最上階手前で
三階で猫が新たな同伴者となり、四階五階と時間を掛けながら、確実に上階に上って来た。
二階で『力』の大猿、三階で『速さ』の猫。
四階ではバールの突きでの一点突破でようやく攻撃が通った『耐久』の牛。相手はその場から動くことは少なく、基本的に座っている状態だった。攻撃が通ったときに初めて動きを見せた。その硬さで痛みを感じたことなかったのか、たったの一突きでフロア内を駆け回る大暴れを見せた。しかし、壁にぶつかるのも嫌だったのか、壁際に退避すれば被害を被ることもなく、チクチクとだが攻撃し撃破することが出来た。
「牛が階段の前に居なければ素通りしたんだけどな」
「その畜生に続いて戦わずに済むかもしれなかった相手じゃったな」
狐が猫を畜生と呼んだことで、怒りをあらわにする猫。
狐が畜生と呼ぶたびに頭の上で猫パンチをするが、それで被害が来るのは巡の頭の為、狐が畜生呼びを改める事は無い。軽くとは言え、何度も繰り返されると、そこそこの痛みになることをどちらにも分かってほしい。
五階に足を踏み入れた時、最初何もいないと思った。しかし、そんな事は無く、素通りし次の階へ行こうとすると、消しゴムやペンなど比較的軽いものが足先に投げられた。
直接当ててこないことから敵対と言えるか微妙なところだが、無視しようとすれば足先に物が飛んで来るため、物を投げてくる犯人を見つけることにした。
結果から言えば、兎のような相手だったが、その体は小さく、また真っ黒なのは他と変わらず、物の影に隠れられると途端に見つけることが困難だった。サフィの鼻も狐の耳も当てにならず、猫は兎と共謀はしなくとも、こちらに協力するわけでもなく、巡の目だけが頼りだった。
「あれは『隠れる』ことに特化してたよな」
「隠れる?兎の事か。確かにあ奴の隠密能力は高かったの。移動してるはずじゃのに妾の耳を潜り抜ける隠密性。その畜生ほどではなくとも速い移動速度。何より、目をごまかすのが上手かった!」
物を投げていた兎だが、その投擲能力も高いもので、逃げたと思われる方向から音がすれば、そこにはペンが転がっていた。なんてことが幾度もあった。巡たちがそちらに気を取られているうちに、兎は別の所に隠れたのだろう。
やっていることはかくれんぼなんて言う子供の遊びに見えるが、その難易度は他と変わらないと感じた。
何より、疲れて足を止めても物が飛んできたことを考えると、他よりも脅威度は高い。
(逃げることも許されないとは思わなかった)
幸い何とか捕まえることに成功したら、猫と何かを話すような仕草をし、先に上に走って行った。
そこでその日は休憩とし、食料確保に外に出た。
「あの日は猫で楽できたと思ったのに、そのあとはどっちも疲れる作業だった」
「どちらも危険が無くて良かったじゃろ」
「それはそうなんだが」
疲れた体で食料確保するのも大変だったんだが、それを分かっているのだろうか。
移動は大狐の背中に乗せてもらえるが、料理は作れないし、片付けもしない。なのに、空腹を訴えることは欠かさない。前に一度、料理を手伝ってくれたことが懐かしい。火を使わせることはしなかったとはいえ、あの狐が手伝ってくれた。
「それがどうして」
「なんじゃ!いきなり妾の顔見てため息なんぞ吐きおって!」
「たまには料理してみないかと思ったが、お前がするわけないよな」
「妾がするより、お主が作ったほうが美味い!妾の為に馳走を用意する栄誉を授かれることを誇り思え!」
「最近は食べる量が減ってきて、大量生産する必要が無くなって来たからまだいいが、たまには自分で作ってもいいんだぞ。前はあんなに喜んでいたじゃないか」
「振り返ることはせぬ!」
戦闘を思い出していたら、別の事まで思い出してしまったが、改善は望めないか。
狐が動くことと言ったら、食料確保のために外に出る時と、ここに戻ってくるときくらい。戦闘をしないのなら、食事を作ってみても良いと思うんだけどな。
「剣術と同じく繰り返すことが料理が上手くなるコツだぞ」
「既に上手い者がいるのだ。任せていいじゃろ」
何を言っても料理をする気はないという事か。
それはそれとして、戦闘を思い出せば六階からも厄介な敵ばかり現れた。
走り続ける馬だったり、やたら数の多い鼠。天井近くから落ちてくるように飛んで来る鳥。曲がることの出来ない速さで直進してくる猪。
猪と分かった理由としては、牙だ。直進しかしてこないが、猫よりも速く突っ込んできて牙で刺そうとしてくる。その速度故に止まることも難しいらしく、初回を運よく避けることが出来た後は、正面に立たないように意識し、横からの攻撃に専念した。
(あの猪が壁すら突き破り、外に飛んで行ったときは呆気にとられた)
最後は猪の突進を何度も受け止めた壁が耐えられず崩壊。そのまま外に解き放たれた。
元気そうに道路を走り去る姿を見る限り、あの牙、もしくは鼻面も相応の硬さがあったようだ。
足を引っかけて転ばせるなんてことも出来なかった点から、上階に相応しい厄介さがあったんだな。
そんな厄介な動物型を撃退すること計十二回。外から見た時、それほどの高さは無かったはずだが、一フロアに一種類がいて、撃退して上へ行く。その時に倒した動物の種類が十二種の為間違いはない。
何もいなかった一階と合わせて、現在十三階。
ここにいた守護者を倒して、休憩中。この階まで登ってくると上り下りだけでかなり疲れる。
狐が人並み程度の食欲になったため、食料をいつも通り持ち込んでも二日は持つようになった。
その食糧で食事休憩中だ。
「食事の件は置いておいて、この上が最上階って本当か?」
未だに褒めてるのか、命令しているのか分からない狐の戯言を制し、休憩を取る切っ掛けとなった発言を確認する。
「うむ。確かにこの上が最上階じゃ。そこの畜生も間違いないと言っておるしの。次で最後じゃ」
畜生と言われたことで威嚇する猫だが、軽く叩かれる回数は一回で肯定。
本来なら敵側の猫が肯定するなら間違いないか。
「ここまで厄介な守護者に守られていた奴だ。上にいるやつも厄介に違いない」
ようやくこの世界の謎が分かると思えば、さっさと上に向かいたい所ではあるが、しっかりと準備していかないと、何が襲って来るか分からない。
今は、逸る気持ちを抑えて、体力・気力の回復に努める。
「明日最上階だ。何が起きても良いように準備をしよう」
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