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登山デート(著:兎華白莉犀)

いやぁ、綺麗な景色だねぇ。

思い出すなぁ、君とこの山を登った時のこと。

あの時の君は、私よりも体力がなくてすぐへばっていたねぇ。

置いていかないでよってぜぇぜぇ言いながらゆっくり登る君を、私は数十歩先でにこにこしながら待っていたな。

やっと頂上に登った時、君は疲れ果ててもう動けないって言ってたね。

でも、君が握った大きい大きいおにぎりを、それはもうとても美味しそうに頬張っていたね。

頂点まで登ればあとは下るだけ。

お腹いっぱいになってすっかり元気になった君は、下り道を慎重に歩く私を追い越して、早く早く、とはしゃぐように言っていたね。

楽しかったなぁ、本当に。

この景色を見ると、この音を聞くと、この匂いを嗅ぐと、昨日のことのように思い出せる。


君との日々は、とても楽しかったよ。

高校で同じ美術部に所属して、私達は切磋琢磨し合った。

その過程で君は私に惚れて、不器用な告白をした。

周りから見れば拙い告白だったけど、それでも私は嬉しかったよ。

こんな私のことを、心から好いてくれる人がいるんだって。

それから、君は私と同じ大学に通えるように、勉強をとても頑張っていたね。

努力が無事実り、私達は同じ大学に通うようになった。

私が実家を出たことをきっかけに、私達は一緒に暮らすようになった。

いいことばかりじゃなかったけれど、喧嘩もたくさんしたけれど、楽しかった。

私が死ぬ前の走馬灯は、君との日々が流れるだろうね。

それはもう、綺麗な綺麗な万華鏡のように。


……君は、どうだったかな。


あの時の君は、何で、と言いたげな顔をしていたね。

それから、泣いて、ごめんなさい、と言っていたね。

今打ち明けても遅いだろうけれど、言っておくね。

何で、は、こっちの台詞なんだよ。

泣きたいのは、こっちなんだよ。


ねぇ、どうして君は、浮気なんかしちゃったのかなぁ。


私が見なければよかった話なんだけどね。

君が、同じサークルの女の子に言い寄られていた場面を。

その子の肩を抱いてキスをした場面を。

その子から来た愛のメッセージの通知を。

その子と交わした睦まじい会話の記録を。

全部全部、私の視界に入らなければよかったのにね。


そうやって、綺麗な部分だけ、切り取れていればよかったのにね。


どうしようね、血が落ちないんだ、私の手からさ。

どうやったら落ちるんだろうね。

教えてくれよ。

……そっか、君はもう喋れないか。


そろそろ夜が明けるね。

それじゃあ、埋めるね。

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