狐と猫の戦い
何とか真空パックされた肉を確保し、缶詰と合わせて肉を堪能した翌日。
目を休めたこともあり、起きた時には目の疲れ、違和感はなくなっていた。
「ホットなアイマスクってちゃんと効くんだな」
「あれのー。じんわりと温かくなって気持ちよかったのー」
同じく寝る前に目を温めた効果なのか、珍しく早起きしたけもみみ幼女も同意する。
「食料品は手に入りにくくなっているが、日用品は期限なんてないものばかりだし、娯楽に目を向けて良いかもしれないな」
パスタを茹でながら、昨夜の事を話し合う。
食料品が日持ちのする物ばかりになり、日々の食事に変化が少なくなった。今までは生きるためにも、楽しむためにも焼肉やったり、パスタを作ったり、海鮮を楽しんだりしていた。しかし、三か月もあれば、冷蔵食品やパンなどの期限の短いものは既にダメになり、冷凍食品も食べたことの無いものなど無くなり、狐の食べる量を考えると常温で長期の保存が可能な、生米や乾麺類ばかりになってきていた。
そんな中、目の疲れに効くという文言に誘われて試してみたホットなアイマスク。これが食事の代わりの娯楽になった。これは同じような物はあるが、匂いが違ったり効果が違ったりと、バリーションが豊富だ。
何より食事と違って数を用意する必要が無い。
「封を開けただけで何もしておらぬのに温まるのは面白いの!」
出来上がったパスタを食べているときも、そのテンションは下がらなかった。
何もしていないのに温まることが本当に不思議なのか、今夜分に持って来たものを今すぐにでも開けそうだ。
カイロも同じ原理だろうし、今度はカイロを渡しておくか。
何も教えずに原理解明出来たら、天才だな。
「二階の大猿を倒したわけだが、三階にも同じようにいると思うか?」
ホットなアイマスクの封を切られる前に、別の話題を幼女に振る。
「あっ……。んん!二階と同じような強敵がいるかという質問じゃったな。もちろんいるじゃろう。全く同じと言う事は無いが、型が違うか少し強くなっているか。厄介なことに変わりはないじゃろうな」
「大猿と同じかそれ以上か」
ビリっという音と共に後ろ手に隠されたホットなアイマスクは一旦見なかったことにして、三階の強敵に思いを巡らす。
強すぎるほどの怪力で柱ほどの武器を振り回し、人体の急所、脛や指先、顎など狙ったことでダメージを与えることが出来た鋼の肉体。これと同じか、それ以上の強敵が上にいるとか、それどんなダンジョンなんだ。
「バールも効かない敵が出てくる可能性もあるのか」
思わず呟いた巡の言葉に、返ってこないと思っていた返事が来た。
「それもあるかもしれんの。じゃが、理不尽なことは起こらぬと思う」
(もう隠す気無いじゃん)
けもみみ幼女が本物の幼女のように口が軽いことも見なかったことにし、三階へ向かう。
「建物の周りを黒い生物が取り囲むのどうにかしてほしいな」
「飛び越えてるの妾じゃけどな」
何もいない二階を通り抜け三階へ着く。
そこには外でも見た真っ黒な猫が寝転んでいた。
「あれが大猿と同じか強いのか?」
「ここにおるという事はそう言う事になるの。警戒を怠るなよ」
狐の助言を頭に入れ、部屋の中へ足を踏み入れる。
巡が足を踏み入れると、猫のしっぽが穏やかに揺れ耳がぴくぴくと動き、何か来たことは察知しているようだ。しかし、体を起こす事は無く、警戒する感じが無い。
(本物の猫っぽい)
外の猫型は背後を狙ってきて好戦的だったが、この猫はヒトに慣れた猫だ。それも家猫並みに警戒心が無い。これが下の大猿と同等かそれ以上とは思えない。
「こいつ可愛いぞ!」
余りの警戒の無さに、巡も警戒心緩く近づき頭を撫でてしまう。
撫でられた猫も巡を気にせず、むしろもっと撫でろと頭を押し付けてくる。
「黒い生物の触り心地なんて知る事は無いと思ってたが、案外柔らかい!本物の猫みたいだ!」
猫を撫でる手が頭から耳の後ろ、顎下に伸びていく。そのたびに猫は安らいでいるようで、本物の猫ならグルグルと喉を鳴らしているんじゃないかと思うほどに柔らかくなっている。
「警戒を忘れるなと言ったじゃろうが!何を嬉しそうに撫でておるんじゃ!」
「だけどこいつ可愛いぞ!」
「そいつは敵じゃ!下の大猿と同じと言っておるじゃろうが!」
猫を撫でる手は止めずに、警戒しろと言ってくるけもみみ幼女と言い争いをしていると、声がうるさかったのか猫が体を持ち上げた。
苛立たしそうに左右に揺れるしっぽと態勢の低さで敵対されたことが分かる。
しかし、その矛先は近くで大声を出していた巡ではなく。
「何で妾に向かって来るんじゃ!」
壁際でサフィの隣で戦いを見ようとしていた幼女に向かって行った。
余りの動き出しの速さに咄嗟に眼に集中し、視ることを意識した。
巡の眼には、狐に向かった猫が一歩進むごとに大きくなっていき、狐に到達する頃には大狐と遜色ない大きさになっていることが分かった。
その直後、猫の前足が振りぬかれ、幼女が吹き飛ばされた。壁に激突するまでにデスクやパーテーションを巻き込み煙が辺りを包んだ。
「いきなり攻撃してくるとは礼儀のなってない畜生じゃのー。躾けてやるから掛かってこい」
煙の中から現れたのは大狐。吹き飛ばされながらも変化していたようで、壁にぶつかったはずなのに怪我は見当たらない。
「わおん!」
いきなりの展開で固まっていると、サフィが呼ぶ声が聞こえた。
いきなりの事で忘れていたが、サフィと狐は隣り合っていた。巻き込まれていないようで何より。
狐が咄嗟に巻き込まないようにしたのか、それとも猫が巻き込まないよう配慮したのか。
猫は狐だけを敵と認識したようで、サフィが鳴いても、サフィの元に行く巡を分かっていても狐から視線を外さない。
「可愛い猫だと思ったんだが、今のあの姿は猫ってより虎だな。足は太めでしっぽも太い。耳も丸目だし。でかい猫科って大体一緒の形だから断定はできないけど」
猫と狐の戦いを見ながら言うと、サフィが一鳴き。さらに撫でろと言わんばかりに、自身の頭を手のひらに押し付けてくる。
「嫉妬してるのか?サフィも可愛いと思ってるから安心しろ」
サフィの頭を撫でながら言うが、頭の押し付けがさらに強くなり、もはやのしかかって来ている。
(最近狐とばかり話していたから、そっちに嫉妬していたのか?)
この機会にサフィとの友好を深めるために、全力でサフィを構う事にする。
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