世界は真っ暗闇
ビルの屋上。四方には飛び降り防止のため設置された2m級の柵。たった1つの出入口も、既に機動隊に占拠されている。女―神に逃げ場はない。
「動くな! お前のヘンテコな『力』は防犯カメラで確認済みだ。少しでも変な動きを見せれば、撃つ」
刑事は黒光りする銃口を神に向ける。
「日本のケーサツ、撃てナイ……ドラゲナイ」
「バカにしてもらっちゃ困る。前後の手続きが煩雑なだけで、引き金は引けるんだよ。いつだってな」
刑事は神に照準を合わせたまま、部下と共に距離を詰めていく。
「ククク……」
「何が可笑しい」
「『創造アプリ』の起動……何モアクションだけじゃない。音声ニンショウでもカノウ―」
刑事のシナプスが瞬時にあらゆる情報を統合する。神が言い放った、この場に相応しくない不自然な言葉―ドラゲナイ。歌詞だということは知っている。だが注目すべきはソコじゃない。誰が歌っている? SEKAI NO OWARI……セカイのオワ―
「ファ〇ク」
刑事が最期に力なく発したのは、世界で一番使用されている罵詈雑言。その言葉に神はニカッと笑い、刑事に対して「Fxxk you」とネイティブな発音と中指を立てるといったネイティブなアクションでもって応える。「光あれ」。原初の神は宇宙を創造する際そう言い放ったと云われている。最新であり最終となった女神は「くたばれ」でこの世に終幕をもたらした。結局、彼女が何者だったのかを知る術はない。神の力―『創造アプリ』をhackし、copyすることで自らのものにした女―。全てが消えゆく世界の中、TSUTAYAへ延滞していた『世界の腰つき厳選2時間!』を返しに行く途中だった元・神は、(ラッキー! 延滞料払わなくてすむわ!)と、すっかり下世話な思考しかできなくなっていた。だから彼に聞いても分らない。ただ一つ、作者としてヒントを出させてもらうなら、私は最近『ドラゴンタトゥーの女(ハリウッドリメイク版)』を観たということだけである。
……神は死んだ。創造力も想像力も潰えた。後には空しさだけが残された。