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始まりは凡ミスから?

別作品の世界観と同じですが、単品でお読みいただけます。

まったり更新ですが、宜しくお願いします。

m(_ _)m


※殆ど変わりませんが、改稿しました。

「………なんで、です?」



呆然と、ただ呆然と固まったまま畑の真ん中でポカンと口を開けているわたしは側から見ればさぞかし間抜け面ではないのかと、頭の片隅でぼんやりと思うぐらいには冷静で。でも同時に体が直ぐには動かないぐらいには心にダメージを受けているのですよ。



だ、だって仕方がないのですよ!今日は大型アップデートに伴い、待望のお米様のタネが発売される記念すべき日なのですっ!!

ベッドの上で数ヶ月前からカレンダーに丸を付けながら待ち続け、当日には一時間前にヘッドセットを装着。ワクワクしながら日付が変わると同時に発売地の王都に飛んだのに。


ーーなのに。



「……自宅前じぶんちって……わたしま、間違えたのですかーっっ!!?」


まさかの凡ミス!?






シャングリラ


ヘッドギアを装着し、アバターを通じ仮想世界で行動することが出来る国内最大の人気オンラインゲーム。

人気の理由には、詳細なアバター設定と自由度が高いことが挙げられる。人間、獣人、エルフ等の多彩な種族に加え、広大なフィールドも大まかに分けて冒険、生産、国営、学園エリアの四つ。

定期イベント突発イベントも数多く存在し、冒険者になるもよし、研究者になり引きこもるもよし、プレイヤー同士やNPCと恋人や家族になることも出来る。まさにもう一つの世界とも言える。




わたしが初めてシャングリラと出会ったのは中学3年の頃。中学といっても幼い頃に難病を患い、今までずっと入院生活を続けているので、学校ではなく通信教育ですが。

そんなベッドの上にいるわたしがこのゲームに嵌ったのは言うまでもないのです。

だってこの中で私は、走る事も好きな場所に行く事も食事だって自由に出来るのです。もちろん食事と言っても本当に食べれるわけではないですよ。主にスキル強化や体力を回復するだけで、見た目は美味しそうなのに味も匂いもしないのが残念なのです。

でも、もう一人のわたしが自由に生きれる世界、シャングリラ。



選んだのは生産業、ファーマー(農場主)

学校も行けないわたしは本来なら学園エリアを選ぶのでしょうが、その、少々臆病ビビりなのですよ〜。

知らない大勢の人たちと一緒に居るなんて怖くて怖くて、逆にストレスが溜まりそうと却下なのです。

ソロの冒険者も考えたのですが、ここは堅実にボッチでも安心安全な生産職、ファーマーを選んだのですよ。

何かを一から自分の手で作り出すことは素敵な事なのです。

収穫した野菜や果物は単体でも十分に効果を発揮しますが、調合や料理により更に効果を増し、薬やスキルアップに欠かせ無いものなのです。勿論売却も譲渡も出来ますよ。

わたしのボッチバリヤーを潜り抜けた数少ない友人たちに野菜をプレゼントすると、わたしの育てた方が売っているものと比べ回復値が全く違うと喜んでくれた皆んなの笑顔に、わたしもつられて、ほっこり笑顔になるのです。

わたしは褒められて育つ子なので、調子に乗りいつの間にか大農場主のトップまでレベルアップしたのはご愛嬌なのです。


この広大な土地に生る作物達もわたしが居なければ芽吹く事も育つ事も出来ないのです。ゲーム内でも暫く放置してると、枯れたり病気になったり害獣に食べられてしまいます。

定期的にタネや苗を植えて水を撒き肥料をやり、時には作物を狙う害獣を撃退し、そして収穫期のまんまるプリプリと実った作物を見た時の嬉しさと言ったら!

ますますゲームにのめり込んだのですよ。


つまり廃人の始まりなのです。



さて、様々な作物が収穫出来るこのゲーム。一つだけ不満がありました。日本人のソウルフードにしてわたしの愛おしい恋人、それはO K O M E!!

お米様がシャングリラに存在しないのです!

何故ですか!?小麦も蕎麦もあるのに!


掲示板に載っていた噂ではシャングリラスタッフの中で、米は田んぼで作るもんだろ!じゃ畑以外に田んぼを作るべきだ派と、米は畑でも出来るわ!これ以上仕事増やすんじゃねぇ派が二分していたとか何とか。……そんなくだらない事でわたしのお米様が無いとかって…ふふふ、延々とわたしのお米様愛を原稿用紙5枚分ビッチリと書き込みをしてあげるのですよ。

そんなこんなで、わたしだけでなく他のユーザーからもお米が欲しいと意見も多く、今回後者派が見事勝利し、アップデートでお米のタネとして発売される事になったのです………ほぇ?…今回?



ーーはっ!


の、のんびり昔を思い出している場合じゃないのでは?い、急ぐのですよ!

今から行けばまだ少しぐらい残っている可能性がありますよ。希望を持つのです、わたし!

全て買い占めるつもりだった自分の事は棚に上げ、慌てて右手を上げ横にスライドしステータスと呟き画面を空中に表示を…。


「……あれ?」


半透明な板の上に何時もならマップがどんっと中央に表示されているはずですが、、真っ白です。

あれ?アップデートのバグですかー?、首を横に傾げていたわたしの目の前に見えた8。はち?ゆっくりと首を戻し見えた数字は。




レベル ※※※


HP 3

MP ∞



……………え〜レベル※※※?表示が出てませんよ。あらら、いつの間にわたしのMPは無限大に?

HPは、ふむふむ。たったの3…ふ、ザコめ………ん?……さんんんっっっ!!?

さ、さ、さんって何ですかっ!。さん、みっつ?3!?その辺に歩いてる村人Aでも10はありますよ!村人Aより下の3って幼児並み?ゴブリンどころかスライムの一撃で即死レベル。

運営側はわたしに死ねと言うのですか?


…もう、何なのですか、一体。


自慢ではありませんが、これでもわたしレベル900越えのそこそこ有名な上位はいじんプレイヤーなのですよ。HPも8000超えしてましたし、勿論スライムが束になってもダメージは無いに等しいのですよ。おーほっほっ、、……はぁ、完全にバグりましたね。知人にバレたら間違いなく指差して大笑いされる嫌な想像に溜息を吐きつつ、空中に表示されたままの画面からコールボタンを……ほぇ?コールボタン、どこです?空中で半透明に光るステータス画面には数値と所持品のみ……緊急時のシャットダウン機能は何処行きました?掲示板は?フレンドコールボタンも、無い?あれあれ?…………これって完全にツミマシタ?

状況を理解した瞬間、全身からブワァと汗が出てバクバクバクバクと心臓が痛いくらいに鼓動しているのが分かるのです。


……心臓がバクバク?このゲームでは痛みも息苦しさもまして汗なんて感じないのに?


………はは……は…。


この状況は、小説なんかでよく出てくるトリップとか転生とか運営側の悪意とか何とかかんとかですかぁーーっ!?誰かー、助けて下さいーーっ(泣)




一頻り大声で騒ぎまくり少し落ち着いたのです。騒いでも誰も助けに来ないですし、パニックになっても何もいい事なんてないのですよ。

ふっ、わたしも落ち着いた大人の女性になったのですよ。(一般的に呼吸困難になり力尽きたとも言いますが)


まだバクバク鼓動している胸をギュッと抑え、取り敢えず持ち物確認から。原因は分かりませんが、今すぐ解決するとは思えないのです。当面この世界シャングリラで生活する事も考えられるし、先ずは落ち着くです。


ガクガク震えている膝?何の事ですか?




空中に表示されたままの画面上から一つ一つ確認です。

えっと、ステータスは先程と同じ変化なし。アイテムに服やブーツ等の装備品は前のまま。オリハルコンやレッドドラゴンの鱗等の素材も消えてないのですよ!良かった〜、いざとなったら売り払って換金すれば生活費の足しに……換金出来るのか以前に第一村人は何処いずこ?……つ、次はHP回復アイテムのポーションもMP回復のキャンデーも在庫は結構あります。限定イベントで入手した回復アイテムのコッペパンも一ヶ月分はあるし、以前収穫した果物もあったのです!

所持金は金貨一億枚以上ありますし、今後の食料問題に関してはタネや苗の在庫も…あります。わたしの職業はファーマーですから食料問題はこれで解決済み。雨露をしのぐじたくは目の前。……あ、衣食住全て解決してました。これはイージーモードというやつですか?

…いえ、体力3の時点でイージーモードでは無いです。


当面の生活は大丈夫だとほっと胸を撫で下ろし、次いで数メートル先にある自分の家を眺めます。

外国の田舎にある様な木造作りの素朴な家ですよ。

そしてもし本当にここがシャングリラなのだとしたら、あの家にはわたしのNPCファミリー達が居るはずです。



ファミリー。

自分専用のサポートキャラクター。ゲームに登録すると一人一枚貰える創生のメダルと言うアイテムで作成出来る。

容姿性格種族など、自分のアバターと同じ様に自由に作成出来る。初期段階ではスキルは所持しておらず、プレイヤーが譲渡しなければならない。



ファミリーは討伐依頼や採取、畑仕事など様々な面で助けてくれる相棒的存在で、共にレベルアップするタイプです。ファミリーが稼いだ経験値はプレイヤーにも振り分けられますし、スキルも譲渡出来きプレイヤーの装備品も使用可能。何と恋人や結婚まで可能なのです。

通常一人に一体ですが、他のプレイヤーに譲渡、交換が可能な上にイベントでも貰えたりするので所持数は最大五体まで。

因みに知人の男性は男の浪漫だとかで、幼女戦隊モノを作っていたのですが本当に浪漫ですか?欲望の間違いではないのですか?

わたし自身はメダルを使ってはおらず、幸運にもファミリーは三人とも全てイベントで入手したものばかり。レアイベントで入手した彼らは容姿も性能も他とは頭一つ、いえ遥かに飛び抜けている上に特殊の固定スキル持ち。ファーマーのわたしがここまでレベルアップ出来たのもチートな彼らのお陰と言えるのです。

……まぁ、ファーマーに戦闘能力は必要無い筈なんですが、戦闘民族の友人たちと、チートな三人のお陰でレベルが上がりまくり、生産職としては異例の上位プレイヤーの仲間入り。


わたしの第二の家族とも呼ぶべき三人の大切なファミリー、彼らは果たして家に居るのですか?





ーー?


三人並んで歩ける幅の家へと続く道は茶色や黄土色黄色のレンガが不規則に舗装され、その道沿いには青と白色を基調とした小さな花が玄関近くまで続き目を楽しませるのです。小人が通りそうなメルヘンな道をゆっくりと進んでいた足を止めて向こう側に広がる畑を見渡しました。

風が吹いて木々の葉を揺らしているのが遠目にも分かり、何も問題はない筈なのにいつの間か無意識にギュッと握り締めていた袖から手を離しました。


……何ですか、この違和感。

何の変哲も無いただの畑なのに。


胸の中にもやもやしたものを抱えたまま歩けば扉はもう目の前。軽く息を吐き覚悟を決め、真鍮で作られたドアノブを掴んだ瞬間、


パチッ


手に走る軽い痛みと小さな破裂音の様な音。

痛っ、静電気です?冬でも無いのに。

今度はそ〜っとドアノブにトントン指を当て、静電気が起きなかった事にホッとしつつゆっくりと扉を開けました。


キィ、音を立てながら開いた扉の隙間から、シンっと冷え切った空気が足元に流れ出て、真っ暗な玄関先を外から入った光だけが照らします。

物音一つない静寂に満ちた空間は埃っぽくは無いのに明らかに人の気配というか住んでいる様子は無く。

……彼らは居ない?それとも元から存在していない?



「…シ、シリル……バッツァ……ソーカ……皆んな居ない、のです、か?……」


緊張でカラカラになった口を開けば、自分でも驚くほど掠れた声が出ながらも何とか三人の名前を呼びました。

本当は家の中に入りたいのに、足が縫い付けられたかの様に、暗い玄関から一歩も動く事が出来ないのです。


ずっと病院生活をしてきたわたしにとって、この家は帰れない現実の家よりも身近な家であり、華美ではないですが木目の暖かみのある家具や小物を揃え、自分好みの居心地いい空間だったはずです。

なのに今はデカイ怪物の腹の中にでもいるような恐ろしさを感じ動けないのです。ゲームでは頼もしい仲間であり優しい家族たち。

大切な彼らが居ないだけで家の中がこんなにも違うのです。

ゾッと鳥肌が立ち、そのまま家に食べられてしまう様な錯覚に、堪らずその場を逃げ出したのでした。




がむしゃらに走って走って走って、息が切れたわたしは畑の真ん中で崩れる様に両手を地面に付いてハッハッハッと荒い呼吸を繰り返します。

く、苦しいのですっ。

苦しさで滲む視界をぎゅっと閉じ浅い呼吸をしながら心臓が落ち着くのを待ちました。汗で張り付いた服が気持ち悪いのですよ。


ぜーぜー、はーはー。

どれくらいそうしていたのか、繰り返していた呼吸も落ちつき、もう一度だけゆっくり深呼吸して閉じた目を開ければ、真っ先に目に飛びこんだのは両手の下にある畑の柔らかい土。


…何です?さっきも感じた違和感。


じっと畑を見ても何が違うのか?木も畑もなんら変わったところなど見当たりませんね。土の茶色に木の緑色と、、、あ。


そして漸く違和感の正体に気付きました。

畑に作物が何も無い?



このゲームは春夏秋冬はありますが、制作チームは設定が面倒だったのか時間が無かったのか、はたまた両方か、畑にタネを蒔けば作物がいつでも出来るという季節感無視した仕様になっていたりします。

ですので昨日までこの畑には大根やキャベツにトマト、ジャガイモやトウモロコシなどが一面に実り簡単に収穫出来ていたはずなのに、


無い。

綺麗さっぱり無いのです。




あちらの果樹園は桃やリンゴが収穫時期で、今度バッツァにコンポートでも作ってもらおうかなぁ、味は分かりませんけど。なんて呑気に考えてたのです。



カチカチカチカチ



ーーあれ?何の音です?

ーーああ、わたしの歯が噛み合わないで鳴っているのですね。



カチカチカチカチ

コワイコワイコワイコワイ。



いつも家族がお見舞いに来ていました。

病室に誰も居なくても、同じ建物の中にはナースさん達や入院している人達も居るって知ってたから怖さなど感じませんでした。

何時も誰かが居て。



では、今は?

周りに誰も居なくて。

家に誰も居なくて。

ここには何も無くて。

一人ぼっちで。



カチカチカチカチカチカチ


誰もイナイ




そしてわたしの意識は真っ暗な底へと落ちたのです。







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