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序章 the pre moon
授業が終わり、教室から次々と生徒が吐き出される。
今日一日の管理と束縛からの解放――『放課後』と呼ばれるこの時間帯を、皆好き勝手に過ごしてゆく。
ある生徒は帰途を急ぎ、別の生徒は級友との雑談に花を咲かせ、また別の生徒は己の所属する部活練習へと向かっていく。さらにその数時間後には部活練習も終わり――
ギターケースを担ぎ、自転車で風を切る軽薄そうな少年がいる。
その自転車の後ろを陣取り、栗色の髪を棚引かせる少女がいる。
後輩に声をかけられ、相談事に乗ってあげる大柄な少年がいる。
校舎の屋上で、皆と群れることを嫌って一人でいる少年がいる。
後輩の娘と共に帰る、意思の強そうな顔立ちをした少女がいる。
依存と不安を内側に秘めて、先輩を見上げる小柄な少女がいる。
中庭のベンチに腰掛け、月光の下で、パンを頬張る少年がいる。
その誰とも関わらず、うつむいて帰途を急ぐだけの、僕がいる。