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*気炎-きえん-

 その夜、ミレアとアレウスは早くに車の中で眠りに就き、ベリルは炎の番をしながらウトウトしていた。

 いつしか炎は消えかかり、薄暗がりから暗闇へと変わっていく。

 その暗闇から、足音を忍ばせて五つほどの影がベリルに近付いてきた。その手に減音器サプレッサーを取り付けた拳銃ハンドガンを持ち、厚手の黒い服とポケットの多いベストに身を包んでいた。

 背中にはライフルを提げ、いずれも武装している。

 顔にはナイトビジョンゴーグルを装着しているため、個々の区別はあまりつかない。影たちは音を立てないように目標のすぐそばまで距離を詰めると、ベリルを取り囲み銃口を向けた。

 緊張しつつも合図を待っているとふいに、「本気で寝ているとは考えていないのだろう?」

 倒すべき目標が瞼を開き不適に発した。

「っ!?」

 男たちは驚いたがすぐに体勢を立て直し、ベリルはそれに口角を吊り上げる。

「そう構えるな」

 冗談なのか本気なのか解らない返しに、男たちは戸惑う。

 銃口を向けられ囲まれているというのに余裕な素振りとは、恐怖でおかしくなったのか、それとも本当に余裕でふざけているのか。

 しかしふと、ベリルの手にあるものに気が付いた。

「せん──っ!?」

 気付くのが遅すぎた。言い切らずに辺りはまばゆい光と激しい音に包まれる。

「うおぁ!?」

「うわっ!?」

 男たちは強烈な光と音で真っ暗になった視界に慌てた。装着していたゴーグルが強い光に反応して自動的にオフになったのだ。

 ベリルが使ったのは、閃光手榴弾せんこうしゅりゅうだんと呼ばれるものだ。

 敵が目の前にいるというのに──思わず外したゴーグルが、いつの間にか手の中からなくなっている。

「なんだ!?」

 装着したままだった男の顔からも、するりとゴーグルが外されていく。

「くそっ!」

 焦った男の一人がハンドガンの引鉄ひきがねを絞った。

「やめろ! 車の中の奴が気付く!」

「閃光手榴弾の時点で気が付くと思うがね」

「うっ!?」

 ベリルは叫んだ男の背後に回り込み、静かにナイフを突き立てる。

「が──っ。あ……」

「なんだ!? 何が起こっている!?」

 目の見えない男たちは、暗闇の中で放たれる存在感にあわてふためいた。

 ここには、敵しかいない。ベリルは足音や服のすれる音と気配を頼りに一人一人、素早く駆け寄り、のど元や背中にナイフを突き立てていく。

「ぐ、うっ」

 最後の一人が生命活動を止めて地面に倒れ込み、再び静寂が訪れる。数秒ほど無表情にそれらを見つめていたベリルだが、ふと我に返ったように頭をかいた。

「一人くらい残しておけばよかったか」

 消えた練炭に火を灯し、転がっている死体をごそごそとあさり始めた。

 ナイトビジョンゴーグルはもちろん、持っていた武器を一切合切いっさいがっさい取り外すと、まとめて荷台にポイと投げ入れる。

「お前は追いはぎか」

 車から出て終わったことを確認に来たアレウスが呆れて眉を寄せる。

「ミレアは」

「外には出ないようにと言ってある」

 こんな場面を見せられるものか。ミレア様を車から出さなかった事は正解だったと胸をなで下ろした。

 死体を見せるのも避けたかった。己のために流される血と、人を殺すベリルを見て悲しまないはずはない。

 ミレア様はまだ、十七歳の少女なのだから。



 ──朝、ベリルは車を走らせながら思案していた。

 これ以上、単独での戦闘は少々無理がある。相手も、こちらの行動に対応出来る頃合いだろう。組織的な集団である事は、これまでで十分に理解出来ている。

「さて。どうしたものか」

 携帯端末を取り出し、車のカーナビにある中央のくぼみに差し込んだ。

「なんですの?」

 助手席のミレアと後部座席にいるアレウスは、見慣れない行動に怪訝な表情を浮かべた。

 昨今、スマートフォンを設置する機器が取り付けられている車が増えているものの、全体から見れば未だ少数だ。

「ジェイク」

 ベリルが発すると端末から呼び出し音が流れる。二人はそれにギョッとした。

「音声認識だよ」

 驚く二人に説明する。車内は静かという訳でもないのに、人の声を認識出来る機能にアレウスは感心した。

 しばらくして呼び出し音が鳴りやんだ。

<おう、ベリルか。どうした>

「少し頼まれてくれないか」

<はずんでくれるんだろうな>

「前金で二万オーストラリアドル」

 それにジェイクは口笛を鳴らした。

<よほどの相手か?>

「十五人ほど集めてくれ。また連絡する」

<了解>

「今のは?」

 アレウスは眉を寄せた。

「これ以上は単独での対応に無理がある。相手も、そろそろ本気を出してくる頃だろう」

 私の事も調べている頃だろうしねとベリルは口角を吊り上げた。

「何かあるのか?」

「五年ほど前から通り名が付いた」

 不本意ではあるが、ついてしまったものは仕方がない。

「通り名。ですか?」

「メリットやリスクが増えるものなんだよ」

「メリットは?」とアレウス。

「仕事が増える」

 ベリルは国が直接関わるようなものは極力、引き受けないようにしている。内容を選ぶベリルにとって、要請が多いのは喜ばしい事だ。

「じゃあリスクは?」ミレアが尋ねる。

「データが造られる。愛用の武器や動きの特徴とかね」

 あまり歓迎しないのか肩をすくめた。

 こちらの対策が立てにくくなるという事なのだろう。確かにベリルを敵にした場合に、それらがある事は相手にとって有利に働く可能性がある。

 とはいえ、データだけでどうにか出来るほどベリルの動きは甘くはない。そうでなくては、通り名など付きはしないのだから。

気炎きえん:燃え上がるような盛んな意気。

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続編
【箱庭の螺旋】
SF
明かされるベリルの過去


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