1 ある日曜の夜
「今度は、いつ会えるんだろうね」
白いベッドの上から遠くの灰色の空を見上げて、加奈は言う。そのたびに俺はギュッと胸が締め付けられる思いだ。
「俺が来てやったばっかりなのに、なんでいつもすぐそんな心配するんだよ」
俺はこの先お前を死なせないつもりだし、寂しい気持ちを軽くしてやるために来ているんだから。
「そうだね……あたしったらバカみたいだね」
すこし切なそうな声色に、ひとつしかない心臓がびくっと震える。俺もけっこうヤバいな。
「でも、変わらないほうがあんた的には嬉しかったりするんでしょ」
「んなことあるか、バカ」
「バカって言ったほうがバカなんだよ」
「ああ、おまえはバカだよ。現に、さっき自分で自分のことバカみたいだって認めたしな。お前は俺公認のれっきとしたバカだ。喜べ」
「喜ばないわよ、それにどうして急に上から目線なのよ(笑)」
「お前がそうさせたんだろう」
「ん――、じゃあさっきの暗いの撤回ね。来てくれて本当、ありがと」
「……おまえは俺がここに来るだけで嬉しいのか」
「うん。だって週に1回1時間しか会えないじゃない。この日曜を忘れないで来てくれて、嬉しい」
ああ、顔が火照る。そんなに優しい声を出すな。弱々しい顔で微笑むな。このままずっとここにいたくなってしまう。
ホントは俺だってな、会社なんか辞めてずっとお前の傍にいてやりたいし、ふたりだけの思い出を沢山作りたい。
大好きで、大好きで。片時も忘れたことは無くて。大切で、愛しくて、恋しくて。
離れてる分、気持ちだけが溢れだして止まらない。週1で会おうなんて約束、しなけりゃよかった。7日に1回だけ会うということが、こんなに苦しいとは思わなかった。それでも息せき切って会いに行く。
待ち遠しいのに、会って会って力強く抱きしめたいのに「今度はいつ会えるのかな」なんて入室早々毎回おなじみの言葉が飛んできて、切なくなるんだ。
こんなに不安になっているのは俺だけなのだろうかとか、無駄に神経が働く。
「だからね、今こうして隣にいる時間がすっごく大切。あたしの宝物なの」
こいつはそう言ってまた笑う。俺を不安にさせる歪んだ笑みだ。
「そんなに感謝されると逆に困るんだけど。会社から直で来たから手土産も何もねぇってのに……」
「そんなのいらない。あんたがいるだけで十分よ」
「おま……! よくそんな台詞をケロッと言えるな。マジ尊敬するわ」
「ふふっ、あんたは言えないんだ? 死ぬ前に、あんたの口から聞いてみたいなぁ」
「言えるか!」
もし言ってしまったら、俺はきっと――――。
「……それから、俺がここにいる間だけはせめて死ぬなんて単語出さないでくれ」
そりゃあ死と隣り合わせの生活じゃあ仕方ないと思わざるをえないけれど、せめて俺と会える7日に1度の1時間だけは「俺たちのこれから」を思う存分語りつくしたいと思う。
俺はいつの間にか加奈の青白く細い手を握っていた。お前の顔こそ見なかったが、フッと軽い息が漏れたのを聞いた。呆れ顔してるな、こりゃあ。
「ねえ、どうしたの? 今日はなんだか様子がおかしいよ」
「そんなことねーよ」
「だっていつもなら、たくさん会社の話とかしてくれるじゃない。最近楽しい話とかないの?」
楽しい話……。
「最近気づいたんだ。今のこの時間にまさる楽しいことなんてあるわけねーってことをさ」
「そうなの? へへ、嬉しいこと言ってくれるじゃん」
こうして喋っていると時間は簡単に過ぎ去っていく。
楽しい時間はあっという間だって言うけれど、だったらこいつを1人にさせている時間は絶対もっと長いだろう。というか、実際1人にさせている時間のほうが長いんだから絶対そうだ。
「あたしも、あんたとおんなじだよ。でもね、最近はお友だちができたんだ」
俺はまだ知らない。その「友だち」とやらが一体どんな人物なのかを……。
to be continued




