2 Month Later (2)
「ただいま…と。どうしたリタ?」
24時間ぶりに部屋に戻ると、黒い塊がぶつかってきた。リタだ。
「おかえりなさい…」
寂しかったのか、ぎゅっと抱きついて離れない。結局雨は朝方まで降っていたし。よしよし、と抱き返して背中を叩いてやると、安心したのかそろそろと腕が緩んだ。
――娼館で発散させてきて良かった。
宰相が言う夜に帰れない仕事とは、他でもない、娼婦からの諜報活動だ。一般的な周囲の男よりは女性にもてると思うし、実際に誘いは多い。だからと言って、目の前の可愛い生き物にこんな風にされれば多少は気持ちが揺らぐというものだ。
残念に思いながら、俺の腕から解放してやると、そんな俺の動揺など気付いてはいないのだろう。リタは小走りに部屋の奥に行くと、何かを抱えて帰ってきた。
「これ…ありがと」
リタが差し出したのは、最近流行っているという小説だった。異世界へなぜか来てしまった少女がとんとん拍子にその国の王子と結婚する話だった気がする。サイズもちょうどあうし、上司の小包の中身はこれだったのだろう。
リタは目をきらきらさせて喜んでいる。どうやら本を気にいったらしい。何もかもが上手な上司に俺は初めて嫉妬を覚えた。別にあの人の才能や容姿に嫉妬したことはなかったのに、リタをこんなに喜ばせることができる才能まで兼ね備える必要はないんじゃないか。
「それに、オムライスも。…好き」
むっとして、全てを自分の手柄にしようと思っていたが、恥ずかしそうに、ぽつり、と言われた一言はそんな俺の頑なな心を壊す破壊力があった。
「そっか、よかった。その本は俺の上司から。リタがいい仕事するってさ」
「…上司?」
リタと話しながら、夕食の準備にかかる。今日の朝と昼はちゃんと食べたのだろうか。それを聞こうと振り向くとリタは本を抱えたまま神妙な表情をしている。
「どうした?朝と昼…」
「食べたよ!!そうじゃなくって…後で話す」
つい先ほどまでご機嫌だったのに、なにがいけなかったのか。リタはプイっと自分のスペースに戻ってしまった。俺の部屋は広さはあるが1Rだ。リタはその一角に敷いたラグがお気にいりでその上を自分の場所と決めている。
そこでごろごろと転がっている様子はまさに猫そのものだ。そんなことが許されるような環境で育ったのだろうか。そんなはずないのだが。出会った時からリタは猫のようだった。
まだご機嫌斜めなのか「うー…」という唸り声が背中に届く。夕食でご機嫌とりができればいいが、オムライスの件はよく食べてるから選んだまでで…少し悩んで諦めた。