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異世界に迷い込んだ俺と彼女の冒険譚  作者: 沢村茜
第一章 魔法のある世界
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モンスター退治の依頼

 小野は驚いたように俺を見る。だが、彼女は一人でに何かを納得したようだ。

 一方のこの家の住人らしき夫婦は男性は怪訝な顔をしたものの、女性のほうはどこかホッとしたような笑みを浮かべていた。


「構いませんよ。もし断りたかったらいつでも言ってください。子供たちに無理強いはさせたくないので」


 彼女はそう言うと、俺と彼女を奥の部屋に案内してくれた。

 ベッドと机、クローゼットがあるだけの簡素な部屋だ。

 生活感がなく、ホテルの一室を連想させる。


 彼女が出ていくのを待ち、俺は小野に問いかけた。


「モンスター退治って、俺たちがするのか?」

「わたしたちかは分からないけど、ストーリー上では依頼を受けることになっているよ」

「退治か」


 ということは殺すということなんだろうか。

 さっきの人間のように追い払うだけでいいんだろうか。

 そもそも俺たちにそんなことができるんだろうか。


「池上君は怖い?」


 彼女は不思議そうに首を傾げている。


「小野は平気?」

「平気でもないけど、このままじっとしていてもどうしょうもないって思うの。さっきの男たちが来たら嫌だもんね。どうしたらいいか分からないからこそ、物語を進めていくしかないと思うんだよね。なるようにしかならない、と。一応話し的にはこの魔物を倒せないと、次の町に行けないようになっている」


 ゲームだと出入り口が封鎖されていたり、橋が修理中だったり、そうした制約があったりするもんな。

 彼女なりに覚悟を決めたのが、今の結果なんだろう。


「その魔物を倒せないとどうなると思う? そもそも俺たちに倒せるのかという素朴な疑問もあるよな」


 小野は首を傾げる。


「それはちょっと分からない。ゲームだと何度全滅しても時間が戻ったり、生きかえったりするものだもん。主人公たちは困っている村人を放っておけないといって倒すの。そして、それでお金をもらって旅の準備を整え、その魔物を倒すことであたらしい魔法を覚えるの」


 彼女の話が物語をなぞったものだからか、妙に説得力がある。


「でも、ここがゲームの世界だったとして、俺たち以外に主人公というか、本来その役目を果たす人が果たせなくなってしまったりしないのかな」

「それはさすがに分からないけど、ストーリーが分かっていて、逆にゲームと違う道をたどったせいで、進歩に支障が出る可能性もあると思う。だったらストーリーに沿って行動するのが無難かな、と。


 彼女の言うことには一理ある。だが、そもそもゲームの中にいるという前提条件は正しいのかと言われると、俺には良く分からない。


 だが、俺たちのとるべき道は一つしかないだろう。


「とりあえず依頼を受けるか」


 俺の言葉に彼女は頷いた。




 俺たちが先程の部屋に戻ると、村長夫妻が出迎えてくれた。


「さっきの退治の件をうけたいと思います」

「本当ですか?」


 喜ぶ村長とは違い、その妻はどこか釈然としないようだ。

 彼女が言っていたように、子供に全て任せるのをあまり良しとしていないのかもしれない。


「せめてもの気持ちとしてこれをお渡しします」


 彼はタンスの中から透明な容器を四つ持ってきた。手のひらにすっぽりと収まる大きさで、透明な液体が入ったものと、白い液体の入ったものが二種類ある。瓶はガラスより軽く、プラスチックを連想した。この世界にそうした物質があるのかはよくわからないが、ゲームの中であれば何か特別の似たような物質があってもおかしくはない。


「これは傷を回復するもので、この白い液体は魔力を回復してくれます。ただし、使うとなくなるので注意してください」


 彼は説明を加えながら、その四つの瓶を俺たちに渡す。


 俺と小野は二種類を一個ずつ等分すると、もっていたショルダーバッグに入れる。


「さっそく、魔物の場所に案内します。構いませんか?」

「そんな急に」


 俺たちを気遣ってくれた女性に「構わない」と告げると、彼にモンスターのいる場所まで案内してもらうことにした。


 俺たちは村長の家の裏口から外に出る。その先は地面は整えられているが、両サイドに木々が等間隔に植えられているためか人気のない道が広がっている。俺たちはそのまま人気のない道を歩いていく。


 彼の足が止まったのは村の東側にある山だ。そこには洞窟のような穴が開いているが、入れないように柵がしてあった。


「この洞窟は隣町とつながっているのですが、少し前からモンスターが住み着き、物流も途絶えてしまっています。わたしはここまでしか行けません。申し訳ない」

「大丈夫ですよ。行こう」


 小野はそう言うと、俺より先に洞窟の中に入る。女の子を先に行かせるのに抵抗のあった俺は、村長に頭を下げると小野の後を追った。



 中は鍾乳洞のようにひんやりとしている。小野は洞窟を少し入ったところで足を止めていた。彼女の傍に行くと、彼女が立ち止まっていた理由に自ずと気付く。そこには分かれ道があったのだ。まるでクイズの二択のように歩きやすくて太い道と細い、俺と小野が一列で歩くしかなさそうな道。


「どうしよう」


 小野は困ったように俺を見た。

 彼女が困っているということは、ここまでは進めていなかったのだろうか。その割にはその後についても詳しかった気がするが。


「小野ってゲームをやったわけじゃない?」

「部分的に遊んだけど、基本的に弟がやっていたかな。弟はゲーム好きな友達がいなくて、わたしが基本的に話し相手になっていたの」


 彼女はそう苦笑いを浮かべて答える。

 それなら彼女がストーリーラインを知っている割に細かいことを知らないとしても理解はできる。

 とりあえず相談して決めるのが良さそうだ。


「希望はある?」

「わたし、こういうのを決めるのが苦手で、よければ池上君が決めて。別々の道を選んでもいいよ」


 彼女は首を横に振りそう口にした。

 昔話などを読むと、大きなものより小さなものに当たりが多い気がする。けれど、見知らぬ場所に来て、モンスター退治をしてくれという突拍子もない状況に陥れば、一緒に行動したほうがいいに決まっている。


「こういう場合って細い道のほうが正確そうだけど、俺も小野もまだよく分かっていないからさ、二人で歩ける道にしよう」

「そうだね。突然、襲いかかられたら、どうしたらいいか分からないもの」


 幸い、彼女も俺と同じ考えだったようだ。

 俺たちは大きな道に足を踏み入れた。


 だが、その直後、俺たちの目の前に蝙蝠のような黒い羽をした生命体が現れる。その生物が俺たちのほうをちらりと見た。そして、俺の頭を飛び越え、その背後に身を潜める。


「何?」


 俺と小野はお互いに戸惑う心を言葉にした。

 だが、その奥から響く声に俺たちは意識を奪われる。そこには犬のような四足歩行の動物が赤い目をたぎらせながら、唸り声をあげていたのだ。


「敵?」


 だが、その返答の前に、その生命体が俺に向かって飛びかかってくる。

 その鋭利な爪で、反射的に前に出した右腕を引っ掻かれる。

 思わぬ苦痛で顔を歪めた。

「池上君」

「念のため下がっていて」


 俺は彼女の一歩前に出ると、精神を集中し、呪文の詠唱を始める。

 その呪文は男たちを追い払ったのと同じ、水を扱う呪文だ。

 呪文の使い方はやっぱり今でもよくわかっていない。だが、呪文を口にしたらそれに見合った効果が表れるということは何となく俺の本能がそう察していた。


 目の前の生物が氷に包まれ、地面に落ちた。

 小野に危険が及ばなかったことにほっと胸をなでおろす。


「殺したの?」


 小野は怯えた様子でその生物を見つめていた。

 そう言われて我に返る。

 俺も危惧していたこと。


「そういうつもりじゃなかったけど、そういうことだよね。退治するって」


 小野は慌ててそう弁解する。俺が自分の手をじっと見た時、視界の隅で眩い光が現れた。

 犬のような生物は眩い光に包まれていたのだ。彼を包み込んでいた氷が割れた。

 一時的に動きを封じただけなのだろうか。


 固唾をのみ、小野と生き物の間に割り込むようにして立つと、次の成り行きを見守っていた。その動物が動き出したら次にどのような行動をしようか頭を働かせながら。


 その生物がゆっくりと起き上がる。だが、その眼は先程のように赤く光ってはいなかった。さっきまでとは何かが違う。

 その犬は甲高い声をあげると、俺たちのわきを抜け、村の方に駆けて行った。



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