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異世界に迷い込んだ俺と彼女の冒険譚  作者: 沢村茜
第一章 魔法のある世界
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ゲームとの共通点

 だからこそ、その手がかりをなんでもいいので探したいと彼女に相談され、俺も小野の頼みであることと、彼女の弟が心配だったため俺も彼女に力を貸すことにした。

 まずは彼女の弟の情報を集めるのが先決だ。

 俺は小野の弟のことを全く知らないのだ。


 顔写真を見せてもらいたかったが、さすがにそれは持ち歩いていないらしく、翌日見せてもらう約束をした。そのほかの弟の情報を彼女から手に入れる。身長、体重、好きなもの、嫌いなものなど。


 その過程で、彼には最近はまっていたゲームがあると聞かされたのだ。

 ゲームと失踪が結びつくかは分からないが、とりあえず情報は一つでも多いほうがいい。

 彼女にどんなゲームか教えてもらおうと学校帰りに公園に立ち寄ったのだ。


 俺は小野に簡単なゲームの遊び方を教えてもらおうとゲームを起動したところで記憶が途切れている。


「わたしもそうだよ」


 一連の流れを確認すると、彼女は首を縦に振った。


 俺の記憶は小野の証言と一致している。


 次に俺たちはなぜこんな服装をしているかだ。

 そのときまで俺たちは学校の制服を着ていたはず、だ。


 改めて小野の服を見ると、彼女は制服とは似ても似つかない白いローブを身に着けている。その下には桃色の素材が見え隠れするが、彼女はベルトをきちっとしているため、何を着ているのかははっきりと分からない。ひらひらとした素材が見えるため、ワンピースか、スカートでもはいているのだろう。


 俺は色違いの黒のローブだ。その下には白いシャツにカーキのパンツだ。ただパンツというよりは足首をきゅっとしばってある、俺の母方の田舎のばあちゃんがよく来ていたパンツに形状が似ている。もんぺとか言っていた気はするが、名前は間違っているかもしれない。細かいことはおいておいて、俺はこんな服を持っていない。だから、こんな格好をしていること自体がおかしい。


「小野の制服や鞄は?」

「分からない。こんな洋服も持っていないし、制服も鞄もどこかにいっちゃった」


 俺も小野も、持ち物を全部取られ、こんな服装をさせられた……?

 そもそも追いはぎがいて、俺と小野の洋服や物を奪ったと仮定しよう。

 そんな奴らが俺たちにこんな洋服をわざわざ着せるだろうか。

 普通はノーだ。


 次に場所だ。広がるような自然といえば聞こえはいいが、言い換えれば何もない場所だ。

 人の家も、車のエンジン音も、ビルも何もない。

 つうか、ここはどこだ。


 彼女が俺を伺うような目で見つめているのに気付いた。


「あのね、一つだけ変なことを言っていい?」

「何?」

「このローブ、あのゲームの登場人物が着ていたのに似ているの」

「ゲームって、さっきのゲーム?」


 彼女は頷いた。


「俺たちは強制的にコスプレしているってこと?」


 荷物を盗まれて、コスプレをさせられたって並の犯人より怖いじゃねーか。

 俺はともかく小野も服を脱がされたってことだよな。

 なんつーか、むかついてきた。


「それならあんな魔法みたいなのは使えないと思う。それにこんな場所ってわたしたちの住んでいる街にはないと思うよ」


 確かに彼女の言うとおりで、彼女が息を吸い込んだのに気付き、次に導き出される言葉を待っていた。

 彼女は短く息を吐いた。


「すごくばからしいかもしれないけどね、わたし達、ゲームの中に入っちゃったんじゃないの?」

「ゲームの中?」


 突拍子もない話に俺は彼女を見る。

 動揺からか、突拍子もないことを言いだしたためか、彼女の目はうっすらと涙が浮かんでいた。だが、その眼は真剣そのもので、冗談を言っているという気はしない。


 本気でそんなことがあり得るのだろうか。

 彼女の言っている内容の真偽が分からないが、魔法のようなものを使えるというのが、俺たちの知る現実とは何かが明らかに違っている。


「小野はそのゲームの内容を覚えている?」


 彼女は頷いた。


「簡単に言うと、一人前の魔法使いになりたい男女が旅をして、悪い魔法使いを倒して、一人前の魔法使いになるという話なの」


 ありきたりな内容だとは思う。ただ、俺と小野で一組の男女にはなるのが妙に引っかかる。


「物語はまず三人組みの男に絡まれたところから始まるの。それを見ていた村の村長がモンスター退治を依頼してくるの」

「三人組の男?」


 俺の脳裏によみがえったのはさっきの男たちだ。


「女を連れ去ろうとして、攻撃をしかけて、反撃される」


 それってさっき俺が見たまんまじゃないか。


「気持ち悪いくらい一致しているな。ここで村長でもこようものなら、まんまだな」


 そう俺が言った時、俺たちの体に細長く頼りない影がかかる。立っていたのは布を継ぎ合わせたような服を来た年配の男性だ。俺のじいちゃんと同じくらいか、若干年上かもしれない。


 彼は俺と小野を見ると口元に手を当て、咳払いをした。


「旅の者か?」


 俺と小野は顔を見合わせ、頷いた。


「かなりの魔法の使い手と見た。その才能を見込んで、折り入って頼みがあるんじゃが」


 俺は小野の話の再現のような出来事に驚き、小野を見ると、彼女は困った顔をして頷いていた。


 俺たちは迷ったあげく、その老人についていくことにした。

 彼が悪い人に見えなかったのと、このままだと俺も小野も勝手が分からず、その場で呆けることしかできなかったためだ。ゲームの流れに沿っているなら、そのルートから逃れるとどうなるか分からないという気持ちもあったんだろう。


 彼は俺たちが話を聞くと言ったことを感謝してくれ、彼の家に案内されることになったのだ。


 俺たちは森の中に入るが、その森はすぐに開ける。

 そこには畑の間に家々が点在している村のような場所があったのだ。家は木造建築の、昔ながらの日本の建造物を彷彿とさせ、当然だがマンションのようなものは存在しない。町の中には川もあれば、タワーのような高い建物もあるし、明らかに変わった場所だ。


 牛と思しき動物を連れている人もいて、のどかな田舎の風景といったところだろうか。

 遠くを見やれば村を囲む高い柵が連なっていて、その中に一か所だけ人の立っている場所がある。


 あの柵が村を取り囲んでいるとしたら、俺たちはどこかの村の中のはずれにいたようだ。ただ柵は見えなかったのではずれという表現は正しいのかはわからないが。


「ここはわしらの村じゃよ」


 俺と小野は事情が呑み込めないながらも、彼の家までついていくことになった。


 俺たちは少し離れた場所にある木製の大きな家に案内された。俺の家の十倍くらいはありそうな豪華な家だ。その家に行く道中、人の視線を否応なしに浴びて目立っているのを実感していた。のどかなところだからか、見かけない人がいたのが珍しかったのかもしれない。


 小野の言うとおり、これらがゲームの世界だとしたら、こうして俺たちを見ているのはゲームの中で作られた人格ということなのだろうか。


 その家の中に入ると、金髪のおばあさんが出てきた。さっきの男性よりは若いのか、俺の祖母と同じくらいに見える。


「その方たちは?」

「洞窟に巣食うモンスターを退治してくれるそうなので連れて来たんじゃよ」


 モンスター退治って、本当に小野の言っていたまんまかよ。


「こんな子供たちで大丈夫なのですか? 相手はもうこの村の大人を十人以上も殺したというのに」


 俺は小野を見る。こうした状況に怯えるのかと思っていた彼女は、意外と平然そうな顔をしている。怖くないのか、意外とこういうのが好きなのか。俺にはどうも彼女の本心が読めなかった。


 さっきの話も強引に中断されたままで、もう少し小野に詳しい話を聞く必要がありそうだ。

 モンスター退治を受けるのかといったストーリーの根幹にかかわることはもちろん、彼女が今の現状をどう思っているのかも併せて。


「少しだけ彼女と二人で話をさせてもらえませんか?」


 俺は二人の夫婦らしき男女を交互に見て、そう頼むことにした。


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