名付け
「シロ、ハク、ヴァイス、ルナ、ブルー」
ぶつぶつと呟きながら歩く巡。そんな巡を気にしながらも、周囲の警戒を欠かさない白犬。
今巡が呟いていたのは、飼う事にした白犬の名前候補たちだ。
名付けに自信のない巡は、白犬の姿から連想した言葉を呟きながら白犬の反応を窺っていたのだ。
ちなみに最初の三つは毛の色から。五つ目は目の色から。四つ目は白に浮かぶ青が、何だか月のようだと思い入れた候補だ。どれも似たり寄ったりの反応ばかりだが、その中でもルナが一番反応が大きかったか。ヴァイスだけには反応が無かった。
(ルナの時は両耳がこちらを向いたからな)
「ガルム、スコル、ハティ、フェン、マルコ」
大きさと顔つきが狼みたいな姿から、神話生物の名前も呟いてみるが、こちらは先ほど以上に興味が無いようだ。唯一フェンに多少反応があったが、気に入ったというより驚いたという反応に見えた。
「パール、ダイヤ、ムーン、アクロ、サフィ」
白い宝石から連想した名前を呟くと、これまでで一番の反応を見せたものがあった。それが五番目に呟いたサフィ。無色透明の宝石はホワイトの名が付くと何かで見たから、青い眼からも連想出来るサファイアを少々変えて呟いたものだったが、初めてこちらを振り向く反応を見せた。
それでも耳は周囲を向いているが、かなり気に入ったと見える。
「サフィ」
「わおん!」
もう一度呼んだところ返事まで返してきた。白犬の名前が決まった瞬間だった。
(そういえば確認してなかった)
名前ばかりを考えていて、サフィの性別をまだ確認していなかったと思い出す。
こちらを向き、何かを期待しているように見てくるサフィの頭を撫でるついでに、後足の間を覗き見る。
(ルナが気になり、サフィが気に入るわけだ)
サフィは女の子だった。
出会った時に巡の言葉を理解するほど賢いサフィ。巡が呟いた名前が男の子向けか女の子向けか判別していたのだろう。宝石から連想した名前に反応を示したのも分かる。動物だろうと、キラキラしたものが好きという事か。
「お前はサフィだ。改めて先導よろしくな」
「わおん!」
名前を付けられたからか、先ほどよりも嬉しそうに前を歩くサフィ。名前を付ける前は警戒に全振りしているように、尻尾もピンと立てた状態だったが、今は立てたまま左右に振られている。たまに思い出す様にピンと立てるが、またすぐに左右に振れ出す。
サフィの後ろを着いて行き、時折最短距離の道から外れながらも、スーパーに到着した。
避けた道の方から、時折何かが動く音が聞こえてきたが、黒い犬なのか、黒い鬼だったのかは分からない。しかし、見つからなかったことから、サフィの索敵は優れていることが分かる。
反応も速かったこともあり、黒い犬より優秀だな。
「まるで人だけがいなくなったみたいだ」
スーパーは遠目から見たときは、何らいつもと変わらない風景に見えた。
遅刻確定の時間とは言え、スーパーの開店にはまだ早い時間。しかし、開店準備をする従業員はいるはずで、その人たちが乗って来たであろう車が何台か止まっている。
だが人の気配は無い。
「物音すら聞こえない。サフィは何か聞こえるか?」
「うぅん」
首を横に振るサフィ。
何もいないことを把握し、重い自動ドアを開けようと手を掛けた時、ふと思い出す。会社なら、無理に開けようとしたとき警報が鳴ることを。
(音で集まってきたら面倒だ)
建物の裏に回り、従業員用出入り口を探すことにした巡。
車があるという事は、誰かしらは店に居たという事。つまり、そちらの警報は解除されているはず。そう推理し従業員用のドアノブを回すと、静かに開かれる扉。
見慣れないバックヤードを見渡しながら移動する。
出入り口近くに点けたままのパソコンを発見し覗いてみる。どうやら発注画面のようだ。
(発注途中だったのか。朝から時間のかかることをやる)
パソコン前から外れ、店内に出るために扉を探しに行こうと歩きながら考える。
朝早くに発注して、届くのはいつになるのかと。
その考えが浮かんだ時、もう一つ浮かんできたことがある。
人が消えたのはいつなのか。
(発注途中の画面。警報のならない出入り口。昨日日付の天気予報)
車を見た時、開店準備をしに来た人のものだと思い、人が消えたのは、日付変わってから巡が起きるまでの間だと思い込んでいた。しかし、店内に入り分かったことを踏まえ考慮すると、人がいなくなったのは日付が変わる前、或いは変わった直後。外の車は閉店作業中の人のものなのだと分かる。
(だから何だという話だが)
動きを止めたのは気づいた一瞬。
店内に繋がるスイングドアを開け、サフィのご飯やトイレなど、犬用品のある区画に向かう。
サフィは大柄だから、ご飯も多めに必要だ。
「サフィの気に入るご飯を選べ。袋の上からでもわかるだろ」
サフィがご飯を選んでいる間に、トイレや水入れ、その他犬を飼うのに必要なものを選びながら、自分のご飯や日用品を見に行く巡。
不測の事態に備えて、災害時用のバッグを用意していたが、もって数日分。
ここで補充し、この異常事態が長引いても問題ないように備えておく必要がある。
缶詰を中心に長持ちする食料品を選び取りながら、数日なら問題ないパン等期限の短いものも入れていく。
さらにあれば役立つロープや缶電池も入れ、サフィの所に戻る。
「決まったか?」
サフィは二つのご飯で迷っているようだ。
片方は肉や果物をバランスよく配合された、最近話題になって来たカリカリご飯。
片方は生肉百%使用と書かれている、シンプルなパッケージのカリカリご飯。
他の五キロで何円というやつと比べると、だいぶお高め。しかし、サフィが厳選したご飯だ。美味しいのだろう。
「その二つをブレンドするか?」
多少手間が増えるが、混ぜるぐらいならいいだろう。
グラムが少ない事以外は問題ない。
(なくなったら、サフィとまたここに来ればいいしな)
サフィの選んだ二つのご飯を加え、セルフレジに向かう。しかし、真っ黒の画面。会計は出来ないようだ。
(開店作業する人がいないんだった)
仕方なくリュックに詰め、入らなかった物を手で持ち帰ることにした。
人が戻ってくるか分からないが、書置きを残しておくことにする。
始めから盗むつもりで入ったわけじゃないからな。
「帰りもよろしくな」
ご飯を確保したことで、尻尾の振りが激しくなったサフィの後を着いて行く。
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