表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 黒瀬あい
1/6

サンセットパーク

「煙草吸っていいかー?」


「タケルってほんとヘビーだよね。まあ、いいけど俺の顔に灰落とさないでよ?」


陽射しが少し和らいできている時間帯。海岸から少しだけ離れた場所にある公園では、青年らが佇んでいた。

さざ波の音がきこえる。海からやってきた涼風が二人を吹き抜けた。長い間いたせいか二人の髪は海風にやられ、水気と塩っ気を含んでいる。

煙草を一本吸っている間、お互いは喋らずにいたが、火種をベンチの背もたれの後ろで消してからタケルは口を開いた。


「なあ、ナオト。思ったんだけどいま誰かが来たらやばいよなー」


背もたれに体を預け、オレンジに染まった空を仰ぎながら言った。タケルの膝を枕にしていたナオトは寝返りをうち、タケルと同じように空を見上げた。


「そりゃそうでしょ、上半身裸の男二人がベンチに座ってくっついてるんだよ? 事情知らない人にとっては日常のイレギュラーだよ」


「明らかにおかしい光景だもんな。なんか笑える」


「えー、なんでー? 笑える要素あった?」


「いや、べつにー」


ナオトは納得行かない様子で不満を顔に浮かべながら、ちょっとした抵抗のつもりかタケルの腹を叩き始めた。その力は回数を重ねる度に増していく。


「痛い、痛いって! ごめんごめん俺が悪かったよ」


「どうせあれでしょ、初デートが公園デートだからバカにしてるんでしょ。いいですよーだ、どうせ僕の感性は高校生と同レベルなんだよ」


今度は声音にも不満をのせている。

タケルはやれやれと飽きれたふうにため息をついた。もちろんナオトにはきこえないように。しかし吐いたあとの口許は緩んでいた。


「俺は一緒だったらどこでもいいんだよ、だから場所は任せたんだろ?」


海に沈もうとする夕日の足は早い。オレンジは赤からすでに紺へと変わり、宵闇が遠くの空を染めていた。頭上の空までも手を伸ばすのに、そう時間はかからないだろう。


「…………」


空を見上げるのをやめ、下を向く。そこには困ったような、照れているような、そんな顔があった。

愛おしい。純粋な気持ちがタケルの心に灯った。

まだ幼い、少年とも青年とも呼べる顔立ち。男としては長い睫毛。ほどよく日に焼けた肌。いつかはどれも変わってしまうだろうが、二人の関係は変わらないだろう。


「ねぇタケル、ティーシャツ貸して?」


「なんで」


「なんとなく。ほらあれだよサッカーとかでする衣装交換だかそんなの」


「ユニフォームな」


「なんでもいいよ!」


ナオトは起き上がって憤慨する。そして手を差し出して、ティーシャツを早くよこせのジェスチャーをした。

タケルはそんなナオトの顔にティーシャツを投げつけた。そして、また何かを言おうとした唇を塞ぐ。


「……いきなりなんだよ!」


「お前と同じようになんとなくだよ、オーケー? もうそろそろご飯の時間だ、帰ろうぜ」


淡い闇が二人を包む。それは赤くなったタケルの頬を隠すにはじゅうぶんだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ