大輪の花(著:兎華白莉犀)
「いやー、まさか今年も俺達二人で花火大会に来る羽目になるとはな」
和也が隣で笑う。
俺も、そうだなぁ、と言って微かに笑った。
和也が今年も一緒に花火大会に行く相手を俺以外に作らなくてよかったなと思う。
俺を選んでくれて、本当に嬉しいと思う。
何故なら俺は……。
「なぁ、千秋」
和也に呼ばれ、俺は彼の方を向く。
彼はやけに真剣な顔をしていた。
「高校卒業してもさ、俺と一緒に、花火を見てくれるか」
「え?」
「来年も、再来年も、一緒に──」
その時、ひゅうううううっ、と音がした。
俺達は空を見上げる。
まずは枝垂れ桜のような細長い炎が空を降りていった。
わぁ、と、どこかから歓声が聞こえる。
「始まったな」
和也が、腕組みをして微笑んだ。
浴衣を着ているカップルだらけの空間で、私服で来ている俺達は明らかに浮いている存在だった。
「あぁ、始まった」
俺も空を見上げ、微笑む。
そして、また和也の方を見る。
彼は無邪気な子供のような顔をして、しかしどこか大人びたような顔で、花火を見るのを楽しんでいた。
俺は、彼のこの表情を見るのがとても好きだ。
無邪気な顔に、歳を重ねるにつれ、だんだん大人の雰囲気を纏っていくのを見るのが。
毎年、毎年、好きだった。
中学生の頃から毎年二人で行ってるので、今年でもう六年になる。
高校卒業してもさ、俺と一緒に、花火を見てくれるか。
先程言われた言葉の真意を考えてみる。
単に友人として行きたいだけなのか、それとも。
考えてみたけど、あまり深く考えたくなくなった。
「……お前に、彼女ができるまでな」
「え? 何が?」
和也は、花火に負けない声量で聞き返す。
「お前に彼女ができるまでは、毎年、一緒に花火を見に行ってやるよ」
俺も、花火に負けない声量で言い返した。
その時、和也は、じっと俺の方を見た。
「な、なんだよ」
俺は目を逸らせず、和也を見つめ返してしまった。
その時、ひゅうううううううっ、と、また、花火が上がる。
俺は空をちらっと見た。
そろそろ大輪の花が夜空に咲きそうだ。
ふと、顎に指を添えられる。
「……千秋」
俺は和也の方を見た。
すると。
唇に、柔らかい感触を感じた。
どぉん! と、大きな音がした。
歓声が、あちこちでわきあがった。
キスされたと分かったのは、和也の顔が少し離れた時だった。
「……彼女なんか作らねぇよ。一生」
俺の顔が火照ったのは、その和也の言葉のせいか、それとも暑さからか。
「……でっけー花火だったろうに、見そびれちゃっただろ」
そう返すので、精一杯だった。
「来年も、見に行けばいいじゃねぇか」
和也は照れくさそうに頭をかき、そして、また俺の瞳を真剣な顔をして見る。
「来年も、再来年も、花火を一緒に見てくれないか」
俺は、震える声で、こう返した。
「花火も見るし、一緒にいろんなことしようぜ」
そして震えが止まらない唇で、和也に口づけをした。




