ポキっと貧弱さんからのポクっと貧弱さんXYZ
「日弱! いい加減にしなさいよ!」
朝のホームルーム前、教室のドアを蹴破る勢いで入ってきたのは、幼馴染の怪力少女・剛力真だった。
「ごふっ……!」
彼女が発した大音声の振動だけで、俺、日弱骨太の脆き鼓膜は微細なダメージを受け、鼻血を垂らして机に伏した。
俺は貧弱すぎる。
そよ風に吹かれれば捻挫し、まばたきに少し力を入れれば眼球を肉離れする。朝起きて「うーん」と伸びをしただけで肋骨が「ポキっ」と鳴る絶望的な虚弱体質だ。
「また骨折!? 昨日も階段を降りようとして空気抵抗で脱臼してたじゃない!」
「うる、さい……真の声帯から放たれる音圧波が、俺の肋軟骨にクリティカルヒットしてるんだが……」
「ごっ、ごめん! ほら、背中さすってあげるから!」
「やめろ馬鹿! お前の励ましのポンポンは、俺にとっては隕石墜落に等しい……ああああっ!」
ドスッという鈍い音と共に、真の優しさという名の破壊力が俺の背中を直撃し、視界が真っ白になった。
気づけば保健室のベッドの上。
「まったく、あんたのその情けない体質、どうにかならないの?」
ベッドの脇でリンゴを握り潰して(包丁がなかったらしい)100%フレッシュジュースを作っている真が、恨めしそうに俺を見た。
「俺だって好きでこんな最弱仕様に生まれたわけじゃないさ……」
「そう思ってね、今日は特別なものを持ってきたのよ!」
真が制服のポケットから取り出したのは、どす黒い紫色をした小瓶だった。ラベルには禍々しいフォントで『XYZ』と書かれている。
「これ、巷で噂の最新型栄養ドリンクなんだって! 何でも『もう後がない人間の潜在能力を極限まで引き出し、強靭な肉体を作り上げる』らしいわよ!」
「いやいやいや、色がヤバいって。絶対に食品衛生法違反だろ、それ」
「大丈夫よ! あんたのその貧弱な体なら、毒をもって毒を制すくらいでちょうどいいのよ!」
真は無理やり俺の口をこじ開け(その際、顎が外れかけた)、謎のドリンク『XYZ』を一気に流し込んだ。
「んぐっ!? ……あ……」
ごきゅん、と嚥下した瞬間。
食道から胃袋にかけて、焼けるような強炭酸の刺激が爆発した。
「……っ!?」
あまりの刺激の強さに白目を剥く。心臓の鼓動が急加速し、視界が極彩色に反転する。
あ、これダメなやつだ。
意識が急速に薄れ、「ポクっ」という間抜けな音が脳内にする。
そして俺は、幻覚の中で広い川辺に立っていた。川の向こう岸で、亡くなったじいちゃんが「こっちへおいで」とニコニコ手を振っている。
三途の川だ。
まさか栄養ドリンクの炭酸の強さでショック死しかけるとは。
「日弱! 日弱ぁっ! しっかりしてよ!!」
現実世界から、真の泣き叫ぶような大声が鼓膜を殴りつけてきた。
「う、おおおおおおっ!?」
その強烈な音圧による物理ダメージがショック療法となり、俺の魂は強制的に三肉の川の向こう岸から引き戻された。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ベッドから跳ね起きる俺。
「日弱! よかった、息を吹き返した!」
「ああ……なんとか、な。っていうか、今、俺……」
不思議な感覚だった。
『XYZ』のせいか、体の奥底からマグマのような得体の知れないパワーが湧き上がってくるのを感じる。
いつもならベッドから起き上がるだけで背筋がつるのに、今は何の違和感もない。
細胞の一つ一つが活性化し、この身に宿る潜在能力――そう、謎のチート体質『XYZ』が覚醒しようとしているのを本能で理解した。
「おお、これならいける気がする! 俺は、最強(無敵)の肉体を手に入れたんだ!!」
無駄な自信に満ち溢れ、俺は力強くベッドから飛び降りた。
「やったわね、日弱! その調子で――」
ガンッ!!
「……あ」
力強く踏み出した右足の小指が、保健室の硬質なスチール製キャビネットの角に、寸分の狂いもなく直撃した。
「ぎぎゃああああああああああああああああッ!!??」
痛いぃぃぃっ!!
骨伝導で頭蓋骨に響く破壊のメロディ。足の小指から始まった激痛の連鎖は、覚醒しかけた謎のパワーと複雑に絡み合い、結果的に全身の骨を連鎖的に打ち砕く大惨事(複雑骨折)へと発展した。
「ひ、日弱ぁぁっ!?」
XYZの過剰なパワーと、小指直撃という致命的ダメージが脳内でスーパーノヴァを引き起こし、俺の意識は今度こそ完全に、静かに、そしてスッと落ちていった。
……そうして俺は、タンス(キャビネット)の角に小指をぶつけて衰弱死するという、悲劇的なまでのギャグを残し、異世界へと旅立つのであった。
(本編『転生しても貧弱でした』へと続く)




