4 Month Later (3)
今日も新しいシェイドを知った。その新しいシェイドは今まで私が男の人に感じたことがない感情を私に植え付けた。その気持ちは何という名前なんだろう。
「たっだいまー!!」
多くはないがそこそこのお酒が私の気分を高揚させていた。足どり軽く靴を脱ぎ捨て、一緒に使うようになったベッドへダイブすると私の靴を整えてから部屋に来たシェイドが眉をひそめた。なんだか今日はずっと機嫌がよくない気がする。
「なんで怒ってるの?」
「別に怒ってるわけじゃない。先風呂入るぞ」
今思い出すと、久しぶりのお酒に随分と浮かれていたと思う。私はベッドから降りると、お酒のせいか(シェイドは随分とクヴァント様と奥様に飲まされていた)大儀そうにシャツの小さなボタンをはずすシェイドの前に立って、そのボタンに手を伸ばした。
「はずす」
「やめろ、リタ。自分で出来るからもうちょい酒が抜けるまで俺に近寄るな」
昔読んだ庶民の恋愛小説でこうしているのを読んだことがあったから、喜んでくれると思ったのに。伸ばした手を避けられて面白くない。初めて見る酔ったシェイドはけだるげで、すごく艶っぽくてもっと見ていたいのに。
「どうして?もうちょっとお話しようよ」
「後でな」
「今がいいの」
「だから近寄るなって…!!」
脱衣所に足を進めるシェイドの腕を掴んで引き留めようとしたら、強い力で振り払われた。予想外の行動と力の強さに私は踏ん張りきれずにしりもちをついてしまう。痛くはなかったけど驚いてシェイドを見上げると、シェイドのほうがもっと驚いた表情で私を見降ろしていた。
「…悪い、大丈夫か」
先ほど私を振り払った腕が今度は私を抱きあげるように支えて立ち上がらせてくれる。なんとなく、いつもより力がこもっているその腕にすごく『男の人』を感じた。どうやら機嫌が悪いだけではないのか、余裕がないように見える。
「怒ってる…」
「怒ってはないって。いい機会だから言うけど、お前無防備すぎだから。ヒューズ団長について行ったり、職場の男どもに笑いかけたり…さっきはあの人に頭を撫でさせるし。もうちょっと警戒しろ」
「シェイドだって私の頭をくらい撫でるじゃない。それに、私が無防備だと、どうしてシェイドが怒るの?」
シェイドは話をする覚悟ができたのか壁に寄りかかって話し出した。途中までボタンが外れたシャツから覗く鎖骨に目のやり場に困る。
「俺はいいんだよ、リタの後見人だから。んで、何度も言うけど怒ってはいない。無防備なリタのせいでちょっといらいらしてるだけだ。酒も入ってるから俺も俺で大変なんだ」
「私だってお酒飲んだよ!!意味わかんな…んっ!!」
見ないようにしていたシェイドの身体が急に近づいた、と思ったら顎を持ちあげられて柔らかなものが唇に触れた。腰にまわされた手に、するりとお尻を撫でられて身体が刺激が走った。初めての甘いような痛いような苦しい感覚。
――コワイ。
目の前にいるのは確かにシェイドなのに、私に触れる手も確かにシェイドのものなのに。重なり続ける唇。その身体に私は腕をつっぱった。
「ぷはっ…シェ、シェイドっ!?」
「俺だって男だから。これに懲りたら男相手に警戒心を強めるんだな。と言うわけでこれ以上リタに悪戯しないよう、風呂で酒を抜いてくる。寝るなよ」
絶対に今の私は顔どころか全身が真っ赤になっているに違いない。そんな私にシェイドは一瞬でまとっていた色事の雰囲気をなくして意地悪に笑うと今度こそは脱衣所に消えていった。
「………嘘」
しばらく呆然としてから今更に腰が抜けて、私はずるずるとその場に座り込んだ。そうっと自分の唇に触れてみる。ここに、シェイドの唇が触れていたのだ。
恥ずかしくて、嬉しくて、苦しくて、甘くて痛くて怖くて…でも愛おしい。シェイドに感じるこの気持ちはなんて表せばいいんだろう。




