静かな朝食
狐との剣の特訓はその日の夕方まで続いた。
途中、戻って来たサフィのご飯を用意するために休憩を挟んだ時以外、長めの休憩は無く、激しい動きは無かったものの、巡は疲れ果てていた。
「お主、筋は悪くないの。気を抜けばすぐに猫背になるのが難点じゃが、足の開きや、握りなどはすぐに覚えておる。いっそのこと猫背を基本とする剣でも作ってみるか?」
今日一日、構えの訓練を見てくれた狐の総評だ。
構えは全ての基本と言っていたのに、その構えを変えてしまっていいのか疑問に思うところだが、巡の猫背が原因になっていることから何も言えない。
(構えでこれなら、まっすぐ振れるようになるのはいつになるのか)
狐の掛け声に合わせて構えを繰り返したが、一度たりとも良しと言われる事は無かった。急ぎ中央に行くための自己防衛の特訓だが、構えからの攻撃に防御、足運び、気配を探る術を学ぶには、相当の時間が掛かるだろう。
くたくたの体を引きずりホテルへ戻る。
どんなに疲労が溜まってもいても、ご飯を作るのは自分しかいないと分かっている巡。
「お湯沸かすか」
体力が尽きた状態で凝ったものなど作れない。味変用に薬味をいくつか準備だけして、素麵を茹でていく。
短時間で大量に茹でられるのは、今の巡の状態ではありがたい事だった。
「本当は体力回復できる物の方が良いんだが」
なけなし体力で梅肉と刻んだオクラ、刻んだミョウガを麺つゆに漬けたものを準備。
茹でただけの鶏肉も一口大に切り、ドレッシングをかけて完成。鶏肉は量が無いから、狐に完食されない様にしないとな。
「悪いが、くたくたすぎて簡単なものしか作れなかった」
大量の素麺と茹で鶏を持って狐の待つ食堂に行く。
狐は既に席に着き、何が楽しいのか体を揺らしていたが、巡の言葉に勢いよく振り返った。
「これだけ頑張った妾に!不味いものを出したら!どうなるか分かっておろうな!」
「簡単なものだが、不味くは無いよ」
(トッピング次第では不味くなるけど)
食べられる量を自分でよそえと、空の器、濃縮麺つゆ、水を狐に手渡し、自分の分を準備し始める巡。
オクラのねばねばで食べやすく、梅の酸味が食欲をそそる。鶏肉はごまだれで濃いめの味付け。
疲れた体が栄養を求めるように、食べれば食べるほど食が進む。
「しょっぱ!つゆがしょっぱいぞ!」
騒ぎ出す幼女に、水で薄めるものだと教える。
空になっていたコップに水を汲みなおし、麺つゆ一に対して、水が三になるように作り直し、濃ければ水を、薄ければ麺つゆを入れるように伝え、食事を再開する。
幼女が戸惑っている間に、お腹はだいぶ満たされたため、ごまだれ鶏肉を幼女に差し出す。
大量の素麺と共に食べきってくれ。
巡は先に食事を終わりにし、休憩のために少し横になる。
「……主ー。お主ー。寝るのは風呂に入ってからと言うておったじゃろー」
いつのまにか寝ていたようで、幼女の起こされた巡。
時間を確認すると、夕食から三時間が経っていた。
(少し休憩するだけのつもりが)
幼女は既に風呂上がりのようで、髪から水が滴り落ちていた。
その髪を拭きながら、サフィの事を聞いてみる。
「風呂入ったのか。サフィはどうした?一緒に入ったのか?」
昨日、一昨日も風呂に入っており、今日外に出ていても、そこまで汚くなっていない様に見えたサフィ。
風呂に入らなくても問題ないが、一緒に入っていた場合、この様子だと拭けていないだろう。
外は暑いとはいえ、濡らしたままだと風邪をひきかねない。
「サフィ様は入っておらぬ。入っても妾じゃ洗う事が許されぬしな」
「そうか」
ひとまず、寝起きの一仕事が無いことに安堵し、風呂の準備をする。
大浴場の前まで来た時、いつの間にかサフィが後ろにいた。
「一緒に入るか?」
巡がサフィに問いかけると、「わう!」と元気よく返事が返って来た。
狐と入らなかったのは、巡と入りたかったからのようだ。三日連続で風呂に入るとは、サフィはかなりの綺麗好きのようだ。
疲れた日の風呂はどうしてこんなに眠くなるのか。
危うく風呂で寝そうになったが、サフィが起こしてくれて大事には至らなかった。
その後、サフィをしっかりと拭き、一緒に寝た。
仮眠をとってしまったが、それだけでは疲れは取れておらず、もふもふが追加されたことで、すぐに眠りにつくことが出来た。
翌朝になると、さすが良いベッド。疲れは完全に消えていた。常に立っぱで足、木刀を持つのに重要だと言われた左腕など、筋肉痛が残るかと思われたが、風呂の効能が利いたのかもしれない。
「おはようサフィ」
軽い体を起こし、柔軟をしていく。体を解しながら、昨日の疲れが残っていないか確認していく。
「お主起きたか?」
寝る時はいなかった狐がいつの間にか部屋の中に居た。
珍しく早起きで驚いたが、こちらを見つめる目がご飯を要求しているのが分かる。
朝と昼が一緒になったことと、夜が素麺だったことで、空腹で目が覚めたのかもしれない。
今日も特訓があるし、ガッツリ食って、しっかりと体力をつけないとな。
「飯作るか」
とりあえず米を炊く巡。
(焼き魚食いたいな)
米が炊ける一時間。その間に、魚を調達しに行った。
この世界に来て四日目。そろそろ鮮度が心配になって来た生鮮食品。生で食べられるのも限界になりそうなものから、干物まで数を確保して来た。
狐用に下処理した魚をどんどん焼いて行く。秋刀魚やほっけ。鮭や鰯など多種多様な魚を焼き上げる。
自分用に赤魚の酒粕漬けをじっくりと焼く。
(魚の骨を取るのに時間が掛かって、狐の食べる速さが落ちるといいんだけどな)
魚だけだと物足りないので、みそ汁と漬物を出し、見栄えを良くしてみた。
「飯が出来たぞー」
いつものように大量のおかずを出していくが、魚を一皿に盛ることは出来なかったため、何度も往復することになり、テーブルの上に何種類もの魚が置かれる。
「みそ汁や付け合わせはいるか?」
「お主が食べるなら食べるぞ!」
魚を食べる時の口直し用になればいいかと、一皿分、一杯分を出しておく。おかわりしたいときは、自分でよそってくるように言い、ご飯を食べ始める巡。
久しぶりの焼き魚はやっぱり美味いが、静かなご飯にどことなく寂しさを感じ始める。
「どれも美味いな!」
今日も特訓を頑張ろうと巡は気合を入れた。
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