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*奇縁-きえん-

その青年は“Marvelous mercenary”-素晴らしき傭兵-と呼ばれていた。

青年にとっては、それは日常に偶然出会った小さな事件であっただろう。

しかし、それが彼にとって大きな結末を招くことなど、誰にも解るはずがなかった。

 その青年は、しなやかな足取りで流れる雑踏のなか、隙間を縫うように少しもぶつかることなく歩みを進めていた。

 人通りの少なくない近代的な街並みにあって、彼の整った顔立ちはすれ違う人の目を無意識に惹きつける。

 二十代半ばだろうか、青年は短い金の髪をそよ風に揺らし、神秘性を滲ませるエメラルドのような切れ長の瞳を晴れた空に向けた。

 見知った場所のように探索しているダーウィンという街──オーストラリア連邦、ノーザンテリトリー準州の州都でオーストラリア大陸北側のチモール海沿いに位置する。

 荒涼とした大地が大半を占めるオーストラリアという大陸で、彼は観光気分を味わうようにのんびりと優雅に歩いていた。

 黒いTシャツに前開きの長袖シャツを合わせ、暗めのソフトデニムパンツという、目立つような格好でもなく、それでいて地味というわけでもない。

 落ち着いた雰囲気をまとう青年には、よく似合う服装ともいえる。

 百七十四センチの身長と細身の体は、道行く人々の中にあって小さく感じられた。

 ダーウィンは乾季と雨季を持つ熱帯気候帯にあり、季節は日本と真逆になる。五月から九月までは乾季で六月の今の季節は涼しい時期だ。

 青年はふと、好奇心にかられて路地裏に踏み込む。細い道というものは、どうしてこうも追求心をそそるのか。

 彼が歩いている場所は観光地という訳ではなく、北に数十分も歩けば港が広がる住宅地だ。

 路地裏に人の気配はほとんどなく、大通りの方から時折聞こえる車のクラクションが青年の耳に心地よい喧噪として伝わってくる。

 建物の間を吹き抜ける風は青年の頬を優しく撫でつけ、無表情な口元に小さな笑みを浮かばせた。

 あちらこちらに点在して伸びる木々の葉を、そよぐ風がさわさわと鳴らし、どこか懐かしさを感じさせる街の情緒に目を細める。

 にわかに、幾つかのばたつくような足音が狭い路地裏に響き渡った。

 足音から推測するに、誰かが追われているようだ。音は左の路地から徐々に大きくなり、こちらに向かってきている。

 少なくとも四人以上の足音に、青年は眉を寄せた。

 青年が音のする方に足を向けた刹那せつな、十字路の右から人影が飛び出してきた。

「うっ!?」

「おっ──と」

 人影は青年に驚いてけつまづいたが、そんな人影を青年は上手く受け止めた。

 倒れ込んだ人物は暗めのフードを深々と被っており、伝わってくる感触で女だと解るものの、それ以外は掴めそうにない。

 女は受け止められて安堵したのも束の間、慌てて身を起こす。はたと目が合い、二人は互いの容姿を確認し同時に動きを止めた。

 青年はその鮮やかな赤い髪と瞳に初めて見る色合いだと関心し、少女はその整った容姿と鮮麗な緑の瞳に思わず見惚れてしまう。

奇縁きえん:不思議な因縁。また、思いがけない不思議な縁。

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