超集中
「リベンジマッチだ」
新たな武器、1200㎜のバールを手に中央の建物二階、大猿の前に戻って来た巡。
全金属製であり、L型ではなくまっすぐタイプの為、木刀と同じく剣術が使える。さらに、二股の方は刺すのに最適で、平の方は勢い乗せて斬ることが出来た。木刀よりも200mmほど長いので遠心力での威力も上がり、外の黒い生物が倒しやすくなった。
これなら大猿にも攻撃が通るだろう。これで通らなかったら、ネイルガンを持ってくるしかない。
(あれこそ超至近距離だからやりたくない)
ここに戻ってくるまでに、バールの重さと長さに慣れようと戦ってきたが、しっかりと集中できたわけではない。そのため違和感は拭えないが、ここまで来てしまったため、残りは戦いながら修正していくしかないだろう。
狐が構えをしっかりと教えてくれたため、獲物を変えても構えは変わらないため、技と技の繋がりを意識すれば戦えそうだ。
大猿に武器の間合いが変わったことを悟られないように、バールを短く持ちながらじりじりと近づいて行く。
すると、さっきまでと違い、こちらの攻撃が絶対に届かない内から、柱を投げてきた。それも横倒しに避け難い形で。
「パターン変えんのかよ」
後ろに下がっても重さで転がってくると見越して、柱の下を潜るように前に転がる。バールを柱に接触させることで下への力を受け、転がりやすくした。
これも木刀の時と同じように狐の補強を受けているんだろうが、材質の違いか安心感が違う。やはり金属製は硬いな。
間合いの外から攻撃を受けたことで、間合いを誤魔化すことは無意味と悟った。威力と取り回しの最大数値を取れる握りに戻し、小細工無しで対峙する。
「ふっ!」
大猿の薙ぎ払いを後ろの避け、伸ばし切った右ひじを狙い素早く火の構えから袈裟斬り。最大威力を出すために構えを挟んだが、少し時間を掛け過ぎたようでずらされた。関節狙いが腕を引かれて、肘と手首の間を叩いた。それでも木刀の時のように痛みがない訳では無いようで、驚いたように柱を手放す大猿。
(追撃したいが、痺れが)
武器を手放した相手に防御させる前に追撃したいところだが、狙った場所と違ったところを叩いてしまった。さらに力を込める時間を与えてしまったことで、金属を叩いたかのように腕が痺れてしまい振り回される腕に当たらないように逃げることしかできなかった。
「だが、効いたぞ!」
金属を叩いたかのような感触だったが、確実に効いた。武器を手放してしまうほどには効いた。
これは木刀ではありえなかった変化だ。まだ傷と言うほどの物ではなく、痛みを与えただけのようだが、反応のない人形と戦うようなものと違い、このまま続ければ倒せるという実感がある。
「やっと対等だ」
大猿の攻撃が巡に大きいダメージを与えることに変わりないが、巡の攻撃でも大猿にダメージを与えることが可能になった。ようやく対等だ。ようやく戦いと呼べるものになった。
「戦えるなら引く必要はない。どんなに相手が強くとも、戦えるなら逃げる必要はない。自分の限界を知り、相手を観察して来た俺に、背中を見せる理由は無い!」
大猿と戦えることが判明してから巡の中で何かが変わった。
攻撃パターンが変わっても、攻撃方法が変わったわけではない大猿。
柱のように太い武器を振り回し、その強大な力で押しつぶそうとしてくる大猿。
筋肉を纏ったその体は鋼のように固い大猿。
「組み合わせは多くとも、慣れれば避けやすい攻撃方法。筋肉より脆い武器。力強さと反比例するその速度。お前の事が良く見えるぜー!」
大猿の攻撃を避けるために、時に大きく距離を取っていた巡だが、ここにきて至近距離から動かなくなった。相手の一挙手一投足にバールを当て、常に巡が有利になるように立ち回る。大きなダメージこそないものの、相手に攻撃を繰り出させない。後の先を行っていた。
(不思議な感覚だ。大猿の行動が良く見える。肩が動けば肘を突く。腕に力が入れば柱を叩く。重心を下げれば脛を突き、前傾姿勢になれば頭に振る。相手のしたいことが視える!)
巡の振るバールが頭を引いた大猿の首筋に届きそうになり、初めて大猿が下がった。
攻撃力に自信のある大猿の初めての逃げ。
その行動を見た巡の口元は、知らず知らずのうちににやけていた。
「恐怖を感じたな?」
後ろに下がった大猿に、さらに攻撃的になる巡。
肩を動かそうとした時、腕に力を入れそうなとき、重心を下げようとした時、前傾姿勢に移行しようとした時、その前兆が見えるくらいに集中している。
されに大猿の動きがゆっくりに見え、大猿のどこに力や重さが集まっており、弱点となるのか理解できた。
(大猿を見てるのに、床に散らばる紙の位置まで分かる)
大猿に走り寄りながら、足元の紙を蹴り上げる巡。宙に舞う紙束が狙い通りの場所に飛んでいくのを見ながら、大猿の動き出しを制限することで誘導する。
一度逃げたら、二度三度と逃げる。
肩を止め、柱を持つ指を叩き柱を落とさせる。足先を突かれ態勢を崩す大猿。床に近づいた頭に向かって、避ける動きを予想しながら逆袈裟斬りを放つと、慌てて頭を引きながら体を右後ろに引く。そして大猿の全体重が乗る左足の下には、バールに突かれて足が浮いたときに滑り込んだ紙。
急な体重移動に足の下の紙はついて行けず、滑る足。倒れる体。
(技は力に通用する)
このチャンスを最大限に活かすため、相手の動きを止めることを意識する。
立ち上がろうともがく手足を、手首足首を刺すことで地面に縫い留める。
(これならネイルガンが欲しいな)
バールを遠心力を利用し突き刺し、筋肉の膨張で止められない内に素早く引き抜き傷を負わせた。とはいえ、手放した武器を手元に引き寄せ?再生?させる謎を持つ大猿だ。
この傷もすぐに治る可能性がある。
「首だけは頑なに避けてたな」
外の鬼型や猿型の時は硬くなかったという事もあり、首を切って倒していた。しかし、大猿の反応的に切らなくとも、貫くだけでも倒せるかもしれない。
(これで首を斬るのは疲れる)
更なる安全確保のため、肘膝を壊す様に貫き動かせるものをさらに制限する。
(目など無いのに見られている感じがする)
その視線が恐れなのか怯えなのか。それとも怒りなのか驚きなのか巡には分からない。
ただわかるのは、この大猿は間違いなく強敵であったという事。
「俺の勝ちだ」
巡は一言零し、バールを大猿の首に突き刺した。
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