大猿
「起きろ」
日が真上を通過する前にけもみみ幼女を起こす。
巡が起きた時、既に辺りは明るくなっており、サフィが先に起きて周囲を警戒しているようだった。
場所は変わらず黒い生物がなぜか入って来ない中央の建物。しかし、昨日狐が壊した入り口には、黒い生物が押し寄せている。
昨日、飯の確保のために外に出る時に一度殲滅したが、飯を持って戻って来た時には元通り。
安全を確保するために無理やり中に入ったが、入り口にあれだけいる状況で、そこまで爆睡出来るのは、入って来れない理由を知らないと出来ないと思うんだ。何も知らないと誤魔化すなら、最後まで誤魔化してほしかった。
「昨日の残りで作ったおにぎり。無くなるぞ」
近くのコンビニに行き缶詰、カップ麺、レンジで温めるパックご飯、飲み物、その他乾物など日持ちの効く物を持ち帰り、建物内でレンジやケトルを探した。
残念ながら一階にそれらは無く、階を上がることは狐に止められてしまったため、もう一度外に出ることになったが、小さいケトルはまだしも、レンジを持ち込むのには苦労した。
腹が減って動きたくないという狐に括り付け、これが無いと飯が食えないと説得し、先に少しだけ食わせることで賄賂を渡し、何とか黒い生物の壁を飛び越えてもらった。
(おかげで今日も温かい飯が食える)
昨夜はカップ麺をメインに、煮魚や焼き鳥の缶詰を開けた。四人前のカップ焼きそばを二個も食べたけもみみ幼女にはいつもながらに驚いた。そのうえで、肉が食べたいと言い始めたときは焦ったが、焼き鳥の缶詰で満足してくれて本当に安心した。
サフィが選んだカリカリご飯は、残念ながらコンビニに無かったため別の物を用意したが、少し悲しそうだった。どこかで補充しないとな。
「んな。炊き立ての白米の匂いじゃ!」
「温めたての間違いだろ」
積み上げたおにぎりを寝ぼけたままのけもみみ幼女の前に差し出しながら、自分の分は確保する巡。
寝ぼけ眼の幼女に、全てを食べられてしまっては堪ったものじゃない。ご飯はこれですべて使ってしまったし、朝からカップ麺は流石に嫌だからな。幼女が食べ足りないとなったら、カップ麺を出すけどな。
(夜にはまた調達しに行かないとな)
おにぎりを食べながら、巡はこの後の事を考える。
狐に誘導されるようにこの建物に入ったが、何かを知っている狐が誘導した場所だ。人の居ない世界になってしまった理由。あるいは、黒い生物の正体が分かるはず。
上に行った時、狐が教えてくれるのか、それとも、狐が見たという人影が教えてくれるのか。
ここまで世話をした狐が黒幕となるのは嫌なことだが、サフィがいるから楽になりそうだという思いもある。
ここの上層に見たという人影が嘘ではないことを祈る。
「妾が見た人影はここの上にいるはずじゃ。じゃが、上から今まで以上の強敵の気配がする。十分気をつけるのじゃ」
「お前が分かるのは音じゃなかったのか?」
「なんのことじゃったか」
「上にいるやつもお前を襲わないのか?」
「なんのことか分からぬのじゃ」
もはや隠す気無いだろって誤魔化し方だが、なぜか満足げなけもみみ幼女。
もしや、完璧に隠しきったと思ってるのか?
「ふぅ。とりあえず上るか。相手を見ない事には強さも分からないからな」
「妾が強敵と言うてるじゃろうが!」
怒るけもみみ幼女を宥めながら上への階段を上がる。
圧倒的強者の狐が強敵と言うのなら、今の巡には対等に戦う事は出来ないと思われるが、狐の態度から協力は見込めそうにない。狐が注意に留めることから、生き残ることは出来ると思うんだが、倒せないと上に行けない。
木刀、スリングショット以外の何かを準備するべきか。それとも、戦わずに済む方法を模索するべきか。
そんな事を考えているうちに二階が見えてきた。
「何やら考えているようじゃが、気をつけよ。敵は既にいるのじゃぞ」
けもみみ幼女の声に思考の渦から現実へと意識が戻る。
示される先を見れば、部屋の中央に仁王立ちする人型の黒い生物。ヒトと比べると腕が長く、筋肉質なのが分かる。真っ黒なのに分かる筋肉の盛り上がり。その右手には柱ほどに太い棒のようなもの。これもまた真っ黒で、木材なのか鉄材なのか。あの筋肉で、あの棒を振り回すのだとしたら、どれだけの威力になるのか。絶対に食らいたくない。
「猿型と似たような形だが、鬼型よりも力が強そうだ。それにでかい。見に徹するにしても、間合いを気をつけないとやばいな」
部屋に入る気のないけもみみ幼女と幼女に止められるサフィを置いて、二階に足を踏み入れる巡。
いつ動き出しても対応できるように、じりじりとすり足で間合いを詰めていく。
大猿が持つ柱の間合いに入りそうだと思ったところで足を止める。すると、瞬きの隙を突くように柱が振られていた。上からの振り下ろしであったこと、大きいからか思ったより遅かったこともあり、何とか木刀を挟むことに成功。力の向きを変えることに成功し、後ろに吹き飛ばされる。ちょうどサフィたちがいるところだったようで、大狐に変化した狐のしっぽに受け止められた。
「気をつけよと言うたじゃろうに」
「十分に気をつけててあれだよ。叩き潰されなかっただけ良いだろ」
何とか逸らした柱が突いた場所を見ると、床に蜘蛛の巣上の罅を入れていた。力が強いと思ったことは間違いなかったようだ。
「勝てる目処は付いたかの」
「お前たちが協力してくれるなら余裕だな」
「わぅわぅ」
一回の立ち合いで目算を立てろと無茶振りしてくる狐に軽口で返すと、珍しくサフィに断られてしまった。
いつもならサフィは我関せずか、サフィよりも先に狐が何か言ってくるところ。それだけ一人で乗り越えろという事なのか。
(とにかく観察だな)
相手の間合い、速さ、動きの癖、ありとあらゆる特徴を把握し、有利になるように運ばなければ。
この目の良さは、狐に褒められるほどの物なのだから。
先ほどの振り下ろしを思い出し、こちらの隙を突いてくることに警戒度を上げながら、再び大猿の元へ間合いを詰めていく。今度は、不意打ちを受けないように、間合いを取られないように注意しながら。
「呼吸を忘れるなよ」
大猿だけに意識が向きかけた時、その外から狐の声が飛んできた。
大猿から視線は外さず、深呼吸を一つ。
「心は冷静に、闘志を燃やせ」
そう言ったのは、狐か巡か。
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