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異世界に迷い込んだ俺と彼女の冒険譚  作者: 沢村茜
第一章 魔法のある世界
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犯人を追って

 俺は村長に挨拶をすると彼の家を出た。もう辺りの家々は完全に日が落ちており、人の気配はほとんどない。一足先に出たはずのブルーノを探すが彼の姿はどこにもない。

 ただ、空を飛べる彼はそのうち追いついてくるだろうと考え、腕の痛みを抑え、村の出口へと歩をすすめることにした。

 村の出口には兜をかぶった兵士の姿がある。彼は俺を見ると、頭を下げた。


 俺はそのまま村の外に出て、一息つく。

 あの一件を知っているのか、俺を止めることはしなかった。


 そういえば、あの男たちはどこから外に出たのだろうか。あの格好だと兵士に止められそうな気がするが、逆にこの村の人間であれば平然を装い外に出ることは可能だし、この兵士が小野の誘拐に理解があれば難なく外に連れ出せるだろう。だが、それともその洞窟に通じる道があるのだろうか。


「どうかしたんですか?」


 いつの間にか現れたブルーノが陽気な口調で語りかけてきた。


「あの誘拐犯はどこから村の外に出たんだろうなと疑問に思ってさ」

「あの者たちは右手にある塔のほうに歩いて行っていましたよ」

「塔?」


 俺は振り返り、村の中に聳え立つ塔を見つけた。


「あの村長は知らなかったのか、それともあいつらを庇おうとしたのか」

「難しいところですね」


 ブルーノは難しい顔で村を見やる。


「お前は見ていたんだよな」

「はい、ばっちり」

「教えてくれればよかったのに」

「いえいえ。なかなかこの村は監視が厳しくてですね。話しかける隙がなかったんですよ」

「小野の部屋であっただろう」

「そうでしたっけ?」


 こいつもよくわからない。

 というか、話をする蝙蝠というだけでも奇妙なのに、何を考えているのだろうか。

 あいつらの仲間というのだけはなさそうだが。


 小野を助け出すことを第一に考えると、彼らのいった道を追うのが正しいだろう。


「村から行ってみるか」

「ただ、瑞希が連れ去られてもう三時間は経過しています。今から追いかけても追いつける距離ではないし、あなたが塔のほうにいけば瑞希を連れ去った村人の仲間があなたを止めに来たかもしれません」


 瑞希っていつの間にか小野を呼び捨てにしている。

 俺だって名前で呼んだこともないのに。


「お前、どさくさに紛れて小野を呼び捨てにするなよ」

「嫉妬しているんですか? あなたのことも名前で呼ぶからひがまないでください」


 蝙蝠に嫉妬っておかしいだろうが。

 いや、そもそもこいつの発言をまとめると、俺が小野に嫉妬しているみたいだ。

 どこまで本気なのか冗談なのかわからないが、こんなことをやっていても仕方ないので、俺は一度村に戻ることにした。


 さっきと門番が変わっていなかったことに、ほっと胸を撫で下ろす。

 出て行ったばかりの俺をすぐに迎え入れてくれると思ったためだ。


「俺たちは行きたいところがあるんだ。通してくれないか?」

「それはできません」

「さっき出て行ったばかりだから、変わらないだろう」


 村を出てものの十分もたっていないのだ。

 だが、彼は頑なに首を横に振る。


「すみません。夜になったら町に入れるなと言われているので、明朝まで待っていただけませんか?」

「今、出てきたばかりなのに」

「すみません。規則なので」


 彼は申し訳なさそうに俯く。


 彼が俺を入れるなと決めているわけではないだろう。考えられるのは、あの村長か、それとも権力を持った何者か。それとももともとそういうものなのか。候補はあれど、現状ではその誰かを突き止めることは困難だ。


 それに、あの村長が地図をくれたのは、俺に暗に外を回っていったほうがいいと教えているとも考えられなくもない。

 俺はこれ以上、彼に村の中に入れるのを頼み込んでも無駄だと判断し、ブルーノと一緒に門を後にした。


 塔に忍び込めばいいのだろうか。

 だが、村長は神殿にいると言っていた。その違いは何だろう。 

 ブルーノにそれを伝えると、こう返事が返ってきた。


「恐らく塔からその神殿に通じているんじゃないでしょうか」

「ということは塔を通って神殿に入ると最も近道ということか。じゃあ、洞窟でも続いているのかな」

「その可能性は高いでしょうね。それにあの塔の続きに洞窟があれば、魔物も出ませんしね」

「魔物?」

「あの洞窟にいたような魔に支配された動物や人間が町の外はうろうろしているんですよ。あの塔から神殿まで魔物が入らないようにしてあれば、魔物はでなくなっています」

「何で町の外限定なんだ?」


 ゲームだとそうだが、目の前に存在している世界で、町の中だけ敵が出ないのは違和感はある。

 高い壁があるから入ってこれないかもしれないが、そもそも村の出入り口にいるのは一人の兵士だけ。

 突破しようとしたらいくらでもできるはずだ。


「一応、町には結界が張ってあって魔を持ったものが侵入できないようになっているんですよ。それを考え出したのはこの世界で偉大な賢者と呼ばれていた男です」

「そうなんだ」

「誰か知りたいですか?」

「興味ない」

「またまた」

「聞いてほしいならそう言えよ」


 俺は半ばあきれ、ブルーノにそう返した。


「どうしてもというから教えてあげます。その賢者とはエメリヒです」

「悪党の?」


 ブルーノは羽を動かす。


「どれだけ偉大でも魔物になってしまったのなら、どうしょうもないよな」

「そうですよね。では、行きましょうか。町の塀に沿って歩けば魔物にも会いにくくなります」


 戦いを極力避けたい気持ちはあるが、俺は地図を開き位置関係を再び確認する。

 ちょうど地図上がきらきらと光っている。


「何、これ」

「これは現在地です。持ち主の居場所を示します」


 細かい原理はよくわからないが、魔法がある世界でそんなことを気にしても仕方ない。まず村長の言ったように神殿に行くか、ブルーノの発言にかけて塔に行くかにより答えは異なる。目指す場所はおなじだが、こちらから神殿に行くのは平野が多い。けれど、塔と神殿を直線でたどれば、大きな森を抜けて行かないといけない。遠くを見やれば森らしきものがかなり離れた場所に見える。


 それに村を迂回する形で塔までいこうにも人が暮らす村はかなり大きい。そこに行くまで数時間は余裕でかかりそうだ。


 そもそも村長のいったように神殿に直行すべきか。

 今夜だとしても、二十四時間でたどり着けるのだろうか。

 いろいろな可能性を考えつつも動けないでいる俺にブルーノが声をかける。


「ついてきてください」


 ブルーノはそう言い残すと、先導するかのように黒羽を揺らす。

 彼が飛んだ方向は村の北側。即ちあの塔のある方向だ。

 彼的にはあの塔のほうに歩いていくほうがいいと判断したのだろう。今は良い方法が思い浮かばないため、彼の後についていくことに決めた。だが、ずきりと今まで以上に腕が痛み、思わず歩をとめた。

 包帯を解くと、皮膚が想像以上に爛れていた。


「言い忘れていましたが、あなたの怪我は村長からもらった薬で治せますよ」

「早く言ってくれ」


 俺はバッグからあの薬を取り出し、さっそく口に含む。やけどの部分がふっと熱を持ち、傷が塞がっていく。

 小野の言っているようにゲームの世界だとしたら、アイテムや魔法で怪我が治るのだから、不思議はないのだが、奇妙な感じだ。


 日本に持って帰れたら、ギネスに余裕で載れそうだ。

 どういう原理でとかは考えるだけ無駄なんだろうな。


「村長も言ってくれたらよかったのに」

「もう彼も薬草の手持ちがなかったんじゃないですか? あなたが薬草を使い切ったと思い込んでいたら言いにくいでしょう」

「確かにな」


 ブルーノの魔法であっさり倒せたが、敵はあの村の人間を殺していたのだ。

 それなりに強かったんだろう。


 俺の傷も治癒し、再び歩き出そうとしたとき、俺たちの前に二体の粘性のある塊が現れる。あの洞窟にいた生物と妙に似ている気がするが、俺の頭くらいの大きさで随分サイズが小さい。彼の目は赤く光り、魔にとりつかれた生物というのはすぐにわかった。


「戦うべき?」

「戦うべきです。戦えば、魔から解放できるし、あなたにも経験値が入ります。今のままではあなたはエメリヒには勝てませんよ」

「エメリヒねえ」


 そもそもそれは俺が倒すべきなんだろうか。

 小野の弟が見つかり、ほかの方法で日本に帰れるなら、ぶっちゃけ倒す必要もなさそうだが。


 その時、あの生き物が俺に体当たりをしてきた。

 バランスを崩して、俺は慌てて体制を立て直す。

 まずはこいつを倒さないといけない。


「氷はこいつに効く?」

「効きますよ。上位クラスは聞きませんが、下位クラスであれば十分です」


 俺はブルーノの言葉を聞きとげ、呪文の詠唱をした。すると、目の前の二体の生命体が凍りつき、殻のように生物を覆った。その殻ごとぱりんと割れる。その生物たちは俺と目が合うと、茂みの中に身をひそめた。

 青色の玉が転がり、俺とブルーノの体に入った。

 俺たちは塔に向かって歩き出すことにした。


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