3 Month Later (3)
「…は?ごめん、リタ。もう一回言って」
「騎士団でアルバイトするの」
俺が恐れていたリタの爆弾はいきなりだった。後は眠るだけ、とベッドの上でリタの髪を乾かしていると「そういえば…」と思い出したように言いだした。
騎士団でアルバイト?アルバイトの仕事なんかあったか?しかも騎士団なんて男だらけじゃないか。っていうか、どうしてリタはアルバイトをすることになったんだ。
「…なんでアルバイト?」
「子供じゃないもの」
リタはきっぱりと宣言すると、その後には小さな声で「シェイドに甘えてたら駄目なの」と付け加えた。自立心の芽生え、というやつなのだろうか。頭ではわかる。この街にも十分馴れて、リタが今までの王女の暮らしから次へと進もうとしていると。
それでも、リタが俺に相談もなく決めた事がショックだ。どうやらこの部屋から出ていく気はないらしいのが救いだが…あれだ。猫は人に懐くんじゃなくて、家に懐くってやつなのか。
「別にバイトはいいけど…なんで騎士団?」
「んーと…長くなるけど…」
俺はリタのまだ少し湿った髪を指で楽しみながら拙い説明を聞くことにした。説明を聞いていると、意外にもリタは市井に詳しく行動的だったらしい。要約すると、ギルドに言ったら騎士に気に入られて特別にアルバイトをすることになったらしいが………リタは所々でごにょごにょと言葉を濁す。
「リタ。どうしてその騎士と仲良くなったんだ?あと、その騎士って誰」
「え?い…意気投合したの」
「へぇ。で、誰と、どんな風に意気投合?」
リタは挙動不審だ。騎士と意気投合…とことん気に入らない。俺が長い期間かけてゆっくりと頑ななリタを溶かしたっていうのに、横から奪われてたまるか。逃がさないようにリタの腰を抱きよせると、柔らかなその身体が気持ちいい。
「えっとね…なんだか眠くなってきちゃった」
あからさまな嘘でリタは目をこすりだした。俺には言えない経緯で意気投合に至ったようだが、俺に言えないってどういうことだ。
――リタがその気なら、俺も我慢しないからな。
「そっか。今日は出かけたし仕様がないか。俺も眠い、一緒に寝るぞ」
「シェイド……?あ、え?」
ひょいとリタを持ちあげてベッドの奥に押し倒し、そのまま壁と俺とで挟み込むように横たわる。もちろん、逃げ出さないようにその小さな身体は抱き締めたままだ。
「あ、あの…シェイド!!ちょっと…」
「リタは眠くて話せないんだもんな…?」
羞恥で顔全体を真っ赤に染め、瞳を潤まして俺の胸元から見上げてくるリタは最上級に可愛い。これは俺の事をちゃんと「男」として意識してくれているということに違いない。俺の前のリタはいつも無防備だから、初めて見せるその表情に悪戯心がくすぐられてその細い足に自分のそれを絡めてみた。
「ひゃっ…ね、眠くなくなった!!お話ししよう、シェイド!!」
「へー…そう。で?」
起き上がろうとするリタを押しとどめて、足だけは解放してやる。さらさらとしたその肌に俺のほうがこれ以上はまずかった。
「ヴィル・ヒューズ……中央騎士団の団長だからえらい人、だよね?」
「…リタ。騎士団のアルバイトは駄目、絶対に。あの人には俺から断っておくから宰相補佐室に来い。上司もお前を部下に欲しいって言ってる」
リタの口から出たヒューズと言う男はまずい。ちょいちょい娼館から仕事場に通う俺も人の事は言えないが、あの人は自分の家を持たずに女の家を転々としているなんていう噂が流れる男なのだ。そんな男の下にリタを遣れるわけがない。
「そんなっ!!シェイドには迷惑かけな…」
「リタ。あの人は女性とみればこうだけど?」
そんなに騎士団で仕事がしたいのか。俺と一緒じゃなくて、どうしてあの男を選ぶ?まさかリタはヒューズ団長が好きだなんていうのだろうか。そんなことは許さない。
俺はリタをベッドに組み敷いてうなじにキスを落とす。そして、耳元に囁く。
「それでも、俺よりあの人がいいか…?」
「~~っ!!シェ、シェイドと一緒がいい!!」
先ほど以上、今にも倒れてしまいそうな位にリタは顔を染めて俺の胸に腕を突っ張った。最初からそう言えばいい。まだ俺を相手にするには早そうなリタの上から元の位置に戻る。
「明日上司に言っとくから。じゃ、おやすみ」
「え、嘘…ちょっと、シェイド…!!」
リタは温かくて、よく眠れそうだ。




