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巡の意地

巡が深呼吸をして精神の集中を行う。

視力の強化は相応の負荷が掛かるものだが、この少年に効くのなら大抵の相手にも有効なはず。

相手の速さを超える必要はない。ただ、相手の行動を阻害し続ければ、いつかチャンスが来るはずだ。それが来た時を見逃さず、しっかりと攻撃を当てられれば、その余裕な表情も崩れるだろう。


(体は熱く、思考は冷静に。見極めを間違えずに)


「その笑みを消す!」


決意を固め葵少年に斬りかかる。


「それが君の本性か。悪くないね」


巡は走りを優先するために、納刀のしている感じでバール持ち、葵少年がバールの間合いに入ったギリギリに見様見真似の抜刀で斬りかかる。が、葵少年は上体を後ろに逸らすだけで簡単に避ける。そして、返す刀で抜刀をした。


「これが本当の抜刀だよ」


見本のように糸を引くような一文字切りを、大きく後ろに飛ぶことで何とか躱した巡。

大猿の時は、それこそ相手の筋肉の動きまで見えていたが、目に集中することでようやく動き出しが見える程度。到底相手の動き出しを邪魔することなど出来ない。


(俺の攻撃も止められなかった)


二人の距離が離れたことで仕切り直し。

抜刀擬きが通じなかった巡は、バールを仕舞う事を止めた。

先ほどとは違い、構えをとったままじりじりと距離を詰めていく。

葵少年の刀と巡のバールのどちらの間合いが広いかと言うとき、刀よりもバールの方が間合いが広い。

無理に近づいて利点を捨てるより、相手の刀の届かない距離から攻撃したほうが良い。

あと一歩踏み込めば、葵少年をバールの間合いの内側に入れられる所で足を止め、バールを届かせるため誘導を施す。


(一流は相手の視線や剣先の高さから狙いが分かるというが、超一流は偽装に引っかからないか)


視線で首や心臓、脳天など急所になりやすい所に促しても、剣先を動かして斬りかかる素振りを見せても、こちらの目を見て微笑みを絶やさず。足を動かそうとした時だけ、剣先を動かし動きを制してくる。

こちらのやりたいことを相手にやられ、頭に血が上りそうになる。


「ちらちら見たり、ちょろちょろ動かしたり。さっきの勢いはどうしたのかな?僕の笑みを消すんじゃないの?」


「まだ準備段階ですよ」


「準備が長いようなら僕から行こうか?」


握りを強めるのが視えたところで、一気に攻め始める。

攻撃に転じようとしたところを、襲われると一瞬動きが止まる。これは実体験であり、急な攻撃には防御も疎かになる。見えているのに不意打ちになり、思わぬ怪我も負いかねない状況になるはず。

それなのに悠々と躱され、防御を取ることしか出来ないほどに攻められているという状況。


「誘われたか」


「ここからどうする?」


一太刀一太刀が鋭さを持つ猛攻をしているとは思えない笑みを浮かべる葵少年。防御をしている巡が息を切らしそうになっているのにもかかわらず、その動きに乱れはない。


「動きを止めたら斬っちゃうよ?」


「忠告どうも!」


葵少年の袈裟斬りに合わせて逆袈裟斬りで弾きに行き、猛攻に間隙を生じさせようとするも、それすらも読み切られていたのか、即座に次に繋げる動きに行くのが見えた。


(これも読まれてんのかよ)


弾かれた刀が火の構えに動き、そのまま振り下ろされる未来が見える。

これが走馬灯の前触れなのか、ここにきて集中力が上がったのか分からないが、動き出した刀がやけに遅く見える。


(不意を突いたと思えば逆に突かれてこっちは構え直しすら出来ないってのに。今からバールを挟み込めるか?いや、挟み込めたところで弾かれて今度こそ斬られるか。今の握りで弾かれたらバールを保持できるかも怪しいし。ここまで来て終わりかよ。元の世界に戻るどころかここから出ることも出来ずに終わるのか)


巡の心は既に諦めていた。

ここで防御をしに行っても、それすらも読まれているんじゃないかと思っている。

それでも体は生を諦めてないらしく、無意識にバールを持つ手に力が入る。

相手の攻撃を防ぐため、バールを挟み込もうと前面に持って行く。


(どうせ弾かれる。挟み込んでも意味は無い。今も笑みが消えないことからこれも予想の範囲だったんだろう。……どうせ最後なら、笑みだけでも消してやる!)


振り下ろされる刀がバールに当たる瞬間、バールから手を離す。抵抗のないバールは大きく吹き飛ばされ、バールの角度により奇跡的に巡を逸れる刀。そして、多少なりともあると思っていた抵抗が無かったため、刀も大きく振りぬかれている。次に繋がる動きにも行けないようだ。


(やっと妨害が出来たが、これで終わりじゃない!)


大きく目を見開きはしたが笑みは変わらない葵少年を見て、攻勢に出ることを決める。

飛んでいくバールに当たらないよう屈めていた体を起こし、当てる事を目的とした左拳を放つ。


「武器を手放した時点で君の負けだよ」


殴り掛かった巡に対して、葵少年は刀の柄で殴りに来た。

当てる事を目的としていたため即座に防御に動き出し、いなす様に柄を叩く。

武器を手放したら負けと言っていたように、葵少年は落とすことはしなかったが叩いたことで態勢を崩すことは出来た。


「体術も狐に習ったのか」


初めて態勢を崩されたのがバールでの剣術ではなく、手放した後の体術で驚いたのか、思わずと言った感じに葵少年が呟いた。


「体術なんぞ教える時間無かったぞ」


それに答えたのは相対していた巡ではなく、端で待機していた狐だった。


「そ奴は勝手に応用を使う。そしてその応用がお主にも効くことはお主が言ったことじゃろ」


狐に話し掛けられたことで葵少年の意識が一瞬だが、狐に行った。

その一瞬で狐と視線を交わした。


「それよりいいのか?お主の笑みが消えたことで、そ奴の闘志が復活したぞ?」


当てるための右拳を放つ。当然防がれるが、掴まれないように意識をしたことで弾かれるに留まる。反動を利用して今度は左拳を放つ。こっちは刀を手放さないために肩に当てるように防がれる。


「支えてくれてありがとうなっ」


弾かれた右手を開き、そのまま上から落ちてきた木刀を掴む。


「いつの間に!」


「妾じゃ。お主の意識が上に行かぬよう話し掛けて正解だったようじゃの」


掴んだ勢いそのままに、木刀の柄で側頭部を狙って振り下ろす。


「これは参った」


葵少年の言葉をかき消すように鈍い音が響いた。

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