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心の準備

宿を出た時、少し長居したこともあり日が傾き始めていた。

移動を始めても明るいうちに目的地に着けるか微妙な時間だ。


「今からどこまで行ける」


「すべてを無視するなら、街の中央まで行けるぞ?」


「夜を過ごす場所を探せるか?」


「黒い生物に追われながらなら」


けもみみ幼女のその言葉を聞いて巡は考える。

ただでさえ、このままだと自分の身を守れるかも怪しいのに、そんな戦場の中に身を置きながら、夜を過ごす場所を探せるのか。


(無理だな)


戦闘訓練を積むためにも、ゆっくり進んでもらう事にした。

自己防衛のための木刀だが、力を込めて振り下ろす程度しか出来ないからな。


(剣を知っているものがあれば良いが)


街の中央に向かう事は決定したが、今日はその途中までと決めた。どこで夜を過ごすかを話し合う。

巡としては、街の中央に行くに従い、黒い生物が多くなるため、出来れば一体二体で現れるところで訓練したい。


「どこで休めるか分からないから、とりあえず近くのスーパーかコンビニ寄りたい」


「さっさと街の中央に行こうではないか。こんな辺鄙な場所より、中央の方が多かろう?」


「わぅん」


ゆっくり行きたい巡と早く行きたい幼女で意見が対立する。

巡も木刀の練習をしたいから譲る気はないが、狐も譲る気は無さそうだ。


「なぜそんなに急ぎたがる」


「そ、それは……そういうお主は何故急がない!」


幼女に問われたとき一瞬躊躇したが、隠すことで怪我に繋がると思いなおし、素直に伝えることにした。


「剣術未履修だからだ。このまま中央に行った時、自分の身すら守れない」


だから、剣術を教わる時間が欲しいと巡は幼女に伝える。


「お主剣を知らぬのか」


そう呟き、眉間に皺を寄せ黙るけもみみ幼女。葛藤しているようだ。


「……一度お主の戦闘を見るか」


どうやら安全を取ってくれたようだ。

この戦闘で戦えるなら先を急ぐし、戦えないようなら時間を取ると言うところか。


「とりあえず、食料確保と行こうか」


「お主の為に足を止めるのだ。豪華にせよ!」


「了解」


戦闘訓練と食料確保のため、近くのスーパーを探して道を進む。

温泉街という事もあってか、しばらく進んでもスーパーどころかコンビニも見当たらない。

個人商店は少し見かけるが、多数の物が少量だけあるという感じであり、数を確保できないため狐のご飯には合わない。


「もう少し広い所まで行くか」


「ここらはどこを見ても宿ばかりじゃの」


大狐に乗り、少し南下。温泉街を抜け、街中まで来た。

ここら辺までくれば、少し走ればコンビニがあり、コンビニをいくつか挟めばスーパーがある。

その他にもディスカウントショップやドラッグストアがあり、食料確保には困らない。


「ご飯を豪華にしろって言ってたが、何が食べたいんだ?」


「ふむ。白米と肉!は、毎度の事か。ならば甘味を付けよ!冷たい奴だ!」


「甘くて冷たいね」


(アイスでも持ってくか)


夕飯の献立を考えながら、ディスカウントショップに入る。

缶詰を入れながら、すぐに使う用の食料も入れていく。要望の米と肉はもちろん、野菜や魚も入れていく。

アイスを保存するためのクーラーボックスに冷凍物も入れ、一緒に保存しておく。


どこか料理の出来る場所を求め移動中、道の先に黒い影を見つける。

心の準備が出来ぬまま、狐に押し出され巡の戦闘訓練が始まる。


「まずは敵をよく見よ。敵を知り、己を知れば百選危うからずと、どこかの偉い人も言うておったろう」


狐の助言に従い、遠くから相手を観察する。

見える黒い影は一つ。形はヒト型に見える。この時点で予想できるのは鬼か猿。

手には武器らしいものを持っていない。しかし、爪や牙には注意が必要か。

どこを目指すという事もなく、ただ歩いているだけのように見える。

姿を見せればすぐに襲ってくるだろう。


(分かるのはこれくらいか)


「観察が終わったら自分の事を理解せよ」


巡自身の武器となる物は、まずは木刀。しかし、剣術等の武術の心得は無し。

次に香辛料爆弾。前にサフィを助けるために使った刺激物玉の改良版。少量の火薬と導火線をつけ、内部から爆発広がるように改良したものだ。犬型には効いたが、ヒト型に効くかは不明。

改めると、自身の攻撃の手段が少ないことに気づく。もう一つ、飛び道具を作っておくべきか。


不安材料を残さない様に、香辛料爆弾は初手で使ってみるべきか。

それとも当初の予定通り、木刀での戦闘の練習に集中するべきか。


「それでは行ってこい」


送り出す言葉とは裏腹に、黒い生物に向かって石を投げる狐。

しっぽで弾いているのにも関わらず命中率が良く、綺麗な放物線を描いた石は黒い生物の頭部に当たる。

一投目ではこちらに気づかず、二投目で上からなことに気づいた。三投目で巡たちに気づき、四投目で狐が何かしているのに気づいた。五投目で狙われていることに気づき、六投目が当たってようやくこちらに向かってくる。


「ほれ、来たぞ」


「来たぞと言ったって……」


しっぽで弾かれた石を六回も頭に食らったヒト型の黒い生物は、既に足がふらふらしており、もう一発頭に当てるだけで倒せそうだと思えるほど弱っている。


(これで戦闘訓練になるのか?)


「何やら不満そうじゃの。あの今にも倒れそうな黒い生物じゃ不満か?じゃが考えてもみよ。剣も知らぬお主が、命を奪う事に躊躇しないと断言できるか?妾が弱らせておかなければ、その躊躇いでお主が死ぬことになるぞ?なればこそ、まずは命を奪うという事を体験しておかなければならぬ。躊躇せず敵を斬れるようにならなければならぬ。周りの者を危険に晒さぬためにもな」


しかし、命を奪う事になれてはならぬ。最後にそう言った後、狐は見守るだけとなった。


(命を奪う事。敵を斬ること。仲間が傷つく)


狐のその言葉を聞いた巡は、途端に現実味を帯びた身の危険に体を震わせる。

自己防衛と外敵排除が結びついていなかった巡だが、ここで初めて自分の手で生命を奪う事の意味を理解する。しかし、理解することと実行できるかは別の事。

突然の事に巡は体が凍り付いたように動かせない。


「まあ、黒い生物に命があるかはわからんがの」

ご覧いただきありがとうございます。


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