覚醒の検証
「……し!…ぬし!お主!」
耳元で呼びかけてくる声で目覚める。
いつの間にか倒れていて、けもみみ幼女が必死に呼びかけているのが見えた。
「お主!起きたなら返事くらいせんか!」
ぼーっと呼びかけてくる幼女を見ていたら、顔を赤くした幼女に頭を引っ叩かれた。
その衝撃でようやく頭が起きた。
「大猿は!?」
「しっかりと止めを刺しておった。あれが証拠じゃ」
幼女が指し示す先に、手の平大のガラス玉が転がっていた。
大猿の戦利品だと分かるが、大きさがそのまま強さになるのか、外の黒い生物のどれよりも大きい。スリングショットの弾代わりにも出来やしない。
「俺はどうなったんだ」
「覚えておらぬのか?」
珍しく心配そうに聞いてくる幼女。
自分が覚えていることを確認も兼ねて声に出す。
「俺が覚えているのは、バールが大猿に効いたこと。戦いの中で大猿の動きがゆっくりに見え始めたこと。それと、大猿が恐怖を感じたのか俺から距離を取ったこと。そこから先はあまり覚えていない」
「そうか。なら妾が見たことを教えよう」
けもみみ幼女の話では、バールで大猿を殴り、痛みで大猿が武器である柱を手放してから、雰囲気が変わったという。
そこからやけに攻撃的になり、大猿の攻撃の間合いを考え、避けたり弾いたり受け流したりしていたことを一切しなくなり、攻撃をさせない攻撃ばかりになり、サフィと共に慎重になれと声を掛けたと。
しかし、サフィの鳴き声も狐の掛け声も聞かずに攻撃を繰り返し、一方的な展開が続いたことで、静観することに決めたそうだ。
大猿を制限するような攻撃は、狐の教えたものではなく、戦いの中で戦い方を成長させた結果だと思ったが、あまりにも方法が違いすぎるため何度止めようと思ったかとは狐の言。
狐が教えたことで、それが発揮されたのは、武器を落とすために繰り出された一文字切りくらいで、それ以外は教えたことも無ければ、練習でも使用していなかった突き技ばかり。棒術なら多用すると思うが、剣術なら間合いを分かりづらくする、出所を分かり難くするのが主になる突き技は、対人ではないため教えていなかったと。
大猿が退避したところで、巡の苛烈さが増し、さらに攻撃的になった。
特に未来が見えているかのように大猿を誘導し、散らばる紙を踏ませ転ばせたところ。あれは大いに驚いたと同時に、とても危険な行為だという。
「大猿に攻撃をさせずに、態勢を崩させたのに危険なのか?」
「やはりお主は気づいておらんかったか。あの時のお主。目から血を流しておったのじゃぞ?自らが傷を負うものなど、危険以外に何があるというんじゃ」
「目から血!?」
慌てて目元を拭うが手に血は付かず、下を向いたことで服に血がついていることにようやく気付いた。
「お主が倒れた後に顔は拭いてやった。血濡れの奴と一緒には居たくないのでな。妾の顔を認識できているようじゃし、目に問題は無いのじゃな?」
幼女にそう問われ、改めて周囲を観察してみる。
近くにいるけもみみ幼女の顔はしっかりと認識できるし、おかしいと思うところも無さそうだ。隣にいるサフィも同様に、綺麗な白い毛並みに青い瞳も問題なし。
遠くに視線を向けても瞬時にピントが合い、よく見える。窓から見える外の景色を見る限り、視力が上がっているかもしれない。
(筋肉の超回復があるが、目にも超回復があるのかもしれない)
目を酷使からの超回復で、前より細かいとこらまではっきりと視認出来るようになっている。
それに、意識することで見えないはずの自分の背後まで把握できている気がする。死角があるように感じるのは、情報が足りていないからか。
(どこの情報で後ろが見えるんだ?)
思わず情報源を探すために首を振る。すると、真横を向いたときに死角が広がった。背中側の見える範囲は広がったものの、代わりに頭の後ろ側が見えなくなった。
(何が原因か)
急に動かなくなり黙り込んだ巡に、けもみみ幼女が声を掛ける。
「周りを見ていると思ったら、急にきょろきょろ。今度は黙り込んで、忙しない奴じゃの。何を考えておる」
幼女に問われ視線を上げる巡。途端に自身の背後まで視界が広がる感覚。
(なるほど)
「何かを閃いたような表情しおって。一人で納得してないで、話せ。気になるじゃろ」
巡は気づいたことを話す。
正面を向いているときに視界が広く、本来見えないはずの自身の背後まで見えること。しかし、横を向くと視界が狭くなること。それが、正面を向き視線を上げたことで、また視界が広がったこと。
「つまり、視力が上がったことで、他人の目に映る映像まで見えるようになったんじゃないかと思うんだ」
「何を言ってるじゃ貴様は」
(お主、あ奴から貴様に降格された)
「妾の目に反射する貴様の背後を視認したという事じゃろ?どんな視力しとるんじゃお主」
(戻った)
「しかも見ようと思って目の反射を見ているのではなく、無意識に認識したことで周囲を把握しているなんて化物じみているぞ。それはどこまで見えてるんじゃ」
「とりあえず、右後ろに壊れたコピー機があって、その手前に三枚の紙が散らかっているのは見えてる。さすがに文字は小さいし、反射しているから分からない。そして、目が凄い疲れる」
目を瞑ってしぱしぱし、回復を促す巡。
「さすがに血を流すほどではないようじゃが、充血しておるし負荷は高いようじゃの。普段は使わない方が良いじゃろうな」
そう言いながら、どこからか濡れたタオルを投げてくるけもみみ幼女。
てっきり大猿を倒した後、すぐに覚醒したのかと思ったが、こんなのを用意するほど時間が経っていたのか。
「それで目を癒すが良い」
「ありがとうな」
ありがたく濡れタオルで目を冷やす。
自覚は無かったが、目が熱を持っていたようでひんやりして気持ちいい。
しばらくこうしていたい。
「それでじゃな」
「なんだ?」
目を冷やすことに集中していると、幼女が遠慮がちに声を掛けてくる。
なんとなく予想できるが、まだ確定じゃない。
「妾、空腹じゃ」
やはりな。リベンジ戦の前は暗くなり始めだったが、今は既に真っ暗。戦闘で時間が掛かったのか、意識のない間に時間が経ったのか分からないが、腹が減るのは分かる。
「何もないから、また外に食料調達しに行かないとな」
「妾、肉を所望する!」
心配させたお詫びと言ってはなんだが、久しぶりに肉を取りに行くか。
真空パックならまだ大丈夫なものがあるかな。
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