【天壌歌】なのですよ
お待たせ致しました。
亀更新にもかかわらず見て頂きありがとうございます。
久々の更新なのに説明回…すみません( ̄◇ ̄;)
ふぅ、呆れている場合ではないのです。
グルリと辺りを見渡せば辺り一面、瓦礫となった建物やボロボロになった人たち。
侵略が終わったとは言え、ここはゲームとは違うです。ある程度時間が経てば綺麗に元どおりなんてことはないのです。
……一つだけこの状況を解決出来るスキルがあるですけど、、さっきみたいにわたしを怖がるんじゃないかと思うと少し躊躇するです。
でも大好きな人たちが傷ついていて、それに何より妊婦であるリザさんには安全に元気な赤ちゃんを産んでほしいのです。
…悩んでる暇なんてないですっ!女は度胸なのですっ、わたし、、グェッ。
帰ってきたバッツァとソーカに潰されたです。
乙女に気安く触るなー!なのですよっ。
「と言うわけで、【天壌歌】なのですよ」
「何が、と言うわけで、か分かんないんだけど。しかもマスター、【天壌歌】ってさ…」
「大丈夫なのです。MP対策はバッチリなのですよっ」
何と言ってもわたしのMPは∞なのですよ。
シャングリラのスキルは幅広くあるですが、大まかに分けて成長スキルと固定スキル。
後に続いて特定のイベントでしか取得出来ないスキルや隠しスキルなどなど。
中でも特殊なものが複合スキルナのです。
その名の通りいくつかのスキルと条件を満たした時に発生するスキルで、例えば盗みスキルの一つに【義賊】があるです。これに【軽業師】【義侠心】を取得した場合に発生する複合スキルは、盗賊の上位スキル【ネズミ小僧】。
複数人で取得できるものには、【歌】スキルを持っている人の周囲、所属ギルドや友人たちの多さと、その人たちに【献身】や【情熱家】などのスキルを持つ人たちがいた場合は、中位スキル【アイドル】になるです。
つまりシャングリラでは、この複合スキルを上手く利用することこそ、上位プレイヤーの近道なのです。
わたし?ふふーん。わたしもいくつかあるのですよ。
ともかくイベントによっては複合スキルでしかクリアできないものも数多く、皆さん掲示板で熱く語り合っていたですよ。
中には複合スキルの探究こそ我が人生、と検証オタクたちが大勢いて、己の身を犠牲にして様々な実験と検証を繰り返してたです。
…まぁ、そこはシャングリラ。
発生時期には時間、季節、偉人やスタッフの奥様の誕生日(怒)などなど、知るかっ!!と叫びたくなるような限定も多かったです。
そしてわたしの初期スキルにも【歌】があるです。
【歌】は成長スキルの一つで、初めは歌が少し上手いぐらいのネタスキルですが、成長するにつれて混乱付与や精神異常耐性付与などが付き、スキル名も【歌い手見習い】や【吟遊詩人】などに分岐と変化を繰り返してしていくです。
その【歌】の最高スキルが、アバターが女性なら【至高の歌姫】。男性なら【至高の歌王子】に変化するです。
そしてこれにあるスキルが合わさると、複合スキル【天壌歌】に変化するです。
スキル効果は広範囲に及び、レベルによっては王都や大きな街ぐらいなら効果があるです。これは天と地の間、つまり空間を操作でき、特定したものの時間を巻き戻したり早めたり、消滅させることだって出来るまさにチートスキルなのですよ。
しかし弱点もあるです。
歌っている間中MPが、もっっんの凄い勢いで減っていくです。
因みにゲームではMPが尽きたら行動不能か気絶状態になるですよ。
だからあまりこのスキルをとる人はいなかったのです。
そしてこの【至高の歌姫・歌王子】は俗にドMスキルとも呼ばれているです。
……はっ!?
わ、わたしはドMではないのですよ!本当に本当なのですよ!?
何故ドMスキルと言われているのか。
それは取得条件が、すっっっっっっごく大変だからなのです。
【歌】スキルを成長させるにはひたすらに歌うです。歌って歌って歌いまくるです。
成長値が貯まって【歌い手見習い】に変化すると、混乱付与が付き少しだけ戦闘のお手伝いが出来るようになるですが、これからが大変なのですよ。
これでお手伝い出来るね一安心、と思いきや、さっきも言ったように【天壌歌】程じゃないですけどMPがドンドン減るです。
歌っている途中で倒れるのは当たり前。
間違ったり何かの理由で中断したらまた始めからなのです。
誤解しないでほしいですが、わたしはドMではないのです。【歌】はお野菜たちの為に取得したです。
ほら、テレビとかで植物とか動物とかに音楽を聞かせると状態が良くなるとか言っていたですよ……シャングリラでは関係なかったみたいですが(泣)
昔これがないとクリア出来ない限定イベントがあったです。
しかしわたしの周囲の戦闘民族たちは、歌?なにそれおいしいの?的なのです。
彼らは全て戦闘スキルと暗殺スキルにつぎ込んだ、雅も芸術も解さないダメダメ脳筋たちなのです。
そこで終わればよかったですが、わたしが【歌】スキルが持っていたのがバレたです。
『よし!仲間の俺たちがスキルを最高まで上げる手伝いをしてやろうぜ。いや〜俺たちって何て仲間思いのいいヤツなんだろう』的な、当の本人が全くこれっぽっちも望んでもない、寧ろ自分たちの為に仲間を犠牲にする利己主義的な思考に基づき、わたしを巻き込んだです。
スキルによるですけど、さっきも述べた通り【歌】スキルを成長させるには、唯ひたすらに歌うです。
歌って歌って歌いまくるです。
途中で途切れたら、一からまたやり直しなのです。
それでもってやっぱりスキル成長が一番早いのは戦闘なのです。
嫌がるわたしを無理矢理ダンジョンに放り込み、モンスターの群れの中でMPが尽き倒れるとポーションを飲ませて歌わすの繰り返しです。
何度も何度も何度もっ!!
「歌よりもヒロインばりに怯えたり倒れる姿が面白かった」
あのセリフを言った戦闘民族の奴らは血も涙もないのですよ。
さて、このドM、もとい最高スキル【至高の歌姫】。
別なスキルで楽器を使って様々な効果を付与できる【楽器】があるです。これを持っている人たちが複数いると効果が持続倍増するのが【オーケストラ】。
この【オーケストラ】と【至高の歌姫】が合わさり複合スキル、【天壌歌】になるです。
「あはは〜、今日は嬉しくて〜楽しくて〜懐かしいね〜」
ソーカが古代文字が意匠された驚くほど繊細な銀のフルートを取り出すと、
「そうだね、ん〜、何百年ぶりだから指動くかな?そっちは?」
バッツァが薄っすらと光る大きなグランドピアノを置くと椅子に座り指の練習をし、
「まぁ、何とかなるでしょう」
シリルが不思議な光沢を持つバイオリンを出し、弦の調整をしてるです。
でもーー。
「何百年ぶり、です?」
戦闘民族はともかく、うちの優雅でハイソなファミリーたちは、お家でまったりしている時やピクニックなんかで時々奏でてたですよね?
「ん〜、そんな気分にはならなかったからね〜。どんなに上手くなっても聞いてくれるマスターはいなかったし〜」
「俺もそうだね。寂しくなんかなかった、、事もないけど、沈んだ気分の時に音楽なんか奏でたくないし。あ、でもシリルは時々練習してたよね」
「マスターのご要望にお応えする為には、地道な練習が必要ですので」
「ふーん。そんなこと言ってさぁ、ここ百年以上は触ってるとこ見たことないじゃないんだけど」
「…いろいろあって練習が疎かになっただけです」
「へー、いろいろ、ねー?」
不可抗力とは言え長い間、本当に寂しい思いをさせてきたのです。
でも、わたしはこれからどうなるか分からないです。このままかも知れないし、いきなり消えるかも知れないのです。
分からないですけど、彼らにわたしが今出来ることは一つだけなのです。
「…ずっと一緒なのですよ」
そんな約束とも呼べない言葉に、皆んな何も言わずに微笑んでくれたです。
心がポカポカして元気が湧いてくるです。
よーし、わたしも頑張るですよ!
さっそく、【天壌歌】を…歌う……
…あ…
「い、一体なにが始まるんだ…」
「あれ?ファムちゃん、ぼーっとしててなんか魂飛んでね?」
「もう俺は多少のことじゃ驚かんぞ」
「空中から武器が千本だっけ?落ちて来るアレに比べりゃ、空間から楽器が出ることぐらいなんてことないわよね」
「このダガー、本当に貰ってもいいのかしら…」
「本人がいいって言ってんだからいいんじゃないかな。あたしも杖貰ってるし。…本っ当、見てこれ。風魔法強化なんてひと財産になるわよー。
それにしてもファムちゃんの知り合い?あの人たち楽器を出して演奏会でも始める気かい?……なにか用?そこの執事さん」
「失礼。ただあなた方は幸せな方々だと思ったものですから。
今から神に最も近いといわれた拝人様方、その力の一端を、そしてマスターの復活の生き証人となれるのですからね」
なんかシリルが言ってるですが、わたしはそれどころじゃないのです。
【歌】のスキル設定時には好きな歌を登録できるです。
極端ですけど異常状態回復の歌に、絶対無敵なロボットアニメの主題歌を歌い、『なんでやねんっ』とプレイヤー全員のツッコミが入ったり、男性プレイヤーが歌うプリティーでキュアな美少女アニメの主題歌で、毒状態になった味方を抱腹絶倒させてそのままHPが尽き死亡、なんて例もあるです。
わ、わたしの、わたしの設定ってーーー!?
確か【天壌歌】の設定ってーー
…ーーゲームのエンディング曲だったです。
…………だ、大丈夫です〜。
は〜、こっぱずかしい歌詞じゃなかったです〜。安心したです〜。
よーし、
あと一踏ん張りなのですよっ!
あの時のわたし、エライのです。
団子ブラザーズの歌詞を設定しなくて、ほんっっっとに良かったのですよ。




