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数で押せば無問題(モーマンタイ)なのです

「ほら、この長剣は異常状態無効麻痺で、このダガーは毒付与小です。ね?スキルは一つで効果もそこそこしかない極フツーの武器なのですよ」

私の説明に皆さん、はーーっと深いため息をついた後、何故だか可哀想な子を見る目でこちらを見るです。

シャングリラでは複数のスキルを持つ武器は当たり前。常識なのですよ。

「良いかお嬢、よく聞け。俺たちが使う武器はふつうは武器屋で買う。材質の違いはあるが、スキルは付いていない」


………………ほえ?


「大昔は生産系のプレイヤーが鍛えた武器が当たり前に店どころか露店でも売られていたらしいが、今じゃ一握りの名工クラスが鍛える武器でないと無理だ。そのスキルと言っても軽量化や遠視などあまり戦闘に役立つものがないのが殆どなんだぞ。それでも値段は…そうだなAクラスである俺の半年分くらいか」

Aクラスって一握りしかいないんでしたよね?…その稼ぐお金ってかなりの金額ではないですか?

内心ダラダラと汗が出ているのが分かっているのか、ラウドさんがわたしを見て重々しく頷くです。

「分かったか?お嬢が言う普通の武器ってのは、ダンジョンで入手するか、金持ちの貴族が所有するレベルなんだよ」

よ、四百年の間に随分と常識が変わったものなのですよ。

…じ、じゃあラウドさんに譲渡したレアクラスの武器って今では、、うん。ごめんなさいです。取り敢えず後で考えるです。





心の中でラウドさんに土下座をしてると、港側の方からビックリするほど物凄い速さで冒険者さんが来たです。後で聞いたら韋駄天のスキルを持った災害時の連絡係だったですが。

その冒険者さんが海から第二波が来たとの連絡をくれたです。

戦い慣れた皆さんは、とっさに武器を取り戦場に向かう人や、覚悟を決めたのか刺さっている武器を抜く人、持てるだけ武器を持ち他の場所の応援に駆けつける人など様々です。


わたしは空気が読める子なので、『他の奴らも巻き込もう』、との皆さんの言葉は聞かなかった事にするですよ。




通りから現れたのは魚人フィッシュマンの群れ。その後ろから、ヌチャヌチャと音を立て姿を現したのは4メートルはあろうと思われるオクトパス。つまりタコ。

これがなかなか厄介な敵で、異常状態を起こす墨攻撃の上、力も強く様々な方向から繰り出される攻撃は初心者なんて一撃でも当たろうものなら、直ぐにお陀仏なのですよ。

そう言えば吸盤を使って敵を引き摺り込み、そのまま巻き付けての締め殺し攻撃もゲート内では兎も角リアルで考えたら結構エグいのです。

魔術師さんの杖から出た大きな炎が着弾したのを皮切りに、皆さんが一斉に攻撃を仕掛けるです。

魔術師さんが炎の大きさが想像以上だったのか、驚愕の表情で杖を凝視してるですが、それ炎の祝福が付いてるです。でも水魔法は半減するデメリット付きで使い勝手がイマイチ。

なのに有り難がるなんて、この時代の常識こそわたしには分からないのですよ。



オクトパスが吐いた墨で足を滑らし体勢を崩した冒険者さんの上へ大きな足が振り下ろされようとしたところを、ラウドさんが前に出てカバーに入り、衝撃に耐えようと頭上で双剣をクロスさせたですが、


スパンッ


と切れのいい音を立て足が切り落とされたです。

ふふん。レア武器は龍神や邪神クラスにもダメージを与える事ができるです。タコなんでイチコロなのですよ。

一瞬だけ動きが止まったラウドさんでしたが、素早い動きで次々と足を切り落としていくです。

全ての足を失いつつも墨で攻撃し周囲をけん制するオクトパスへ、離れた場所から常連さんで漁師のガンツさんの放った百発百中のスキルが付いたモリが脳天へと突き刺さり、そこへ別の魔術師さんの雷の魔法が避雷針の様に吸い込まれ直撃し、あたり一面に香ばしい香りが漂うです。

たこ焼き食べたいです。



「「「…………」」」


な、何故皆さん武器を持ちながら、そんな目でわたしを見るですかっ!?

……っ。分かったですよ、のんびり見てないでわたしにも手伝えという事ですね。

ポンッと手を一つ打ち、さっそく皆さんの元へと向かおうとしたわたしの手をトム君がガッシリと掴み離さないです。

「トム君?わたしもあちらに…」

「だからファム姉ちゃんは何もしないでジッとする!」

「酷いです!あちらで皆さんが呼んでるですよ。つまりわたしも何かお手伝い出来る事があるのですよ」

「ダメッ!つーかおっさんはたちはファム姉ちゃんを呼んでないから!武器の非常識さに呆れてるだけだからな。それにファム姉ちゃんがあっちに行ったらまた絶対に厄介な事になるに決まっているんだ」

「偏見です横暴です。わたしは褒められて伸びる子なのですよ」

「だからダメだって!ファム姉ちゃんが出たら更に場を混乱させ、、って!言ってるそばから何出してんだよっ!?、、な、何?…小さな教会のオモチャ?…すっげー細かいな。でも俺は別にオモチャが欲しいわけじゃ……え、何?」


武器がダメならとトム君にソッと渡したのはオモチャではなく勿論アイテムなのです。そうそう、それを持って上に掲げるですよ。それの名前はですねーー。



「…は?何……聖域化サンクチュアリ?」

唱えた瞬間、トム君を中心とした半径約10メートルほどの薄い黄色みを帯びた膜のような結界が出現したです。

アイテム名は聖域化サンクチュアリと呼ばれる一種の結果で、この中にはモンスターの類は一切入れず、三十分の間攻撃無効なのですが、こちらからも攻撃無効。あまり使い勝手が良くなく、もっぱら初心者の避難シェルター代わりになってたです。

因みに300円ガチャのハズレ品なので、売るほどあるですよ。


「だっ、、だから〜〜っ、ファム姉ちゃんっっ!!」





…何故わたしは結界内でお説教されてるですか。


途中で目を覚ましたセイタさんも(後遺症も無く良かったですが)加わってのお説教なのです。


曰く、常識を学べと。


失礼なのですよ。

こう見えてもファーマー初の上位プレイヤーなのですよ。今は無理ですが見慣れたら敵をバッサバッサと倒し……いやいや違う、違うです。わたしはファーマー、生産職です。農家が敵をバッサバッサておかしいのです。

…ふぅ。危うく友人達(戦闘民族)の仲間入りになるところだったです。

えっ?聞いてる聞いてるですよ、も、勿論です!……ふぅ、まだ30分経たないですかねぇ。




本日、2個目の聖域化サンクチュアリです。


「ファムちゃん、聞いてるのかい?」

「うっひょっ!、聞いてる聞いてるですよ!」


何故か説教する人が増えたです。


涙目でプルプル震えてると、トム君が哀れに思ったのかとりなしてくれたのです。

…小学生に庇われるわたしって一体…。


「もういいんじゃねえ?ファム姉ちゃんも反省してるし、さっきからモンスターの数がヤバい事なってるし」

…ホントです。いつの間にか数で冒険者さんたちが押されてるです。さっき渡したポーションのおかげで怪我人はいないようです。

…シリルたちがいたらあっと言う間に片付くのに。

また1匹、倒された半魚人マーマンから、カランカランと軽い音を立て落ちたのは槍です。

お、パンパカパーンですおめでとうです、レアドロップなのですよーーあ。

「そうです!この千本刃も、レアドロップという事にすればいいのですよ。そうしたら皆さん使えるです」

いいアイデアなのですよ。

モンスターを倒せば一定の確率でドロップ品が出るです。例えば今いる魚人フィッシュマン半魚人マーマンは身体の一部がドロップ出来るです。鱗や骨に魚肉、持っている武器などですが、ごく稀にレアドロップが出るです。出現するのは様々で、宝石や金貨、ポーションなど全く関係の無い物も出るです。

一例を挙げれば、運営側の遊び心の所為で苦労して倒した中ボスのレアドロップが木彫りの熊の置物だった事もあるです。

勿論掲示板は荒れに荒れたですが。

「レアドロップって、中々出ないやつ?…これ千本あるんだろ?それって結構無理があるんじゃないのかな」

「安心するのです。以前わたしの家族が言っていたです。どんな非常識な事でも大勢の人が同じ嘘を言えば、それは全て真実になると。つまり無問題モーマンタイなのですよ」

「どこが安心なの!?しかも何、そいつの腹黒い考え方は。…家族ってファム姉ちゃんが探している従者たちなんだよね?…会いたいような会いたくないような。やっぱり会いたくないや」


複雑な表情で呟くトム君に苦笑しつつ、こんな状況でも寂しさが溢れます。



「…わたしは会いたいですよ」



会いたい、会いたいです。


友人たちよりも、もしかしたら親よりも、ずっと側にいてくれたわたしの大切な人たち。

ゲームと現実は違うです。もしかしたらわたしの知っている彼らでは無いのかも知れない。でもそれでもいい、会いたいです。







「私も…再びお会い出来ることを願っていましたよ……マスター…」





微かに香るシトラスと共に背後から伸びた腕が、そっとわたしを包み抱きしめたのです。






なかなか進みませぬ。(。-_-。)

この話を書いていると、たこ焼きが無性に食べたくなってます。(笑)

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