特訓終了?
朝飯を食い、特訓するために近くの公園へ赴く。お昼はホテルに帰ってきて作っていたが、時が経つにつれお弁当を作るようになった。そして辺りが暗くなったら特訓を終了し、ホテルへ帰る。くたくたの体を引きずりながら、夕飯を作り、風呂に入って床につく。
そんな日を週に六日過ごし、日曜日だけは消費した食料を調達するため近くのコンビニ、スーパーを回る。
黒い生物が出てきたら、特訓の成果を実感するため対峙するが、対人の術を習得中の為、獣型が出たときはあまり役に立たない。冷静に対処できるようになっているので、全く意味がない訳ではないが、基本も覚えたてなのに応用を始めているようで、基本が崩れないか心配だ。
「水の構え!火の構え!袈裟斬り!水の構え!土の構え!左逆袈裟斬り!水の構え!金の構え!逆袈裟斬り!水の構え!木の構え!一文字切り!」
けもみみ幼女の宣言に従って構えを行い、攻撃に移していく。
一つ一つの動作をゆっくりと行い、正確に、次に繋がるよう意識して動かしていく。
「しっかりと最後まで意識して振るのじゃ!剣の先まで神経を張り巡らせるように、自身の一部であるよう意識しろ!」
ゆっくりと型を確認した後は、少しずつ振りの速度を上げて行く。実践では、速ければ速いほど攻撃手段として優秀だからだ。今の自分がどこまで正確に、どこまで速く振れるのか理解していることは重要だろう。
ここでも、繋がることを意識して速さを上げる。
「だいぶ速くなって来たようじゃな。次は実践稽古じゃ!」
けもみみ幼女がどこからか木刀を持ちだし、巡の型の間に差し込んでくる。
木刀に当たったうえで、力に逆らわず流したり、力に逆らい受け止めたり、当たらないよう躱した後、巡に斬りかかってきたりと、実戦形式の特訓を開始した。
狐の木刀の挟み方は嫌らしく、常に思考の逆を突いて来る。
ここで流されたらと思えば受け止められ、受け止められたらと思えば流される。この攻撃が決まればと思えば躱され、攻撃を止めたくないと思えば挟んでくる。何とか流れを止めない様に苦心するも、木刀を挟んでくる狐のにやけた笑みを見ると、力が入り、動作に遅れが生じる。その遅れが隙に繋がり、狐の攻撃が巡に届く。
「油断するでないぞ?」
一撃入れるたびに言ってくる狐にイラつきが募るも、それが心の乱れになり、更なる行動の遅れに繋がると分かってからは冷静にいるよう心掛けている。あまりにもストレスが溜まったときは、夕飯でささやかな復讐をしているが、食事当番をしているものの特権だろう。それが嫌なら自分で作れと言うものだ。
一日の流れの中に筋トレと言うものが無いが、狐曰く、剣術に必要な筋肉は剣術を修める内に勝手に作られていくという話だ。剣を止めるのに腕力が足りなければ剣を振っているうちに、足運びに不満があれば繰り返していく内に必要な筋肉は作られていく。それで足りないと思えば自主的に鍛えても良いが、使わなければ落ちる筋肉だと言い、筋トレは非推奨的だ。
やらなくていいならと、巡は真面目に特訓を熟し、消費した体力を補うためによく食べ、活力を回復するため睡眠をきちんと取る。それでも、日々体は成長し、木刀を振ってもブレなく安定し、素早く正確に振れるようになってきている。
これは予想外の成果だが、この世界に来て、スマホやパソコンを見る機会が減ったことで、視力が回復してきた。気配を探ることはまだ出来ていないが、細かい所まで見えるようになり、攻撃の予測に役立っている。このまま視力が良くなれば、遠くで動くものにも気づけるようになるかもしれない。
「まだまだ精神的に未熟なところが見られるが、技としては及第点。修練に終わりはないが、自己防衛には十分じゃと思う。後は、実戦で成長していくしかないであろうな」
狐から特訓終了の知らせが来たのは、食料調達が二桁目に突入した頃だった。
黒い生物のヒト型以外の遭遇率があまりにも多かったため、サフィと狐に協力してもらい、四つ足型に慣れようとし始めた時だった。
巡自身は、四つ足相手にはまだまだ修練不足だと感じていたが、狐の見る限りだと及第点を貰えたらしい。
残りを実践でと言うのは、おそらく四つ足型と飛行型、その他見たことの無いものが出てきたときに、咄嗟の判断が出来るように、応用の応用を戦いの中で覚えるように、だと思われる。
(飛んでからじゃ狙えないよな)
未だ迎撃戦以外の戦闘経験のない飛行型との戦い方を考えながら、街の中央へ足を進める。
自己防衛の特訓が済んだことで、狐がまた一息に街の中央へ移動しようと言い出すかと思ったが、そこは巡に剣を教えたもの。
休憩なしの実戦経験を積ませるような真似をすることなく、道中出てくる黒い生物に対して、特訓の成果を発揮すること、飛行型などに有効打を与えるための思考を続けることを課題として出された。
鬼型は全体的に力が強いがヒトと一番近く戦いやすい。猿型は長い腕で物を良く投げてくる。しかしフェイントが無いため狙いが分かりやすい。犬型はサフィの方がやっかいの為、鬼型よりも楽に倒せるようになったほどだ。
(どうやって近づくか)
道中よく見る鳥型だが、こちらが攻撃を仕掛けようと向かって行くと飛んで逃げ、諦めた途端空から襲ってくる。攻撃の仕方が滑空で爪か嘴での攻撃の為、避けて切り捨てることが出来るが、数が増えると厄介すぎる。集団で滑空されると、避けて攻撃するまでに次のが飛んで来る。そうならないためにも、飛ぶ前に倒すか、飛んでも倒せるような手段を手に入れたいところだが、思いつかない。
「お主は鳥を仕留めるのが下手じゃの」
「飛び道具でもないと無理だろ」
「飛び道具って例えばなんじゃ?」
「そりゃ、銃とか弓とか。遠距離で攻撃を当てられるものだ」
「遠くから当てられればいいのなら、既に見本を見せたと思うんじゃがの」
(既に見本を?)
狐の言葉に記憶を遡る。この世界に来てから狐との記憶で真っ先に思い出すのは馳走を寄こせと、飯を集られる日々。次に思いつくのは特訓中の厳しさ。他に何かあったか?
『まずは敵をよく見よ。敵を知り……』
そう言いながら狐がしていたのは……。
「投石か!」
「ようやく思い出したか。弓や銃などお主が修める時間は無い。しかし、投石なら今のお主でも出来るかもしれん」
長い期間を掛けて剣術を修めた次は、投石による遠距離攻撃の習得。
次はどれくらいの期間で許しが出るのか、巡は戦々恐々とした。
「出来れば妾の上からでも当たるようにしたいものじゃな!」
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