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狐のお話

急速に変化し、唐突に終わったにもかかわらず動かない両者に声を掛ける。

いや、両者と言うには片方の意識は無いのか。


「そろそろそ奴から離れたらどうじゃ?今の一撃を躱す余裕が無いのなら、お主に一撃を与えたという事で合格じゃろ?そもそもお主はそ奴を認めていると言うてたしな」


諦めたように目を瞑っていた葵に、妾はそう声を掛けると、ようやく目を開け目の前の状況を理解しようと辺りを見回し始める。


「あれ?巡君?あの状況でもう避けられないと思ってたんだけど、これどういう事?」


頭に当たると思われた木刀を地面に突き立てた状態で動かない巡を見て、葵が外から見ていた妾達に聞いてくる。近すぎて理解できなかったのならしょうがない。説明してやるとするか。


「そ奴の動きが途中から変わったのは分かるか?」


「呼吸を整えてからかい?防御に徹していたと思ったけど、そのあとから攻勢に来たね。戦闘中にも言ったけど綺麗すぎ」


巡の手から木刀を放しながら、説明を続ける。よほど強く握っていたのか、意識が無くなっても指の一本一本に力が入っており、剥がすのに苦労するわい。


「こ奴は基礎だけとは言え剣術を修めるのが早かった。しかし、応用を教えるほどの時間は無かった」


「勝手に応用を覚えてくるって言ってたね。この僕に届くほどの応用だ、センスが良い。それに決まると思った剣を何度も避ける反射神経。経験さえ積めば僕に匹敵するほどの剣士になるかもしれない」


「確かにセンスもあるし、咄嗟の反射神経も良い。戦闘中に必要だと思った応用を思いつき、実際に戦闘に使えるように昇華する。これはセンスも必要だが、しっかりと基礎を修めていなければ出来ないことだ」


「僕に巡君の秘密を教えてくれると思ったのに、弟子自慢始めちゃって。そんなに真剣に修めてくれた巡君が嬉しいのかい?」


何が面白いのか、妾ににやにやと話し掛けてくる葵。巡を支えていなければ、今すぐそのにやけた顔を殴っておったわ!こ奴に感謝するんだな!


「何を言ってるんじゃ!そんなこと!妾ほど長く生きているとな!弟子なんぞごまんと居るわ!」


「悪さして眠っていた君が?弟子なんて取ったことないでしょ」


「ばばばバカなことを言うな!」


「良いからそろそろ巡君の強さの秘密を教えてくれないかな?」


意識のない巡をサフィ様と協力し、壁際に運び終えると、いつの間にか近くに来ていた葵が近くに座り込み、置いて来た木刀を巡の近くに置く。


「はあ。こ奴の秘密はその眼じゃよ。反射神経もセンスもこ奴がその眼で捉えた情報によるものだ。どれだけ基本を修めようと、それで対処できないとその眼で捉えたから、通用する技を編み出した。どれだけ速い攻撃だろうと、その眼で捉えることが出来ればそれを避けることが出来る。全てはこ奴の眼の良さじゃよ」


「眼ね。確かに巡君は僕の初撃も、予想もあったと思うけどしっかり避けてたね。その直後の攻撃は君に守られたけど、目で追えていたようだし、君が端で見に徹してからは巡君自身で対処してたし納得かな。だけど、そんな急に動きが良くなることがあるのかな?目が良いから動きを追える。それによって攻撃の仕方を変える。攻撃を防ぐことが出来る。それは分かった。だけど、眼が良いから動きが早くなるはおかしいでしょ」


妾でも納得の疑問が葵から飛んで来る。確かにいくら眼が良かろうと、それで動きが速くなってたらおかしいと思う。しかし、実際に動きが速くなっているわけじゃないんだな。


「こ奴の動きが早くなったのではない。動き出しが早くなっただけじゃ。言うたじゃろ。こ奴の眼が良いと。それは単純に遠くが見えるというわけではなく、範囲が広くなったり、より細かく常人なら見えないところまで見えるようになるという事じゃ。例えで言えば、こ奴妾の眼の反射で背後が見えると言っておったわ」


初めて眼の覚醒をしたときの検証を例として話すと、常に笑みを絶やさなかったこ奴も笑みが消える。呆気にとられた顔をしているこ奴を巡に見せてやりたいわ。

まぁ、妾も初めて聞いたときは同じ顔をしたかもしれぬけどな。

人の眼の反射で自分の背後を見るとか、妾や葵より人間やめてるじゃろ。


「その驚きようも分かる。しかし真実じゃ。こ奴はあらゆる反射で視界を確保し、筋肉の動き方から相手がどう動かしたいのか判断し、それに沿って自身が動く。究極の反射神経と言ったところじゃな。その反動も大きい所じゃが、視界で得た情報を脳で理解するよりも早く動くようになれば、お主や妾を超えることだろう」


「それが出来たら、人を超えるね。それを出来た人を僕は見たことあるけど、それは死の危機に瀕したものだった。そうか。だからか」


「なんじゃ?」


納得したと思ったら急にブツブツと呟いて、そうと思えば何かを閃いたように大声出しおって。何に気づいたというんじゃ。


「巡君が呼吸を整えてからも確かに攻勢に出てたが、武器を手放してからの動きはそれまでと一線を画す動きだった。武器を手放すという僕の考えではありえない行動の直後の体術での攻撃。初めてとは思えない捌き。好機と見るや猛攻に出る姿勢。諦めたと見えたのに、してやられたよね!」


「その猛攻でお主を追い詰めたんじゃが、ただでさえ眼に集中して負荷をかけていたのに、お主に一矢報いるためにさらに負荷をかけ負った。その反動がお主に最後の攻撃を届かせる前に体に来てしまったのじゃろう」


意識のない巡の眼を開き、眼球の疲労具合や出血などが無いか確かめる。

どうやら、今回は出血は無いらしい。じゃが、充血度合いが酷いな。前回より強い負荷をかけていたと思ったが、それで耐性でも出来たのかもしれぬな。回復すれば起きるじゃろう。


「その負荷の反動で倒れたという事か。ようやく僕を逸れた木刀の謎が分かったよ。だけど、一撃も当てられないのかと煽った手前、僕に傷を負わせた巡の勝ちだね」


「なに?最後の一撃はお主を逸れたのじゃろう?」


だから、葵はあれだけ不思議がっていたんじゃないのか?それに限界の中での制御の無い一撃。掠りでもしていたら、その衝撃で当たっていないとは思わないじゃろう。


「いいや。確かに当たっていたよ。木刀なのに薄皮を斬る鋭さって、僕でも出来るか分からないよ」


そう言って指し示すのは自分の側頭部。そこに一筋の赤い線が刻まれたいた。


「僕は初めから当たっていないとは一言も言っていないよ。ただ、猛攻の割に続きが来ないと不思議に思っただけなんだ」

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