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二章 乗り遅れたら大体死んじゃう

某新人賞に応募し、落選したもの(の二話)をつるっとまるっと上げてみたものでございます。

 第二話


「……生代表生宣誓。代表生徒は壇上に上がって下さい」

 入学式と言う物は、いつの時代も面倒臭い事この上無い。

 多分、今入学式に参加している生徒の半数以上は、この感想を抱いている事だろう。

 新入生代表の挨拶だろうと関係無い。

 面倒臭いイベントは面倒臭いし、眠い物は眠い。

「ふーん……」

 確かに、今壇上に上がってきた新入生代表は綺麗な人だ。

 だが所詮、そんな立場の人間は高嶺の花に過ぎない。

 ああ言う人に好意を抱かれる人間なんて、何らかの物語の主人公位しか無いだろう。

 つまり、画面の向こうだけだろう。

 何か間違っている気もしない訳では無いが、気にしない。

 普通の、俺みたいな人間は、憧れるだけ無駄だ。

 周りの連中は、殆どが新入生代表に好印象を抱いた様だが(表情から推測)。

「……ここまで来ると逆に凄いな」

 高嶺の花なんて、良い物とは限らないだろうけど。


 そんなこんなで入学式も無事に終わり(どんなこんなだ)、俺は自分の所属する事になるクラスへと向かっていた。

 校門前に貼られていたクラス分け表によると、俺は一年B組に所属するらしい。

 クラスメートにどんな奴が居るか、なんて事は確かめていない。

 そっちの方が面白そうだし、中学の時に仲が悪かった連中の名前なんて見つけたくないからだ。

 名前で人を判断したく無いしな。

「……ここか」

 体育館を出て少し歩けば、割とすぐに一年生の教室に辿り着く。

 学校に慣れていない一年生は、大抵の場合で教室が一階に配置される。

 この学園でもその法則が適応されており、俺の教室は一階に存在していた。

 隣のクラスからやたらと叫び声が聞こえてくる。

 新学期だ。浮かれた奴が居るのも当然だ。

 楽しむ事は超大事。

 そう言う意味で、今の叫び声の主は幸せ者だろう。

「……まぁ良いか」

 今の俺に、隣のクラスの事まで意識する余裕は無い。

 失敗は、出来ないのだから。


 教室には、縦に六列、横に六列の計三十六個の席が用意されていた。

 俺の出席番号は三十番。

 廊下から五列目、一番後ろの席が俺の所定位置になった。

 授業中に別の事をするには向いている席を入手出来た。

 良かった。苗字の一文字目が『む』で本当に良かった。

 ……こんな事、あああああの前で言ったらネタにされそうだが、気にしない。

「皆さーん。着席して下さーい」

 何だか甘ったるい声でそう言ったのは、俺のクラスの担任(女)だった。

 新任なのだろうか。まだ入学式後の雰囲気に慣れていない様な気がする。

 何となくそんな気がする、と言ったレベルの話だが。

「で、では、皆さんに自己紹介をしてもらいまーす」

 と、いかにも『昔、自分が憧れた教師が同じ事を言っていたから真似しました』みたいな雰囲気が漂ってくる言い方だった。

 まぁ、あまりにもお決まりな展開なので、既に言う事は決まっていたのだが。

 よくある話じゃないか。

 入学式後、クラスでの最初の共同作業が『自己紹介大会』だと言うのは。

 まぁ、最近の高校だと、入学式の次の日にやる場合も多いのだが。

 ……一応言っておくが、『共同作業』と言う言葉を使った事に対する深い意味は無い。

 そんな事は別にどうだって良い。

 ここで問題なのは、自己紹介を注意深く聞き、自分と同属の人間を見つけられるかどうかだ。

 学校によっては、ゲームを趣味とする人間がクラスに全く居ない、と言う事がある。

 また、学校によっては、ゲームを趣味とする人間が大量発生している事がある。

 そう言った事を簡単に見極めるチャンスの内の一つが、この自己紹介大会だ。

 あくまでも、コレは俺の持論だ。

 誰かがこの方法を実践したとして、それで失敗したとしても、責任は取れません。

 取れるとしても取らないが。

 まぁ、取れって言う奴も居ないと思うが。念の為。

 ……さて。

 こんな小粋な脳内トーク(何処が小粋だ、なんて言わせない)をしている間にも、出席番号の頭の方から徐々に自己紹介が始まっていた。

 勿論、脳内トークの間も、俺は他人の自己紹介を聞いている。

 当たり前だ。

 もしこれで聞いていなかったら笑い物だろう。

 誰に笑われるのか、なんて知らないが。

「……です。えーっと……」

 なんて事を脳内で語っている間に、クラスの四分の一程が紹介を終えていた。

 俺の順番は、まだしばらく来ない。


 それから五分程経過して。

 出席番号二十四番の自己紹介が終了した。

「後六人、か」

 幾ら事前に台詞を考えてあったとは言え、順番が近付けば流石に緊張する。

 俺が名前を言った瞬間に笑い出す輩は必ず居るから、そいつらは無視。

 流石に全員が笑ったりしたら心が折れるが。

 まぁ、そんな事はまず無いだろう。

 あったら泣き出す自信があるが。

 と、俺が自分の番に向けて準備していた時。

 悲劇は、起きた。

「出席番号二十五番、愛川綾香」

 ……は?

「遠くの中学校からここに入学しました」

 は、は、ははは……。

「はぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあああぁぁぁああああぁぁぁ?」

 ガタッ、っと椅子がずれる音がした。

 が、割とすぐに、その椅子が思いっきり後ろに倒れた。

 大きな音がしたが、俺はそんな事すら後に知った。

 ……何で。

「何でお前がここに居るんだあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 俺は叫んでいた。

 まぁ、そりゃ、叫ぶだろう。

 こんな風に自分に言い聞かせないと、後から思い出したって心が折れそうだった。


「……何っで、あんな目立つ事したのよムムムは」

「夢霧村君、お陰で一気に有名人になりましたよね」

「よくもあんな大声で叫べるわね。……疲れるのに」

「はぁあ……。鬱だ」

 自己紹介後の一年B組教室。

 俺はあああああ、そして他二人と共に昼食を取っていた。

 こんな事になっても良い様に、朝、コンビニでパンを買っておいた。

 ……まぁ、実際はただの早弁用なのだが。

 細かい事は気にしたら負けだ。

 何に負けるのか、なんて分からないけどな。

「この学年には物凄い情報通が居るって噂ですしね。……このままだと夢霧村君、あっと言う間に学年の有名人になれますね」

 この語尾に『ね』が付く男が、山田風葉やまだ かざは

 席が俺の隣、と言う理由で、自己紹介が終わると同時に話しかけてきた。

 何と言うか、声がキザ。

 薔薇の花とか咥えてそうなイメージ。

 しかも、そんな声に似合って(?)、顔は良い。

 やっぱり薔薇の花を咥えてそうなイメージしかない。

 そんな男が、山田風葉。

「悪い意味での有名人にしかならなさそうだけどね」

 こっちの、さっきから辛辣な発言が多い女は、佐原佳奈夜さはら かなや

 平均より高めの身長に、雑に結われたポニーテール。

 不機嫌そうに腕を組み、不機嫌そうな声色で俺を射抜いてくる。

 腕を組む事で強調された胸は、お世辞にも大きいとは言えないサイズ。

 そんな女子が、佐原佳奈夜。

 コイツの自己紹介を聞いたあああああが『何か面白そーな人だー』とか言う理由でここに引っ張ってきた。

 同情せざるを得ない。

 で、その佳奈夜が俺に、人を殺す事が出来そうな目線を放っている。

 ……何故俺なんだ?

 いや、まぁ、さっきの俺の咆哮の後なら、誰に睨まれたって文句は言えないだろう。

 だからって、こんなに殺人光線を浴びせなくても良いだろう。

 何故か、『ごめんなさい』の六文字を言わないといけない気がしてくる。

「……で、何でさっき叫んだの」

 殺人光線と同時並行に、俺は冷たく言われた。

 語尾に『?』とかが付いていればまだ可愛げがあった物の、今の台詞には明らかにそんな可愛らしい物では無かった。

 今、俺は業務的な話でもしていたのだろうか。

 雑談的なノリだと思っていたのだが、どうやらそれは間違いの様だし。

「あぁ、それはムム……、正加が「え?」」

 俺が佳奈夜の台詞に怯えていた時、俺に向けられた質問に、あああああが答えていた。

 何で、あああああが答えているんだ?

 てっきり俺は、あああああは面白がって何もしてこないとばっかり思っていた。

 今の『え?』は、そう言う理由で俺が発した声だ。

「コイツが、私と運命の再会が出来てうっかり叫んじゃった、って」

 さらりと。

 あああああは、クラス中に聞こえそうな、って言うか実際にクラス中に聞こえる様な音量の声で。

 そんな爆弾発言をしでかした。

 って言うか、やらかした。

 あああああは、やらかしやがった。

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 クラス中が沈黙に包まれた。

 既に下校していたり他のクラスに行っていたり廊下でメールアドレスの交換をしていたりで、クラスの中に残っていた人数は通常時の約半分だった。

 その数。俺、他クラスの人間を含めて二十人。

 その人数にとって作られた沈黙は、(俺の体内時計で)十秒以上続いた。

 気がした。

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はぁぁぁぁぁああああああああああああああああぁぁぁぁァァァぁぁぁぁぁぁぁぁああああ?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 そして、その沈黙はあっさりと破られた。

 席に座って居た人の中には、勢い良く立ち上がりつつ叫んだ人も居た。

 俺とか。

 机の近くに居た人の中には、机の上の物を色々落としている人も居た。

 俺とか。

 食事を摂っていた人の中には、口内の物を落としつつ叫んだ人も居た。

 俺とか。

「汚い」

 そんな俺に、佳奈夜が冷静にそうツッコミを入れた。

 ……でも貴方、さっきは俺と同じ様に叫んでましたよね?

 後、ついうっかり肘を椅子にぶつけてましたよね?

 今もさり気無く肘押さえてるし。

 まぁ、深くは追求しないけど。

「……夢霧村君と愛川さん、そう言う関係だったんですね」

 風葉が真面目なトーンでそう呟いた。

「いや、違うから」

 そう言う関係、って言うのがどう言う関係を指しているのかは大体見当が付く。

 俺はあああああなんかと恋仲になる気なんてさらさら無い。

 第一、そんな事になるとしたら、それは俺が例の勝負に負けた事になるじゃないか。

 あああああから告白なんて有り得ないし、候補はそれしかない。

 だが、俺はあああああなんかに告白する訳が無い。

 つまり、俺があああああと恋仲になるなんて未来永劫絶対に有り得ない!

 五行で証明終了。QED。

 QEDの和訳なんて俺は知らない! 聞いた事はあるんだけど。

「そんな、照れ隠しなんてしなくても……」

 あああああが両手を頬に当て、照れる振りをしていた。

 ……何だろう。この感情は。

 目の前に居るのがコイツじゃ無ければ、この流れはラブコメとして通用しそうだ。

 それなのに、あああああが相手と言うだけで罰ゲームにしか思えない。

 あれですか?

 この流れ、俗に言う天罰ですか?

 俺、何か悪い事しましたっけ?

 何で俺、天罰受けてるんだ?

 おかしくね?

「……やっぱり夢霧村君って「違う」」

 さっきとほぼ同じ事を言おうとする風葉はとりあえず止めておいた。

 まぁ、コイツ一人を止めた所で、既にクラス内の人物は大半が居なくなっていた。

 廊下等から聞こえてくる騒ぎ声が、さっきと比べて三割増しな気がする。

 気のせいだと信じたい。

「夢霧村?」

「……何でしょう?」

 怖い。

 佳奈夜の視線が怖い。

「……退学になる準備は?」

「何で俺は入学初日に退学宣言を受けているんだ?」

 そんな風な、冗談なのか本気なのか分からない佳奈夜の発言に対し、もう叫ぶ力も、俺には残されていなかった。

 って言うか、何でこの程度で退学って有り得なくないか?

 俺の感性が狂ってるだけなのか?

「……そりゃあ、入学初日から教室の中心で愛を叫んだんだし」

「どっかで聞いた事がある様な言い方だなぁ……」

 あれが話題になってたのって何年前だっけ?

 なんて、現実逃避気味に考えたりしていた。

 廊下側から聞こえてくる喧噪に耳を傾けたら負けだ。

 さっきの自己紹介中の宣言の時でさえ周りの視線が痛かったのに、ここからさらに視線が痛くなったら、俺は登校拒否になる危険すらある。

 視線って言うのは、人の目から放たれるビームみたいな物だと俺は思う。

 やはり、いつの時代も目からビームって言うのは危険な物らしい。

 ……だったら、そんな破壊光線を常に放てる佳奈夜って、人類最強なんじゃね?

「はぁ……」

 こうして溜息を吐いている間も、喧噪は続いていった。

 もう気にするだけ無駄か。

 俺は喧噪を気にする事をやめ、黙々と昼食を口に運んだ。

 あああああと佳奈夜、そして風葉が、さっきの話の続きをしていた。

 が、もう、どうでも良かった。


 入学式の数日後。

 その数日の間に、所属する委員会の決定とか色々あったのだが、別に面白く無いし、脳内で思い返す必要性も無い気がする。

 回想した所で、単なる尺稼ぎにしかならない気がするので、やっぱりしなくて良い気がする。

 何の尺かは知らないが。

 まぁ、こうして無駄に語っている事自体が尺稼ぎな気もするのだが気のせいだろう。

 だから、何の尺かは知らないんだってば。

 ……さて。

 ここら辺で本題に入ろう。そうしよう。


「遊園地?」

 朝。

 俺が風葉に一枚のプリントを渡された。

 そのプリントによると、次の週末、クラスで遊園地に行く事になったらしい。

 学校に一番近い駅から電車で三十分。

 そんな感じの所にある、そこそこ大きい遊園地だ。

「まぁ、要するにコレ、親睦会ですよね」

 呆れた様な声色で言う風葉。

「入学して日が浅い内にクラスメイト達で一緒に遊んで、今後のクラス活動を円滑に、って言う奴ですよね」

 ぶっちゃけたな。

 企画者が誰かは知らないが(口ぶりからして風葉では無い。多分)、まぁ、そう言う意図なんだろうよ。

 でもああ言うのって、友達作り辛い奴が孤立する原因になり得るよな。

 中学の時も似た様なイベントがあったが、遊園地の端でゲームしてる奴が居たりした。

 誰とは言わないが。

「ま、誰かが遊園地の端でゲームしてる、みたいな展開にならなきゃ良いが」

 俺は念の為言っておいた。

 言ったからってどうにかなる物じゃないがな。

 ただ、何となく言っておきたくなった。

「遊園地で出席確認をした後にくじ引きで班を決めるので、誰かが余る事は無いと思いますがね……。欠席者の人数によっては有り得なくもありませんがね」

 まぁ、そう言う強制力のあるパーティの方が悪い結果を出したりするんだがな。

 仲が良い奴でパーティ組め、って言われて組まれたパーティよりは良いのかもしれないが。

 そんなの、実際に独りになった奴によって言い分は変わるんだけどな。

「じゃあ、そう言う事でお願いしますね」

 そう言いながら、風葉は他の奴にプリントを配りに行った。

「『そう言う事』ってどう言う事だよ」

 俺は虚空に呟いた。


 またもや数日後。

 親睦会当日。

 俺は適当に選んだ私服に身を包んで、最寄り駅のホームに居た。

 隣にはあああああ。

 最近学校で絡んでこないと思ったら、今日は朝から絡んできやがる。

 俺は、非日常が入学前日と入学初日だけで終わったと思っていた。

 が、まるで全然そんな事は無かった様だ。

「アンタ、そんな格好で遊園地行く気?」

 呆れた様な口調で、あああああは俺に言い放った。

 別に良いだろう? 俺が何を着ていたって。

 と言うか、そんな台詞を吐いた本人は、俺が見た事が無い私服を着ていた。

 初めて会った時の制服(っぽい服)を、もう少し私服らしいデザインにした様な服。

 漫画とかの女子がよく持っている様な、何が入るのかがよく分からない鞄。

 そんな服だった。

「お前、何処にこんな服隠し持ってたんだ?」

 コイツが現れた時、コイツは手ぶらだったし、服装は見た事の無い制服だった。

 この高校の制服だってそうだ。

 ……って言うか、今までツッコんでいなかったが。

「お前、どうやって入学したんだよ!」

 朝の駅構内、と言うのは、それなりに人が居る。

 この駅には急行電車が止まらない。

 だとしても、やはりそれなりに人は居る。

 そんな中で叫んだら、やはり人の目線が痛い。

「「……」」

 やはり人の視線はビームの様だ。

 最近の俺は、強くそれを実感している。

 主に佳奈夜のせいで。

 だが、佳奈夜以外の人間が放つ視線も、やはり俺に突き刺さる。

 痛い痛い痛い痛い痛い。

「質問に質問に答えるなって」

 あああああは本気で呆れている様だ。

 まぁ、俺だって逆の立場なら呆れるだろうしな。

「……まぁ、人が減ったら話すよ」

 電車が来た。

 多くの人々が電車に乗った。

 が、俺とあああああは乗らなかった。

 別に、今の電車に乗らないと間に合わない、と言う訳でも無い。

 その結果、ホームには俺とあああああが残った。

「……で、入学出来た理由、だっけ」

 あああああは、そう呟いた後に、長い溜めを作った。

「「……」」

 電車が出発する音がした。

 次の電車は五分後。

 それまでに通過電車が一本。

 あああああの話を全て聞ける位の時間はある様だ。

「それは……」

「『それは』……?」

 何だか漫画っぽいタメの作り方だった。

「それは……」

「……それは?」

 何だか面倒になってきた。

「CMの後ッ!」

「お前それが言いたかっただけだろ!」

 反対側のホームに電車が来て、俺の叫び声は掻き消された。


「……さて。CMも明けた事だし、話そっか」

 反対側の電車が通過するまでの時間がCMだったらしい。

 一体何を宣伝していたんだよ。

 ……まぁ、それは本当にどうでも良い。

 あああああは言った。

「そんなの、主人公補正よ」

 と。

 ……。

「は?」

 今コイツは何て言った?

「だーかーらー、あの学校に入学出来たのも!」

 叫ぶ。

「制服を入手出来たのも!」

 叫ぶ叫ぶ。

「この私服を入手出来たのも!」

 叫ぶ叫ぶ叫ぶ。

「『この高校の制服だってそうだ』って言うムムムのモノローグを読んだ事も!」

 叫ぶ叫ぶ叫ぶ叫ぶ。

「全部、主人公補正で」

 いやもう我慢の限界だ。五回連続で叫ぶとか描写する気も起きない。

「ごめん。殴って良い?」

 俺は紳士だ。

 だから、女子を殴るなんて野蛮な行為はまずしない。

 仮に殴るとしても、ちゃんと許可をとってからだ。

 そんじゃそこらの不良生徒とは違うのだよ。だからちゃんと聞く。

「ほ、ほら! 私、に、二次元から来た存在じゃない? だから、さ、二次元から三次元に持ってこれた能力が幾つか、あるのよ!」

 殴られたくないのかは知らないが、物凄く慌てながら言うあああああ。

 ……何だよ。そのご都合主義。

「って言うか、お前のゲーム、バトル物だったのか?」

 パッケージとオープニングから察するに、普通の乙女ゲーっぽかったのだが。

 まぁ、『普通の乙女ゲー』が何かは知らないが。

 でも、表と中身が違うのは、最近はよくある事なのかもしれない。

 アニメだって、番組宣伝と実際の無いように差がある事があるじゃないか。

 言われて見れば、そう言う事は最近はよくある事なのかもしれない。

 言われて無いけど。

 後、今の具体例に深い意味は無い。

「ううん? 後半で少し鬱展開に入るだけで普通のゲームだよ?」

 それ普通なの?

 ……って言うか、コイツは既にゲームの展開を知っているのか?

 既に展開知ってるって、コイツ、既にエンディングも知ってるんじゃ無いか?

「大丈夫。エンディングは知らないから」

「だから自然に人の心を読むなよ!」

 それも主人公補正なのか?

「……で、私の持ってきた能力の内の一つ。それが《主人公補正リバイス》」

 やばい。ちょっとカッコいい。

「その名称決めたの、ムムムのお父さんだけどね」

 ……。

「あの親父かよぉぉおおぉお……」

 ちょっとでもカッコ良いと思った俺が馬鹿だった。

「自分の周りの現実を、自分に都合が良い様に弄れるのが、この能力」

 これは推測だが、入学式前日のコイツの『普通の人間には出来る訳が無い芸当』は、それでやっていた様だ。

 まぁ、そんなチート技でも無い限り、あんな真似は不可能か。

 さて。一つ言いたい事がある。

「なんだよそのご都合主義」

 と。

 ……コイツ、その内機械から神とか出すんじゃないか?

 で、強引に話を終わらせたりしそうだ。大団円って素晴らしい。

「だからさっきも言ったでしょ? これが《主人公補正》って」

 つまり、何でもありなんだな。よく理解した。

「お前がいつから主人公になったんだよ」

 人生って言うのは自分が主人公の物語、みたいな言葉を聞いた事がある。

 何処で聞いたか、なんて忘れたが、俺はその言葉を真に受けていた。

 そんな関係で、俺は俺が俺の人生での主人公だと思って居たりした。

 まぁ、その理論で言えば全員が主人公になってしまうが、細かい事は無視。

 とにかく、何が言いたいかと言うと。つまりは。

 コイツが主人公、って言うのは何となく腑に落ちない。

「……忘れてない? 私、元々主人公じゃない」

「あ」

 そっか。

 オープニングだけしか見てなかったからすっかり忘れていた。

 仮にもコイツは、正真正銘の主人公だったのか。

「……もう良い?」

 あああああが『話し疲れた』とでも言いたげな顔でそう言った。

「……あぁ」

 もう良いや。

 俺の心の中で何かが折れた。

 気がした。

「さて。行こっか」

 このホームに電車が到達した。

「……だな」

 俺達は疲れた体を引き摺るかの様に、電車に乗り込んだ。


「……で」

 遊園地に到着して。

 その場には既にクラスの半分程が居た。

「あ、来ましたね」

 いかにも風葉っぽい感じの私服だった。

 分かりやすく言えば、何となくキザっぽい。

 同時平行にナルシストっぽい。

 そんな服だ。

「さ。お二人もクジを引いてもらえますかね」

 風葉はそう言いながら、こっちに紙コップを差し出してきた。

 その中には、十数本の割り箸が入っていた。

 恐らく、その割り箸には数字かアルファベットが書かれているのだろう。

 もしくは、色が塗られているのだろう。

「よっ、と」

 あああああが早速クジを引いた。

「……Bか」

 引いたクジを確認するあああああ。

「ひょいっと」

 続き、俺もくじを引いて。

 すぐさま確認し。

「あ、俺もBだ」

 俺とあああああが同じ番号を引く。

 ……もしかして、これも《主人公補正》とやらなんだろうか。

 大いに有り得る。

 って言うか絶対そうだろ。

「奇遇ですね。僕もBなんですよね」

 だろうな。

 この流れで違ったら驚きだ。

「……って事は」

 俺は何となく気配を感じ、周りを見渡した。

「……あ」

 居た。

 風葉の(俺から見て)右斜め後ろ、とでも言えそうな位置に、一人で。

 地味な私服に身を包んだ、一人が。

 と言うか、飾り気が無い。

 スカートでは無くズボン。いや、パンツって言うんだっけ?

 普通こう言う時って、少しはおしゃれをするんじゃないの?

 だなんて、今までの認識を改めざるを得ない格好。

 そんな服だ。

「ねぇ風葉、他のBチームは?」

 あああああはそれに気付かず、風葉に直接聞いていた。

「佳奈夜さんですね」

「佳奈夜だな」

 この流れからして、それしか無いだろう。

 そんな俺達の視線に気付いてかは知らないが、佳奈夜がこっちに歩いて来た。

 何となく、不機嫌を身に纏って歩いてきている気がするのは気のせいだろうか。

「……Bってこの四人なの?」

 こっちに到着して早々に、佳奈夜は不機嫌丸出しでそう言った。

 何で分かったんだ、と言いかけてやめた。

 今の俺と風葉の視線で察したんだろう。きっと。

「用意したクジの本数から言って、そうなるでしょうね」

 って事は、これ以上メンバーは増えないのか。

 ……あああああの奴、絶対何かしただろ。

「……まぁ良いか」

 溜息と共に佳奈夜がそう言った。

 それと同時に、遊園地の放送が流れた。

 たった今開園時間を迎えた、と言う放送が。

「それじゃあ、行きしょうかね」

「班行動にしたら親睦会にならないんじゃないの?」

「絶対ならないわね。……帰りたい」

「……嫌な予感しかしねぇ」

 俺達は歩き出した。

 嫌な予感を感じずに居られない俺が、そこに居た。

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