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*侵攻

 ──唐突に鳴り響く奇怪な音に、ミレアは何が起こったのかと室内を見回した。

「我の命令は絶対だ」

 セラネアは警報に眉を寄せつつもキリアを見据える。

「はい。セラネア様」

 キリアの目はうつろながらも、強くはっきりと返答した。忠誠心だけが男に植え付けられた印象に、ミレアの瞳は大きく見開かれる。

「あなたは、まさか」

 詰まる喉から絞り出す少女にセラネアはゆっくりと向き直り、口角を下品に吊り上げる。それだけで、ミレアの心にあった疑惑は確信へと変わった。

「どうして──?」

「全ては、その力が招いた結果だ」

 低く、くぐもった声色は憎しみを混じらせて少女の胸を深くえぐった。



 ──侵入してしばらく、クライドたちは基地内の様子に眉を寄せる。

「おい、ベリル。本当にその、キリアはいるのか?」

<そのはずだ>

 返答のあと、ベリルも怪訝な表情を浮かべた。

「何かあるのか?」

 アレウスは、不慣れな状況ながらも仲間たちの戸惑いを感じて不安を募らせる。

「統率がとれていない。指揮がいないのか、伝達が不十分なのか」

「なんだって?」

 いくら、こちらが慎重に行動しているとはいえ、あまりにも警戒が薄い。こうも容易く侵入を許し、今もなお大きな戦闘には至っていない。

 少数のグループ単位で向かってくるだけで、基地の規模から考えてもこれはあり得ない。こちらのチーム全てが難なく進んでいる事がすでにおかしい。

<とにかく、先に進む>

「油断するな」

 侵入した各班は、天井に張り巡らされている配線やパイプを元に前進しながら地図を書き進めていく。そうする事で、移動や指示がやりやすくなる。



 ──指揮をるはずのキリアから一向に指示が出ず、組織の兵士たちは動揺していた。

 あれだけ楽しみにしていた戦いを放置して、キリアは何をしているのか。迎撃準備も彼の指示通りに武器を配置していただけに、これではどう動けばいいのかまったく解らない。

 こうしている間にも、敵は奥へ進んでいるというのに指示を下す者が不在で、かといって敵は待ってはくれず新しい指揮を決める時間すら無い。

 これでは、統制の取れた集団に個人が挑むようなものだ。上手くいくはずもない。

<俺たちはモニタールームを探す>

「頼む」

 ジェイクに応えて、ベリルは出会う敵を倒しながらアレウスと通路を進んだ。大勢で来られると厄介だったが、この状態が続くなら問題はなさそうだ。

「広いな」

 もっと大勢で攻撃されるのかと思っていた。

「私が予想したのは兵士の数だけだ」

 非戦闘員である人間を含めると百五十人は基地内にいるだろう。

 重要なのは基地の維持と管理、いつでも動ける兵士を持ち続けること。使い捨ての兵士ばかりでは組織を大きくすることは難しい。

「それだけの求心力も幹部には必要とされる」

「犯罪組織でもちゃんとしていなきゃだめなのか」

「犯罪組織だからこそ、徹底されている部分もある」

 思っていたよりも複雑であることを聞きながら、ようやく感じ取れたミレアの気配を辿る。

 基地内に入った刹那にミレアの悲痛な感情が脳内に飛び込んできた。

 痛めつけられたものとは異なり、まだ無事だと知って安堵したものの、彼女の狼狽した意識にアレウスもまごついた。

「ミレア様に一体、何が起こっているんだ」

 こんな感情を受け取るのは初めてだ。

 命の危険は感じられないとはいえ、早くお救いしなければと逸る心を抑えた。



 ──ジェイクは天井にあるパイプを見ながら歩を進める。

「配線は合っているか」

 すでに五月蠅い警報は切られ、敵はまとまりつつあった。

 しかし今更まとまった所で、全ての入り口から侵入しきったこちらに即座には対応出来はしないだろう。敵は鳴り響く銃声と複数箇所の戦闘に、どこから手を付ければいいのかすら解らない状態だ。

「きっとあそこだ」

 仲間の指し示した扉を見やる。なるほど、バリケードを張って抵抗する気は満々らしい。

 そこらへんから持ってきたアルミのデスクを倒し、扉を背に囲うように配置されている。そこに、五人ほどが緊張した面持ちでライフルを構えていた。

「泣けてくるな」

「仲間が応援に来ると思ってるんだろ」

「それまでは耐えようってか」

 ますますもって泣けてくる。

 制圧した区域の敵は拘束して部屋に閉じ込めてある。もちろん、拘束を解かれてもいいようにと扉の施錠は厳重だ。

 さらに、ドアの外に監視を三人。すぐ側には置かず、内側から開くと起動する何らかの仕掛けを施し、扉を破った奴にはもれなくブービートラップが待っている。

「おーい。お仲間が助けに来ることは無いぜ」

 浴びせられる銃弾の合間を縫ってジェイクが呼びかける。

 そんな事があるものかと敵は容赦なく撃ってくるものの、基地の様子が確かにおかしいと気付き始める。

「ここはもう終いだ。基地と道連れなんて、ごめんだろう?」

 こんな事でひよる敵はそうそういない。

 しかし、今回はそうでもないらしく。互いに顔を見合わせて話し合っている。どうやら、ここにいる敵は兵士ではないようだ。

「俺たちと闘って、勝てる自信はあるか?」

 再度の呼びかけに敵は不安になったのか、銃撃を止めてしばらくこちらの様子を窺っていた。

「どうする」

「敵さんも思案中だ。もう少し待ってやろう」

 話し合っている声が微かに聞こえ、男が一人立ち上がった。

「殺さないか?」

「殺す意味がない」

「ほ、本当だな?」

 語気を荒く問いかける男に、ジェイクは持っていたライフルを、撃たないと示すように左手で持ち上げ敵に姿を見せる。

「信じろ」

 闘っている暇はねえんだよ。早く降参しやがれと苛つく心中を抑えて笑顔を向ける。

「解った」

 男たちは立ち上がると、手に持っていた武器を床に投げ捨てた。すっかり戦意も失せているのか、無抵抗に拘束される。

 そうして、ジェイクはモニタールームを制圧した。

「見取り図を探せ! 急げよ」

 指示をしながらディスプレイに映し出されている仲間と敵の様子を確認する。ベリルとアレウスの姿を見つけてヘッドセットに指を掛けた。

「ベリル。制圧したぞ」

<ミレアのいる部屋を頼む>

「待ってろ。いま探してる」

 仲間が見つけてきた見取り図とベリルの映像を交互に見やり、ミレアを探して位置を照合していく。

「解ったぞ。お前のいる位置から、右に入った通路のグレーのドアだ」

<了解>

「気をつけろ。手前に敵が三人いる」

 念を押し、ミレアのいる部屋の三つの映像を見つめる。

「あそこにいるのは、キリアか?」

 何故だか、その部屋だけ雰囲気が違っているように思えて、ジェイクは怪訝な表情を浮かべた。

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続編
【箱庭の螺旋】
SF
明かされるベリルの過去


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