー。ほぼ一般人並み。

ニートを止めたいと思い来ました。







本業ファーマー復帰目指して頑張ります。m(_ _)m

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