木刀の限界
部屋の端にバラバラに砕けたデスクやパーテーション、半壊したコピー機が飛ばされ、床には散らばった紙屑。そんな部屋の中央で木の打ち合う音が響く。
「その怪力に耐える木材ってなんだ」
大猿の持つ柱を受け流し、距離を取りつつ巡は零す。
大猿の繰り出す攻撃は、黒い柱による斬りと払い。突きは一回だけ繰り出したが、本来なら動作が分かりづらいという利点が大きいはずが、柱が大きいせいで丸分かり。面の攻撃より点の攻撃の方が避けやすく、それを大猿も分かったのか、二回目は無かった。
「それにしてもこっちの木刀もよく耐えてるな」
大猿の持つ柱は何回か交換されている。それと言うのも、大猿の猛攻を耐えるために、受け流しながら飛び上がり、大猿の力を利用し離れることを何度か繰り返した。すると、遠距離攻撃をするため柱を投げてきたのだ。
武器を手放したと喜び勇んで近づいた時には既に手元に柱が戻っており、危うく潰される所だったが掠る程度で済んだ。それでも壁まで吹き飛ばされ、少しの間動けなくなってしまった。
攻撃が面で、力が全身に分散されていなかったら、体の一部が無くなっていたかもしれない威力に、体が震えた。
「それは妾が直々に補強してやってるのじゃ!武器に差は無いと思え!」
(お前のおかげだったのか)
「そんな力任せの奴に負けたら、お主に教えた妾が弱く見られる!決して負けるでないぞ!」
と、こんな感じに、戦闘には協力しない代わりに口出しが多くなった。
「技は力に勝ると思い知らせるのじゃー!」
「負け犬になるのはお主だけにしろー!」
「お主が負けても誰も悲しまん!」
励ましから保身。最後にはただの悪口になったが、全てを聞いてると気がそがれるので、有効な助言以外は無視することに決めた。
掛けてくる声の七割がただの悪口って、狐にしてた意地悪でもバレてたか。食の恨みは怖いというが、人でなくとも同じなんだな。
「ふーっ」
狐の助言を呼吸と共に思考から排除し、目の前の大猿に意識を集中する。
次に何をするか、何を狙っているのか、大猿の動き出しに注意する。
(でかいって厄介だな)
火の構えからの袈裟斬り。普通の相手なら肩口から斬るものだが、大猿相手だと脇腹付近から斬ることになる。それも、太い腕を挟んでの攻撃になる為、あまり効いている様子は無い。
土の構えからの逆袈裟斬りは脛に入る為そこそこ効いてそうだが、一時的に引かせる程度。木の構えからの一文字斬りはガッツリ腕に阻まれ、狐に習った構えからの一撃は基本的に決まらない。
紙で足を滑らせ、狙いから外れたときは、隙を突いて入ることもあるが、それも微々たる威力。
(それでも何も効かないよりはいいんだが)
力の入ってない不意打ち気味の攻撃以外も届かせる方法を思案しているんだが、でかいから届く位置も限られているし、近距離だとあの馬鹿力に捕まるのも時間の問題。大猿の気を逸らせれば当たりやすくもなりそうだが、それすらどうすればいいのか分からない。
(武器になりそうなものは全て壁際に飛ばされてる。音を出せそうなものも無い。近くにあるのは散らばってる紙屑。俺が滑るだけの無意味なもの)
大猿の攻撃を避け、弾き、受け流す。大猿の態勢を崩しても、強固な筋肉に阻まれる。
剣術の基本が何も通らない相手に当たってしまったが、狐からは悪口鹿飛んでこない。
役に立たない師匠だ。
(せめてこれが金属製だったら)
大猿の持つ柱は何をしても無意味。ダメージを加えても、それを捨て新しいのを持てばいい。どういう原理なのかは分からないが、交換できるのだから。
だから、そこそこ効く脛だけを狙って攻撃を繰り返す。大猿が態勢を崩して、どれだけ首を晒そうとも脛だけを狙う。狐のおかげで木刀が壊れる心配が無いので、思いっきり叩ける。
攻撃が効いてると分かるので、やりがいがあってまだ楽しい。
「だからといってこれで倒せるってわけじゃないからな」
何度も脛だけを狙ったことで、大猿にもさすがに狙いがバレ、攻撃を防ぎに来た。
こうなると成す術がない。大猿の体に木刀は当たっても、効いてないのだから意味が無い。
技が悪いというより、獲物が悪かった。
「一旦逃げる!」
大猿の薙ぎ払いに木刀を合わせ、後ろに飛ぶ。何度も距離を取っていたから、角度を調整して、狐たちの元に帰るのはお手の物。
「何を逃げておる!お主が逃げるという事はあのデカ物に妾の教えた技が効かぬという事になるのだぞ!逃げずに戦え!行ってこい!」
狐のしっぽに押し返される前に、戻って来た理由を慌てて告げる。
「木刀じゃ無理だ。大猿の体を傷つけることが出来ない。見てて分かっただろ」
「それでも逃げるのは駄目じゃー!」
子供のように駄々をこねる狐をサフィに咥えてもらい、大猿が追ってこない内に一階に降りる。
新しい武器が必要だ。
「なーんで逃げるのじゃー!」
それにしても、二階に行ってから狐の様子がおかしい。見守っていた時からけもみみ幼女の姿だが、今は本当の幼女のようだ。戦い始めの方は、ちゃんと助言をくれていたので普通だったはずなんだが。
「呼吸を忘れるなよってかっこよかったんだがな」
今も騒ぐけもみみ幼女にどうするか悩む。
新たな武器を手にするためには外に出たほうがいいと思うんだが、この幼女が以前と同じ強さを持つのか。
それこそ自分の身を守れるのなら、一緒に外に連れ出せるんだが、守れないなら黒い生物の入って来ないここに置いて行った方が良い。
今の所、二階の大猿も降りてこないようだしな。
幼女を見ながら悩んでいると、入り口を警戒していたサフィが幼女の近くに寄ってきて一鳴き。
あの距離での一鳴きは耳に響くぞ。
「っ!?なんじゃ!何が起きたんじゃ!!」
どうやらけもみみ幼女が正気に戻ったようだ。
「ありがとうなサフィ。狐はさっきまでの事は覚えてるのか?」
狐を話の通じる状態に戻してくれたことをサフィにお礼し、狐に覚えていることを確認する。
「さっきまでの事?」
「木刀が効かないから逃げると言ったら、逃げるな戦えと駄々を捏ねたことだ」
「勝てぬ相手に無駄に挑むなど愚の骨頂。勝てる見込みが無いのなら逃げるのも手であろう?」
本当に不思議そうに答える幼女の姿に、巡も不思議そうな顔をする。ついでにサフィも首を傾げる。
余りに不思議そうな顔をする狐に意識を取られ、激しく動くしっぽと耳に気づくのが遅れたのは、仕方が無いと思う。
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