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負けられない戦い

「今日はどこに行きましょうか」


「雑魚狩りで無双したい気分ッス!」


目の前で話す二人から目を離し、周りに意識を向ける。ここは緑広がる草原であり、街から少し離れたところ。

近くを通る人たちは、既に目的地を決めているのか、仲間と共に和気あいあいと横を通過していく。


「雑魚狩りだと、私の出番が無いのですが」


「その弓で遠くの敵を射抜けばいいッスよ?」


「射抜くと自分の獲物がー!って怒るじゃないですか」


「そんなことないッスよ。ないッスよね?メグっち」


名前を呼ばれたため、周りに向けていた意識を二人に戻す。

街近くの草原とは思えない重々しい装いの二人だが、それもそのはず。ここは現実世界をトレースしたゲーム世界。

【ゲームで出来ることはリアルで出来る】がコンセプト。その名も【アンチクトンワールド】というゲームの中なのだから。

休日にはピクニックで賑わいそうなこの草原も、ゲーム世界ではいつ敵が現れてもおかしくない危険なフィールド。

たとえ出てくる敵が雑魚と呼ばれるものであろうと、攻撃を受ければ痛みが発生する。軽減されてるとはいえ痛いため、鎧姿は間違っていないのだ。


「雑魚狩りでスカッとするのもいいんだが、大物を狙いに行かないか?昨日、雲の流れがおかしいって言う情報を得たんだ」


二人ともから不満そうな顔をされてしまった。

二人の主張のどちらの味方をしても、選ばれなかった方に不満が溜まる。だから、あえて触れずに流したんだがばれたようだ。


「はぁ~。そうですよね。メグルさんはそういう人でした」


「相変わらずの平和主義ッスねー」


(平和主義ではなく、拗ねると長いからなんだが)


などと思っても口にはしない。口に出したが最後。それこそ長い時間どこに行けなくなる。

それも二人同時とより面倒くさい。


「えっと、雲の流れがおかしいっていう情報でしたっけ?」


「ってことは風神ッスか?速さ勝負したいところッスけど、さすがに空は走れないッスよ?」


「雨雲じゃなければ、ね。雷神がついてこないだけマシなんでしょうけど、空を飛ぶ手段がない私たちには、厳しい相手じゃないですか?」


風神はその名の通り風を操る。自身に追い風を当て移動速度を上げたり、相手に向かい風を当てその逆をしたり、強風で身にまとう武器や防具を弾き飛ばしたりと多彩な手札を持つ敵だ。

変わった手段以外に、目に見えない鎌鼬や、物を巻き込む旋風などの風と言えばの攻撃手段も持つ。

当然空を飛ぶため、飛行手段か飛び道具でもない限り仕留めるのは難しい。が、メグルは見たことがあった。

風を斬る御仁を。


(あれを見て、憧れないなら男じゃないね)


「俺が風を斬る」


真面目な顔をして荒唐無稽なことを宣言するメグルに、二人は最初笑い声をあげた。

しかしメグルが一切表情を変えずにいると、笑い声は次第に小さくなっていき、静寂が辺りを包んだ。


「メグっち。もしかしてマジッスか?」


「マジだ」


「風は斬れないものですよ?」


「いや、風は斬れる」


一向に折れないメグルに二人の方が先に折れた。

メグルの頑固さには慣れたはずの二人であったが、狂気すら感じるメグルの様子に恐怖したようだ。と同時に、何がそこまで駆り立てるのか、気になっているようだ。


「メ、メグっちが風を斬れるとして「斬れる」、攻撃手段のない自分たちはどうするッスか?」


「私には攻撃手段ありますよ?弓ですので」


「弓なんて風で押し戻されて届かないッスよ」


「風を斬れるなら、貫くことも出来るでしょう。貫くことに特化した弓ですから」


「レイっち力ないじゃないッスか。弓射っても意味ないッスよ」


「攻撃手段すらないアキラさんに言われたくありません」


風が少し強くなってきたようだ。

言い合いを始めてしまった二人を眺めながら準備を進めていく。

先ほどまで横を抜けていく人たちがいたが、風が吹き始めてからは誰一人として通らない。

二人には言い忘れているが、風神の通り道にこの草原が入っているのだ。メグルは最初からこの草原から動く気など無かったのである。


「仲を深めるのもいいけど、そろそろ準備しないと。無防備で居ると吹き飛ばされて終わるよ?」


いつ気づくかと思って見ていれば、皮鎧がはためいても言い争いを止めない。

戦闘の話をしているときに飛ばされて、そもそも参加できないと怒りそうだったため注意を促す。

途端に慌ただしくなる二人。万が一にも飛ばされないように、転がる岩と自身をロープで結ぶ。この時、どれくらいの長さを確保するのかが重要だ。長すぎると空中で身動き出来なくなってしまう。しかし、短すぎると岩の近くで離れられない。二人は短い時間で調整出来るだろうか。


(人の事心配できるほどじゃないか)


風を斬ると宣言したが、風神と戦うのは今回が初めてだ。

半ば無理やり付き合わせることになってしまった。今も戦う準備をしている二人を見ると、斬れなかった時、無様に地を這う事にも付き合わせることに罪悪感を覚えた。風は斬れるが。


「修練不足で風を斬れなかったらすまん」


二人の顔を見れなかったのは、俺の腕に疑問を抱いてしまったからであり、斬ることを疑っているわけじゃない。決してない。


「今になって何言ってるんですか」


「そうッスよ。あれだけ斬れるって豪語したんッスから、今更斬れないなんて無しッスよ!」


後ろから聞こえる明るい声に、自身の腕前に不安を抱いている場合じゃないと気を引き締める。


「斬れなかったら、私たちやられてしまうので。デスペナルティ大きいの分かってますよね?」


「そうなったら補填を貰うッス!何がいいッスかね~」


後ろから聞こえてくる声に決意が揺らぐ。先ほどよりも楽しげに聞こえてくる作戦会議。

始めはゲーム内で完結するものだったのに、どんどんリアルよりになって来る。

そしてなぜか『風を斬れなかったらオフ会開催』に決定したようだ。


(それは俺だけでなく君たちもリアルをさらすことになるんだが、気づいているのだろうか)


一際強く風が吹く。

今にも膝を着いてしまいたくなる、強大な気配が近づいてくる。

自分の事だけなら楽しむ余裕があったメグルでも、二人も関わるとなれば緊張感が増す。


日頃のストレスを発散するための戦いが、決して負けられない戦いへと変わった。

二人の危機感とメグルの安全を守るための戦いが始まる。

ご覧いただきありがとうございます。


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