温泉街
狐が目覚めた北の岩場へ向かう。
「最短距離で向かうぞ」
狐は街の中央を通るように縦断する道を走り抜ける。
その道中は、狐が鞍を作ってくれたため、何もないよりは楽な乗り心地だ。
足で踏ん張ることが出来るのは、かなり安心感がある。
「黒い生物がやけに多くないか?」
街の中央に近づくにつれて、黒い生物を見かける頻度が上がっていく。
通りでは、最初に見かけた鬼や犬、猫などもいる。建物の上には鳥や猿っぽいのも遠めに見えた。犬や猫より小さく素早いものも見えたため、鼠なんかもいるかもしれない。
「あの家の近くにも居はしたが、サフィ様が綺麗に避けておったのじゃろう。気配は感じていおったからな。それにしても、この辺は多いと思うがの。来るときにも多いと思ったものじゃが、増えておるのかの?」
(あの家の近くにも居たのか)
黒い生物は走る大狐に襲い掛かって来ようとしているが、大きさも相まって狐のスピードについてこれないようだ。黒い鬼が攻撃しようとするときには、既に横を通り抜けているし、黒い犬は追いかけることはあっても、攻撃に移るときに速度が落ちるのか振り切ることに成功している。猿は建物沿いを、鳥は空を飛んで追いかけて来るが、すぐに諦めている。鼠は逆に逃げているように思えた。
「攻撃的なのは鬼と犬だけか」
「そんなことは無いと思うがの。猿や鳥も追いつけるなら襲ってくるぞ?そこらを走る小さきものだって、数が集まれば襲い掛かって来る。勝てぬ戦いを挑まぬ程度の知性があるってことじゃろ」
黒い生物の思わぬ生態が判明する中、中央を通り抜ける。
「ん?」
「どうした?」
「いや、気にするでない。まずは岩場に行くぞ」
その後しばらく、家から中央に向かった倍の時間が経った頃、岩ばかりが転がる場所に来た。
狐が言ったように、少し熱く感じる。近くに温泉街があるかもしれない。
「もう少しで妾が目覚めた場所に着くぞ。目立つ大岩があったから、お主でもすぐわかると思う」
狐の宣言通り、すぐに目立つ大岩であったであろう物が見えてきた。それは中心から割れるように左右に転がっており、片割れだけでもその大きさに圧倒されるほどだった。
「なんか注連縄が切れてるんだが?」
「どっかから飛ばされてきたんじゃろ」
「破れた御札みたいなのがあるのは?」
「どっかから飛ばされてきたんじゃろ」
「五角形に石像が置いてあるのは?」
「どっかから飛ばされてきたん「石像が飛ばされることあるか!」」
縄や紙なら飛ばされてくることもあるかもしれない。地からの熱気で風が発生しやすくなってることもあり、可能性があるからな。それでも、石像を飛ばすほどの上昇気流なんか起こるわけがない。この重さの物を飛ばす風は、それだけで大災害を発生させるだろう。しかも、揃えたように割れた大岩の方を向いているなんて、おかしいと思うのが普通だろう。
「狐。隠していることあるだろう」
「無い!」
「この期に及んでまだ誤魔化すつもりか」
「妾に隠さなければいけない事など何もない!」
力強い宣言とは裏腹に、狐の目は泳ぎまくっているが、言いたくないのなら仕方が無い。
何らかの手がかりではありそうだが、これはどちらかと言えば、中に封じるための物でありそうで、大岩で何か封印していたんじゃないのかと思われる。
そして狐の反応から、こいつが封印されていたんだろう。
言いたくないのは、サフィに知られたくないのか、それとも封印された理由だろうか。
とにかくこれが原因で、人の居ない世界になったとは思えない。
(封印された恨みで人消したとかはありそうだが、俺が残る意味が分からない)
割れた大岩の周辺を探索すると、灯篭があったり、サフィの所にあった物よりさらに小さい社があったり、手水舎があったり、鐘があったり、狐を模した土偶があったりした。
狐に心当たりが無いか聞いてみると、「どっかから飛ばされてきたんじゃろ」の一点張り。
火を灯したり、木造だったり、水源だったり、気になる物に変わりないが、きっと関係は無いのだろう。
「他に気になる物は無し」
探索中に黒い生物が近づいてくることがあったが、サフィが対処してくれたようで、安全に探索で来た。
代わりに、サフィは岩場を走り回ったことでかなり汚れてしまった。
毛が白いからその汚れ具合がよくわかってしまう。
「温泉が近くにありそうだし、入りに行くか」
サフィの汚れを落とすのはもちろん、巡自身も地熱により汗をかいていた。その汗を流すためにも温泉に入りたい。
大狐に乗り、建物の密集地に向かう。
人が居れば賑わいがありそうな川沿いの街だ。温泉に浸かったあと、川を見ながら火照り取るなんて風流なものだろう。
(こっちの方は初めて来るし、適当なところに入るか)
目に付いたところに入ろうとしたら、サフィに裾を引かれる。
「どうした?」
「わう」
まるで引き留めように引っ張るサフィにここには入らない方が良いと察し、引き返す。
別の温泉宿を探し、そちらに入る。
「まずは温泉だな」
人が居なくなって一日ならまだお湯も綺麗だとは思うが、源泉かけ流しの所なら温かさも確保できるだろう。
「湯に入る前に洗えよ」
「洗うのはお主の仕事じゃ!」
「サフィ洗ってるから、自分で洗え。出来ないなら待て」
不貞腐れる狐だが、大人しく待つようだ。
サフィの泡を洗い流し、狐を洗う。狐もふさふさのもふもふになるのが分かっているから、大人しく現れる。目にお湯が入らないように瞑っておけよ。
「ふぅー。気持ちいいな」
目を瞑って温泉を堪能していると飛沫が顔にかかる。
「狐!泳ぐな!」
「誰もいないんじゃからよかろう!やってみたかったんじゃ!」
温泉を出た後は自販機で冷えた飲み物を買った。
巡はコーヒー牛乳。狐はフルーツ牛乳。サフィは普通の牛乳。
火照った体に冷えた牛乳は最高だ。
「ふぃー。気持ちの良い風呂であった。また来てやっても良いの」
(何様だよ)
休憩室を占領しながら、今後の事を考える。
巡、サフィ、狐。それぞれの目覚めた場所にこの状況になった手がかりらしいものは、有ったが無かった。
次はどこを探せばいいのかすら分からなくなってしまった。
「何を悩んでおるのじゃ?」
「次にどこを探索しに行けばいいのかってな」
「それなら妾に一つ思い当たる場所があるが、まずは馳走にしようではないか!」
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