表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/35

君の居ない思い出(著:冬街緑)

誰もいない教室、寂しさの混じる空気の中部屋を彩っていたのは黒板に描かれたアートと教室中に飾られているお花を模した飾りだけ。

 時間割用の小さな黒板には「高校三年間お疲れ様、みんなの幸せな未来を祈っている」との担任からの激励。卒業式が終わった後、俺は一人教室に残りその余韻に身を委ねていた。

 普段つるんでる仲間たちはそれぞれの部活の面々と打ち上げに向かい、数少ない女友達の幼馴染は生徒会への別れの挨拶に行くと言い早々に教室を後にした。

 担任も校長先生も誰も学校内には居ない普段では存在しない空気を身に纏いながら、高校生活を振り返っていく。

 幼馴染に強くお願いされ、本来の偏差値よりも上の高校を選んだ中学三年生の頃。

 彼女は賢いが故苦労したが、勉強をつきっきりで教えてくれた。

 なかなか俺の頭の出来が悪い為に苦労かけたが彼女は手を変え品を変えなんとか噛み砕いて教えてくれた。今思えばめちゃくちゃ苦労かけてる。

 そして入学、一緒に帰った入学式の日に急に泣き出した幼馴染。

 理由を聞いた時に一緒の学校に行けた実感が湧いてきて涙を流したと聞いて心の底でちょっぴり嬉しくなった。

 俺もつられて涙が溢れそうになったが涙を見せるのが恥ずかしいのでグッと堪えて帰り道、ずっと背中をさすっていた。

 その後は彼女も生徒会で忙しくなったが、部活に入り帰る時間を合わせたりしてた。

 その過程で部活のメンバーと仲良くなったり、幼馴染を通じて生徒会メンバーと仲良くなったり、輪が広がっていって学校がどんどん楽しくなっていった。

 彼女のおかげで俺の学校生活が明るいものになったと言っても過言でなかった。

 俺の思い出には常に幼馴染の姿や影があって、その幼馴染の姿や影のおかげで全てが最高になっていく。

卒業式後のこの時間が唯一の幼馴染の姿の無い高校時代の思い出になるかもしれないと思うと急に寂しくなってくるが、一つくらいそう言う思い出があってもいいかなとも思う。

 ずっとべったりと一緒にいる訳にもいかないからこれを機に自分でも思い出や記憶を作っていければいい。自分一人でも輪を広げられないようじゃ相応しく無いから。

 今はこの空気に身を委ねてぼーっとこんなこと考えていればいいかなと思っていた。

 黒板に描かれているアートを眺めていると突然視界が暗くなる。

 感触的には手だろうか、あまり大きく無い人肌で目を覆われているようだ。

「だ〜れだ!」

 喉を締めたようなトンチキな声で問われる。

「お疲れ様、もう生徒会の方はいいのか?」

「えっ、バレてる。 ちゃんと声変えたのになぁ。

 ねぇ、伝えたいことがあるんだけど……」

 結局、高校生活の中に幼馴染の姿の無い思い出はできそうもなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ