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異世界に迷い込んだ俺と彼女の冒険譚  作者: 沢村茜
第一章 魔法のある世界
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依頼の終了

 その蝙蝠が藍色の光を宿し、眩く光る。その光が俺に一直線に駆けて行き、俺の体を包み込む。

体に静電気が起こっているのか、指や手先がぴりぴりと鈍い痛みを覚えていた。

そして、頭に浮かびあがってきた呪文をゆっくりと言葉にする。


「雷鳴よ。轟け」


 直後、その生命体目がけて、白い光が貫いた。その生命体は耳が割れそうな叫び声をあげ、その場で静かになった。

 俺の周りを取り巻いてた藍色の光が消え、蝙蝠が心なしか得意げにしているように見える。


「これでこの洞窟も静かになりますね」


 何か一仕事を終えたかのように清々しい口調で語った。一仕事を終えたのには違いないのだけれど。


「というか、お前自力でこれを倒せたんじゃないか?」


 彼の魔法で一撃だったということはそうした素直な疑問が出てくるわけで。

 彼は羽で俺の肩を叩いた。


「わたしは魔法の知識はありますが、魔力を今は十分には使えないんですよ」

「何で?」

「何でと言われましても、個人的な事情です。そもそも魔力を使えたら、あの犬を自分で退治していたはずです」


 確かにそれは分かる気はする。


 その時、その生命体が眩い光に包まれる。あの巨大な生物が出てくるのかと思いきや俺の顔くらいのサイズの生命体がぽんと飛び出してきたのだ。そして、先程の球が六個出てきて、俺と小野、ブルーノに二つずつ飛び込んでいく。ブルーノが仲間だと見なされたということなのだろうか。


 その時、ふっと体に力がみなぎる。小野も何か異変を感じたようだ。


「レベルの上昇ですね。レベルが上がっていけばどんどん強い魔法を使えるようになる予定です」

「お前、何でそんなに詳しいんだ」

「わたしが博識だからです。あなたはわたしが知ることに疑問を呈する前に、お礼を言うべきだと思います」


 彼の言うことはもっともだが、何か妙に引っかかる言い方なのはどうなんだろう。


「ありがとう。村に戻るか」


 俺はスライムの阻んでいた道を見る。


「ここが通路なら別の町に行けるのかな」

「おそらく道が塞がれていますよ」


 ブルーノはそういったが、小野と確かめにその道に入ってみることにした。そして、百メートルほど進んだ場所で、岩が崩れたのか道が塞がれている。このまま隣の町や村に行くのは無理そうだ。


 出口に行くと、村長の姿がまだあった。どうやら彼がここで行く手をふさぎ、他の場所に行くことはできないようになっているのだろう。

 俺たちは村長に倒した事を告げた。再び洞窟内に一緒に行き、倒したのを確認する。ちなみに、ブルーノは俺のローブの中に隠れている。


 家にもどると、村長は報酬として布の袋を二つくれた。

 お金とさっきの回復アイテムが入っているようだ。

 小野の話によれば、これから装備を整え、次の町に行くようだ。


「村の中をぶらついて、次の町に行こうか」

「そうだね」


 村長の家を出ていこうとした俺たちを、村長が呼び止めた。


「よければ今日は泊まっていってください。せめてものお礼です」


 窓の外を見ると、太陽が沈みかけている。

 夜フィールドを歩くよりは、明日移動したほうが安全面からも良いかもしれない。

 俺は小野の意志を確認するために彼女を見る。彼女は俺が何を言いたいのか分かったのか、頷いていた。


「部屋は同じでよろしいでしょうか? それとも別々で?」


 見知らぬ場所で一人ずつ別の部屋に泊まるのは妙な不安があるが、小野が女の子ということもあり、別々を選んだほうがいいだろう。それに一応の恩人である俺たちに、村長が何かするとは思わない。


「別々で」

「分かりました。準備をしますね」


 そう言うと、彼女は部屋を出ていった。


 そして、五分程経過した後、村長の奥さんが俺たちを案内するために戻ってきた。

 俺たちの部屋はその部屋を出て右手にある部屋で、部屋自体は隣同士だ。


「食事ができたらまたお呼びしますね。何か分からないことがあれば言ってください」


 彼女はそう言い残すと、さっきの部屋に消えて行った。

 食事をとると、俺の部屋に集合した。


「何か、疲れたね」


 小野は俺の部屋に備わっている椅子に座ると、天を仰いだ。

 食後を終えた一時と言いたいところだが、訳の分からない世界に来た初日だ。

 どうしても余計な考えが脳裏を過ぎる。


「明日になったら、いつもの世界で目覚めているといいね」

「そうだな」


 当たり前のように小野の言っていたゲームの世界というのを受け入れていたが、これが俺の夢という可能性も否めない。それだったらそれでいい気もする。


 その時、ブルーノが俺たちの目の前にやってくる。


「では、報酬をいただきに来ました」


 俺は村長からもらった袋の封をあけ、机の上に置く。そこには銅の貨幣が数枚入っているが、どれくらいの価値なのかはよくわからない。


 ブルーノはそれを見て、長い溜息をついた。


「報酬はこれだけ? 少な過ぎですよ。交渉すべきです」


 そう言われても、はいそうですと言われる程、この世界の通貨が分かっていない。

 それに多額の金を請求しても、この村にはこの村が払える金額というものがあるはずだ。


「別にいいよ。これが見合う額と言う話だったんだろうしね。そもそも報酬の話をしてなかったから、今さら価格を吊り上げるのは人としてまずいと思うよ」

「わたしは蝙蝠です」

「でも、俺たちは人だしさ」

「わたしも貨幣価値も分からないから、別にいいよ。隣の町に行く旅準備さえ整えばさ」


 彼女も今からあれこれ請求するのは気が咎めたのか、そう告げる。


「そもそもあなた達はどうやって彼らを倒すはずだったんですか? ろくに情報収集もせずに討伐に向かうなんて間違っています。先ほどもわたしがいたから倒せたにすぎません」

「言われてみればそうだけど、ブルーノに会えたし、結果オーライだよ」


 その俺の返事にブルーノは長いため息をついた。


「分かりました。こうした未熟者といえど、死んでしまっては困りますので、わたしが旅にどうこうしてあげます」

「は?」


 そう言ったのは俺だが、小野も驚いた様子でそのブルーノを見つめている。


「同行しなくて大丈夫だよ。まずは隣町に行くだけだもん」

「次の町の名前は?」

「ユルゲンに行けばいいんじゃないかな。たぶん。ここから一番近くて大きな町だもん」


 答えたのは小野だ。

 小野は洞窟が通じている先にあるノルトという村もあることをあわせておしえてくれた。


「では、どちらの方向にあるのかご存じですか?」

「えっと、北の方?」


 小野は不安そうに口にする。


「北と言っても、南北、北西に行くのでは別の方向になります。その上、ユルゲンまでは歩いて十時間かかるので、道を間違うと野宿しないといけません」

「野宿?」


 その言葉に小野が顔を引きつらせた。

 俺でさえ野宿は避けたい。女の子である彼女なら尚更だろう。

 十時間といえばほぼ半日だ。


「わたしがついていけば、この世界の地図がばっちり頭に入っているので、道に迷いません。要は野宿も必要ありません」


 小野はブルーノの言葉に心惹かれるものがあるのか目を一瞬だけ輝かせた。


「それなら助かるけど……」


 小野は不安そうに俺を見る。

 俺次第と言いたいのだろうか。

 まあ、いちいち引っかかる言い方をしてはくるが、力を貸してくれたし、悪いやつではないのだろう。それに道案内をしてくれるのはすごく助かる。


「俺は構わないよ。蝙蝠なんてその辺の野鳥と一緒だし」


 そう言った俺の手にブルーノがかみつく。


「そうじゃなくて、そんな展開、このゲームになかったと思う」


 彼女が気にしているのはそっちの方だったのだろう。


「ゲーム?」

 ブルーノは首を傾げる。


「こういう蝙蝠に会わない?」

「会わなかったと思う。でも、野宿は嫌だからついてきてください。池上君もそれで良ければ」

「仕方ないですね。そこまで言うならついていってあげます」


 小野の言葉にブルーノは満足そうに胸を張っているように見えた。

 その時、小野が欠伸をかみ殺す。

 明日以降の予定が決まったこともあり、早めに眠ったほうが良いだろう。十時間もかかるとなれば、早めに出ないと着いたら夜になってしまう。


「もう寝ようか」

「そうだね」


 俺はテーブルの上の布袋に気付く。


「このお金はどうする?」

「池上君が持っていて。明日まで使うこともないと思うから」


 俺は首を縦に振る。


「この部屋は鍵がかかるみたいだから、小野の部屋もそうだと思う。鍵をかけておけよ。鍵がなかったら部屋を交換しよう」

「分かった」


 小野は優しい笑顔を浮かべる。

 俺と小野は明日早く起きたほうがもう片方を起こしに来るということで、話をまとめた。そして、明日に備えて早めに床に就くことにした。


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