サンセットパーク
「煙草吸っていいかー?」
「タケルってほんとヘビーだよね。まあ、いいけど俺の顔に灰落とさないでよ?」
陽射しが少し和らいできている時間帯。海岸から少しだけ離れた場所にある公園では、青年らが佇んでいた。
さざ波の音がきこえる。海からやってきた涼風が二人を吹き抜けた。長い間いたせいか二人の髪は海風にやられ、水気と塩っ気を含んでいる。
煙草を一本吸っている間、お互いは喋らずにいたが、火種をベンチの背もたれの後ろで消してからタケルは口を開いた。
「なあ、ナオト。思ったんだけどいま誰かが来たらやばいよなー」
背もたれに体を預け、オレンジに染まった空を仰ぎながら言った。タケルの膝を枕にしていたナオトは寝返りをうち、タケルと同じように空を見上げた。
「そりゃそうでしょ、上半身裸の男二人がベンチに座ってくっついてるんだよ? 事情知らない人にとっては日常のイレギュラーだよ」
「明らかにおかしい光景だもんな。なんか笑える」
「えー、なんでー? 笑える要素あった?」
「いや、べつにー」
ナオトは納得行かない様子で不満を顔に浮かべながら、ちょっとした抵抗のつもりかタケルの腹を叩き始めた。その力は回数を重ねる度に増していく。
「痛い、痛いって! ごめんごめん俺が悪かったよ」
「どうせあれでしょ、初デートが公園デートだからバカにしてるんでしょ。いいですよーだ、どうせ僕の感性は高校生と同レベルなんだよ」
今度は声音にも不満をのせている。
タケルはやれやれと飽きれたふうにため息をついた。もちろんナオトにはきこえないように。しかし吐いたあとの口許は緩んでいた。
「俺は一緒だったらどこでもいいんだよ、だから場所は任せたんだろ?」
海に沈もうとする夕日の足は早い。オレンジは赤からすでに紺へと変わり、宵闇が遠くの空を染めていた。頭上の空までも手を伸ばすのに、そう時間はかからないだろう。
「…………」
空を見上げるのをやめ、下を向く。そこには困ったような、照れているような、そんな顔があった。
愛おしい。純粋な気持ちがタケルの心に灯った。
まだ幼い、少年とも青年とも呼べる顔立ち。男としては長い睫毛。ほどよく日に焼けた肌。いつかはどれも変わってしまうだろうが、二人の関係は変わらないだろう。
「ねぇタケル、ティーシャツ貸して?」
「なんで」
「なんとなく。ほらあれだよサッカーとかでする衣装交換だかそんなの」
「ユニフォームな」
「なんでもいいよ!」
ナオトは起き上がって憤慨する。そして手を差し出して、ティーシャツを早くよこせのジェスチャーをした。
タケルはそんなナオトの顔にティーシャツを投げつけた。そして、また何かを言おうとした唇を塞ぐ。
「……いきなりなんだよ!」
「お前と同じようになんとなくだよ、オーケー? もうそろそろご飯の時間だ、帰ろうぜ」
淡い闇が二人を包む。それは赤くなったタケルの頬を隠すにはじゅうぶんだった。




