茶道部のせんぱいとかわった後輩(前半戦)
七瀬いをり(17才)は茶道部の先輩として、新入生に茶道の所作の基本を伝えるのに苦心していた。
正確に表現すると今年入部した2人のうちの一人に苦心していた。
その女の子の名前は、姫魂冥衣花(15才)(ひめたま めいか)
まず美しく座り、それを維持できないと所作の段階に進めない。
後輩のめいかと先輩である、いをりとの心理戦がはじまる。
第1+2 i章
七瀬いをり(17才)は茶道部の先輩として、新入生に茶道の所作の基本を伝えるのに苦心していた。
正確に表現すると今年入部した2人のうちの一人に苦心していた。
その女の子の名前は、姫魂冥衣花(15才)(ひめたま めいか)。
まず美しく座り、それを維持できないと所作の段階に進めない。
いをりは言った。
「かたちから入ると、こころも美しくなるって茶道は考えるんだよ。美しい仕草と所作を身につけなきゃだよ。
まず綺麗な姿勢を維持するところから始めよう」
姫魂冥衣花が発言した。
「茶道はこころを美しくするためのものと認識しても本当に大丈夫でしょうか。いをり先輩は神社の巫女として働いているのですから参拝客に美しく見えるというのは役に立つのでしょう。その一方で、
何かの目的のため茶道を学ぶことになんの意味がありましょう?
茶道は茶道としてのみに価値があるのであって、役に立つかどうかは関係がないとは思いませんか。
千利休は織田信長に認めてもらうため茶道を極めましたか。
そして、所作を見てもそれを受け取った人それぞれ美の感性が異なるにも関わらず、規格化された美しさを求め、押し付け、型にはめることに何らかの危険性を感じませんか?いをり先輩」
いをりは古代ヘブライ語の呪文か何かを聞いている感覚に陥ってそれを聞いていた。こめかみの奥から頭痛がする。こいつ早くこの呪文終わってくれないかな。
姫魂冥衣花は呪文を続けた。
姫魂冥衣花
「人よりも美しいと思われたいという醜いこころから得られた、一時的な美しさはプラトンのいう美のイデアと一致するでしょうか。
それとも、いをり先輩はプラトンのイデア論自体を否定されるお立場でしょうか。
レオナルドダ・ヴィンチが描いた受胎告知の聖母マリアの美しさは、茶道の所作をして身につけた美しさと同じものですか。
それとも異なるものですか。
茶道そのものは自らやってみたい、と思った命あるものすべてに開かれるべきものであるというわたしの認識は正しいでしょうか。
それとも時代とともにうつろいゆくものと解釈すべきですか。いをり先輩はどちらの立場で茶道をされていますか。
イエスキリストの言葉に、狭き門より入れ、という言葉がありますが、茶道の立場から、これをどう解釈すべきでしょう、いをり先輩」
いをりは物理的に、肉体的に、頭を抱えた。単純に頭痛がしたから。
そして放置していた右奥の虫歯が痛み出した。
ついでにこいつを右脚のすねで蹴っ飛ばしたい。もういっそ蹴っ飛ばそうか。
さっき受けた数学の授業で、積分法の美しさを語っていた数学教師に対する感情と似たものを感じた。
こいつ何言ってんだか最初から最後まで一貫して理解できない。
茶道なんだから、基本お茶汲んでみんなで楽しく飲むんだよ。
茶道の思想の危険性なんてあんのか。
茶道やって、ユダヤ人を迫害すべきとか思う人いんのか。
その前にこいつのそのやたら短いスカートのせいで下着が見える危険性を先に心配すべきなんだ。
しかもバレない程度にちょっと髪明るく染めてんだろ。
とは言わなかった。
茶道部の部室内では、いをりは自分は木花咲耶姫である、と思っているから。
木花咲耶姫
日本の神話の美しい女性
桜のように可憐に咲き、桜のように儚く散った
巫女さんは仕える身分だから思想とかないし、マルクス主義の巫女さんもたぶんいない。
同じ神社で一緒にご奉仕してる仲の良い巫女さんの口から、マルクスとか資本家という言葉が発せられた記憶はないし、たぶんこの先もない。
巫女さんは神主さんを陰で資本家とは呼ばないし、それにご奉仕している自分を資本家の犬とも思わない。
ご奉仕している神社の神さまに仕えるのであって、巫女さんはスターリンを崇拝しないし、仕えている神社の神さまに暴力革命を企てない。
祀っている神さまは、参拝客という名の労働者階級からお金を搾取しているとも思わない。
そもそも共産主義国は宗教を弾圧する。
ここは女子校の茶道部だ。
千利休を目指してる女子校の茶道部なんてあんのか。
プラトンとかいうやつの美のイデアとかなんのかとか。
こいつ一体なんなんだ。
学校で一番の美少女、顧問のあやめ先生(23才)に相談しなくては。
後頭部を不意打ちで蹴っ飛ばしていいものかどうか。
そもそもいをりは、千利休が茶道で織田信長を感心させた事をその時知ったし、ダヴィンチが聖母マリアを描いたことさえその時知った。
気がつくと姫魂冥衣花はごくふつうに女の子座りをしていた。
これは作法上許すわけにはいかない。
いをりは言った。
「めいかちゃんって仕草が女の子っぽくて可愛いね 。
黙って静かにしてたらなおさら可愛いかな」
これは、小説「左の瞳から見た虹」の特徴的なシーンの抜粋になります。前後関係が分からなくても理解出来る部分です。




