雨音で消えた別れの言葉
お待たせしました。更新を再開です!!(出来れば毎日…)
「エスター、この方がプールビア王女よ。あなたの従妹で、今日から一緒にここで暮らすの。少し身体が弱いから、大切にしてあげてね」
「はい、お母様。はじめましてプールビア王女。僕はエスターシュヴァン・クロー、よろしくね」
エスターと出会ったのは私が4歳、エスターが7歳の時だった。きっと当時いろいろな事情があったんだろうけど、名目上は私の身体が弱かったために王城から離れた気候のよい土地に降嫁していた叔母のところに預けられることとなったのだ。私はその土地でエスターと彼の弟妹と一緒に育てられた。
初めて会った叔母は容貌こそ父や叔父に似ている部分はあったが、とても穏やかで慎ましい方だった。腕には生まれたばかりのミランを抱いていて、その温かい雰囲気に母親とはこういうものなのだろうと思ったのを覚えている。そして、叔母に紹介され、私に向かって握手を求めたエスターは出会ったことのない生物、だった。
庶民の子供たちと外で遊びまわる普通の7歳の男の子と、ほとんど王城から出れずに一日中教師について勉強をしていた4歳の女の子ではあまりにも接点が無かったのだ。
「お初にお目にかかります。プールビア・カルツァ=ディ・フェグリットと申します。どうぞ、よしなによろしくお願します」
「え…う、うん…」
一瞬悩んだけれど、私はマナーの教師に教わった通りの笑みを顔に浮かべて差し出された手を一瞥をし、ドレスの裾を片方だけちょっと摘み上げて礼をするにとどめた。そんな私にエスターはぽかん、として返事をしたと思ったら顔を赤く染めた。
「ごめっ……失礼しました!!王女様に対して…」
「プールビア王女、私はあなたをお預かりするにあたって陛下に一つお願いを聞いていただきました。私は陛下の臣下ではなく陛下の妹として、あなたの母代りとなってお預かりするというものです。ですから私はあなたの母、エスターはあなたの兄よ。いいかしら、ルビア?」
この時は叔母の言っていることがよくわからずに頷いたが、彼女の言葉は生活をしていく中で徐々に理解していった。自然と私は家族の意味を知ったんだと思う。叔父と叔母は本当の親のように私を叱ったし、愛してくれた。ミランや次の年に生まれたイヴ、そしてエスターに囲まれた生活はかけがえのない時間だった。
そして、その時間の中でいつの間にかエスターは私を一人の女性として愛してくれるようになった。そして私も、13歳の時に王城に戻るまではいつの日にかその想いに自分も応える日が来るのだろうと漠然と思っていたのだ。
――それは、叶わなかったけれど。
『愛している女を置き去りにして、俺はお前の望むような王にはなれない!!』
初めて聞いたエスターの気持ちにぎゅっと胸が締めつけられた。重ねた唇に、もう二度と会えない悲しみが込み上げた。
その気持ちが恋だったのかは、今でもわからないまま心の隅っこにはびこっている。部屋を出ていくエスターの背に告げた別れの言葉に、返事はなかった。




