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狐の十八番

サフィを枕元に狐を抱きながら眠った次の日。

衝撃的なことばかり体験したことで体が疲れていたのか、もふもふに包まれたことでアニマルセラピーの効果があったのか、それとも両方か。ぐっすり眠れ、体の疲れがすっかり取れた。


「体が軽いな。昨日の疲れも全くない」


歩くだけならまだしも、神社では普段そこまでしない中腰の作業をやっていたから、痛みが残ることを覚悟していたが残っていない。嬉しい誤算に巡も喜ぶ。


「こんなに軽やかなのはいつぶりだ?」


肩を回したり、腰を回したり、体の調子を確かめていると、サフィが起きたようだ。


「おはようサフィ」


「わふ」


サフィも十分休息が取れたようだ。初めての場所なのにしっかりと寝れるとは図太い性格だと思うが、昨日の出会いからリラックスしてたか。奥に行ってろと言っただけで、ベッドで寝ていた奴だからな。

寝れなくて騒がしくされるよりは全然いいか。


「今日は遠出になる。しかも、サフィにはキツイ体制で移動してもらう事になる。覚悟だけはしておいてくれ」


サフィを狐の横で並走させればとも考えたが、子狐の時と同じ問題になるからな。三倍の大きさの狐に追いつくには、サフィには三倍速く動いてもらうかゆっくり移動することになるだろう。休憩を挟んだとしても、そこまで早く動く、長時間の移動、どちらになっても疲れ果ててしまうだろう。


サフィには、移動先でもその聴覚と嗅覚で索敵を頼むからな。疲れてそれが出来なくなるよりは、俺の腕が上がらなくなる方が、まだマシだろう。


(長時間の人力シートベルト。俺も覚悟をしておかないとな)


キッチンに移り、朝飯の準備をする。

朝は簡単にトーストと目玉焼き、ウインナーに作り置きのポテトサラダ。

狐はこれだけじゃ足らないはずなので米を炊いておく。エンドレスお茶漬けで満たされることを祈る。


「狐を起こしてくるから、サフィは先に食べてていいぞ」


サフィのブレンドご飯をセットし、声を掛けてから寝室へ向かう。

神社の帰りに話したことで分かったことだが、狐は朝が弱い。

起きたときは日が高かったと言っていたから、9時から10時くらいに起きたと思われる。


そんな狐がこの時間に起きるわけないと思うが、今日は遠出だ。

家を出るなら早めにしたい。何か問題が起きても対応できる時間を確保しておきたいからな。


「狐ー。起きて朝飯食えー」


当然のように起きない狐。

そこで巡は手に持っているものを狐の鼻先に差し出す。

あれだけの大食らいだ。飯の匂いを嗅がせれば起きるだろう。


焼けたパンの良い匂いが狐を包み込む。

鼻がぴくぴく動き、しっぽが緩やかに揺れ出す。

目を閉じたまま口が開き、パンを食べようと動き出す。


「起きない奴にはやらん」


噛みつこうとする狐からパンを遠ざける。

離れるパンに釣られて移動する狐。

パンを遠ざける。近づく狐。パンを遠ざける。近づく狐。

これを繰り返したことでベッドの端まで来た狐。


(あと一回繰り返すとベッドから落ちるが、まだ目を開けないつもりか?)


食べようと口を開ける狐から、さっとパンを遠ざけると、案の定狐がベッドから落ちる。

頭から落ちて痛そうに見えたが、「妾のパン……」と言っていることから、問題ないだろう。


「お前のパンはリビングにある。冷めないうちに食うぞ」


巡がそう言うと、騒ぎながら走って行く狐。部屋の外で煙が漂ってきたことから、けもみみ幼女に変身したことが分かる。


「食べる前に手を洗えよ!」


「分かったのじゃー!」


狐が洗面所に向かうのを横目に、先にリビングへ戻る。

狐を釣るのに使ったパンは、狐が触れたわけでもないし自分で食べようとした時、リビングに入って来た幼女に奪われた。


「妾より先に食べるでない!」


「人から物を取るな」


「妾が夢で嗅いだ匂いの物だ!つまり、妾の物だ!」


賑やかな朝食が始まり、やはり、用意したものでは足りないと騒ぎ出す狐。

騒がなくなるまでお茶漬けを出し続ける。

昨日の食欲から予想したほどではなかったが、それでも人の何倍も食べた狐に驚きを隠せない。


「満足か?」


「妾は満足じゃ!」


「それじゃ行くか」


昨日の散歩セットに、飲み物を追加し外に出る。

けもみみ幼女に大狐になってもらい、サフィを抱えるように背に乗る。

問題が無いか確認するために立ち上がってもらう。


(立つときの揺れだけで足が)


その後、通りを歩いてもらうが、想像以上に上下の揺れが激しい。

一旦狐から降り、どうするかと考える巡。


真っ先に思いつくのは縄で狐と固定することだが、長時間の固定が狐と巡の足に悪い影響が起きそうで不安がある。固定するなら布の方が良いが、これほどでかい布など持っていない。

次に浮かんだのが、乗馬の装具、鞍と鐙だ。縄の両端に輪を作り、鐙とし、狐と接触する部分を痛くならないようにすれば鞍となるか。


(狐の動きを阻害しない柔らかさと激しい動きでも破損しない丈夫さが両立するもの)


家に入り、両立するものを探してみるが、これと言ったものが見当たらない。

革製品の唯一無二に適いそうなものがない。


カーテンで包むか、毛布を使うか。それともマットレスを裂いて柔らかさに全振りするか悩んでいると、小さくなった狐が家の中に入って言う。


「お主何をしておるのじゃ。岩場に向かうんじゃないのか?」


「お前の上の揺れが激しいんだ。何かで固定しないと振り落とされる」


乗馬で使う鞍の代わりになる物を作れないか、家の中を見て回っていると伝えると、何だそんな事かと言い放つ狐。外に出る狐の後を追い外に出る。


「鞍とはどういうものじゃ?」


スマホで鞍と検索し、画像や設計図を見せる。


「なるほどの。見ておれ!」


そう言うと大狐になる狐。そこからさらに煙に包まれると、大狐に合わせた鞍が背中に乗っていた。


「妾がヒトになるときの服をどこから持って来たと思っておる!変化時に一緒に作っておるに決まっておろう!鞍を作るなど朝飯前じゃ!」


どうやら狐の変身を侮っていたようだ。

悩んでいた問題が簡単に解決した。


「凄いな」


「そうであろう!そうであろう!もっと褒めるが良いぞ!」


褒めて喜ばして、サフィも固定できるように鞍を変化させて、遠出の準備を完了させる。

気分の上がった狐にスピードを出し過ぎないか不安を覚えるものの、岩場へ出発だ。

ご覧いただきありがとうございます。


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