白犬との出会い
「状況を整理しよう」
巡は、この状況になった原因が何かあるはずだと、記憶を手繰り寄せる。
前日は、会社に行き、上司に怒鳴られながら日中が終わる。最近の定番と残業に突入。聡や後輩に手伝ってもらいながらその日の分を何とか終わらせる。家に帰る。
一日における上司の怒鳴りが二桁回数に上った時、庇おうとしてくれた後輩が声を掛けてきた。「自分にも何か手伝えることはありませんか」と。最初は断ったが、連日来たので、簡単なものから手伝ってもらった。
後輩の手が空いてしまうと、「何かないですか」と来てしまうため、仕事のスピードはだいぶ上がった。が、上司の怒鳴りの回数と時間が増すため、残業が無くなることは無かった。
(嫌な記憶だ)
そして、休日が無くならないように奮闘するも、限界が来ると思い、上司の怒鳴りを元に戻せないか考えるも、自分も周りも犠牲にしない方法が思いつかず、いつの間にか眠りについていた。
「思い当たる節が無い」
(しいて言うなら、聡が残ったことだが、そんな事たまにあることだしな)
虚空を眺めながら記憶を遡っていると、視界の端を白いものが横切った。
反射で動くものを目で追いかけると、それは真っ白い犬だった。遠目だから犬種までは分からないが、結構大きい。ガードレールで顔が隠れるほどだ。
そのあとを追うように路地から真っ黒の犬が飛び出してきた。こちらも大きい。白い犬よりも大きく、ガードレールから頭が飛び出ている。それが三頭。
巡はあの黒さに見覚えがあった。さっき襲われた真っ黒の鬼だ。それが三体、白い犬を追い立てている。
黒い犬の方は体が大きい分、白い犬より俊敏性が低いらしく、追いつくことは無さそうだ。しかし、三頭が連携して白い犬を完全には逃がさないようにしている。
「こっちだ!」
巡は気づけば木刀片手に庭に繋がる窓を開け叫んでいた。
距離もあり、黒い犬の方が近くにいる位置関係だったが、一番に反応したのは白い犬だった。
振り向きながら先頭を走る黒い犬を避け、回り込もうとしていた二頭目と距離を取るように走り出す。白犬と家の間に立つ三頭目をその俊敏性でワンステップで躱し駆け寄ってくる。
庭には道路との間に柵があるが、あの大きさであの俊敏さだ。軽々と越えてくるだろう。
巡の予想通り、白犬はそのままの速度を保ちつつ柵を越え、家の中まであと一歩と言うところで、急激に減速。家の中に招き入れる。
そして、急いで窓を閉め鍵を閉める。確認をしたあとカーテンを閉じる。
白い犬より体の大きい黒い犬も軽々と柵を越えてくるだろうと予想できるからだ。
「奥に行ってな」
窓の外で吠える黒犬たちを追いやるために、キッチンへ。唐辛子パウダーや黒胡椒など、刺激の強い粉を混ぜる。出来上がった合成刺激物を手に持ち、黒犬が吠える窓のある部屋の隣の部屋に行く。ゆっくりと窓を開け合成刺激物を黒犬たちの中心に投げ込む。
合成刺激物が地面にぶつかり爆発。黒犬たちを包むように広がったそれを、黒犬たちは危険と嗅ぎ取り逃げ出していった。
「目も鼻も無かったが、匂いは効くようだな」
叫んだ時の反応から、てっきり五感がないと思ったが、そうでもないらしい。
(素直に逃げてくれて助かった)
俊敏性がない変わりに力はありそうに見えた黒犬。止まらずに窓にぶつかっていたら。刺激物を受けた混乱で窓に突撃していたら。強化ガラスと言えど、割られていたかもしれない。
黒犬たちが戻って来ないかしばらく待機するが、完全にどこかに行ったようだ。
「とりあえず、安全だな」
白犬を避難させた寝室に戻る。
そこにはベッドの上でくつろぐ白犬。その大きさも相まって、完全にベッドを占領している。
自分でここに追いやったが、少しは警戒しないものなのか?
外で生活していて、お前からしたら俺は知らない奴だろ?それなのに、人の寝床に来てくつろぐなんて、そんな信用も信頼も無いのに、よく信じられるな。
なんてことを思ったものの、犬に言っても意味がない。
「黒犬に追われて疲れてるのかもしれないしな」
くつろいだままの白犬をそのままに、水を汲み部屋の隅に置いておく。
咄嗟に家に呼び込んでしまったが、犬用のご飯も無ければトイレも無い。犬が住む環境が整っていない。
ベッドの上でくつろいでいた白犬が起き上がり、水を飲む様を見ながらどうするかを考える。
(自分の事も分かってないのに、つい白犬を連れ込んでしまった)
会社に繋がらない電話を諦め、急用の為休む事をメールで送っておく。巡は読む人はいるのだろうかと疑問に思うものの、送らずに怒られるよりはマシと納得しておく。
スマホで犬を飼うために必要なものを調べ、出かける準備をしておく。
さっきの黒犬や黒鬼みたいなのに出会わないか心配だが、白犬を保護した以上、責任を持たないといけないからな。
「今からお前が住むために必要なものを買いに行こうと思うが、お前も行くか?」
巡が話し掛けるとじっと見てくる白犬。
分かってないと思い、大きめのリュックを背負い木刀を手に持ち外に出ようとすると、後ろを着いて来ていた白犬。大きさのわりに立てる音が小さく、頭で小突かれるまで気づかなかった。
「ついて来るか?」
「わおん!」
元気な返事を受け、一緒に行くことにする。
それにしても大きい。ガードレールの高さから分かってたつもりだけど、隣に並ぶと鮮明だな。耳が腰に届きそうだ。
撫でるのに腰を屈ませなくていいから、楽ではあるが。前足を上げて飛び上がっては来ないでくれよ。
玄関のすぐ外にまだ黒鬼がいないとも限らないため、警戒しながら扉を開ける。
幸いにも何も見えず、黒鬼はどこかへ行ったようだ。
「何か見つけたら知らせてくれよ」
黒鬼に限らず、黒犬もいたからな。そのほかにも黒い生き物がいるかもしれない。
ヒトの何十倍、何百倍と言われる犬の嗅覚と聴覚を頼りにしている。
恐る恐る外に出る。顔だけ出して通りを見る。耳を澄まし、物音がしないか確認するも静かなもの。
風が吹く音以外何も聞こえない珍しい状況だ。
「それじゃあ、先導よろしくな」
警戒するように、時折周囲の匂いを嗅いだり耳を動かす白犬の後ろをついて行く巡。
飼うのなら名前をつけないとなと、考えながら歩いて行く。
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