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甘い酒の度数(著:兎華白莉犀)

行きつけのバーに入ってすぐ、カウンターに可愛い子がいるな、と思った。

俺は下心を悟られないように、あくまで自然に隣に座った。

彼女は、まん丸い瞳で俺のことを一瞬だけ見た。

淡いピンク色のワンピースを着ていて、鎖骨辺りまである髪を巻いてウェーブをかけている。

「あまり見ない顔ですね。初めて来たんですか」

俺は、思わずそう声をかけてしまった。

彼女は驚いた顔をしている。

「ああ、失礼。俺、ここの常連なんです。ね、マスター」

鼻の下にダリのような髭をたくわえたマスターは、グラスを磨きながら、こちらを見ずに頷いた。

「そうなんですね」

と、彼女はようやく俺にちょっぴりだけでも信用を抱いてくれたようだ。

「実は私、こういうお店に来るの初めてで……。何飲んだらいいんだろうと思ってとりあえずソフトドリンク頼んで飲んでたんです」

なるほど、彼女の見た目は20代前半だ。

おそらく、お酒自体あまり飲んだことないのだろう。

「それなら、カルーアミルクはどうかな。コーヒー牛乳のような味がして、甘くて美味しいお酒だよ」

「あ、じゃあ、それにしようかな」

「マスター、この子にカルーアミルクを一つ」

寡黙なマスターは頷いた。

「奢ってあげるよ。とりあえず飲んでみて」

「そんな、悪いです」

「いいからいいから」

その後、沈黙が流れた。

お互い何を話したらいいのか分からず、黙ってしまっている。

やがて、彼女にカルーアミルクが渡された。

彼女は一口飲んで、

「あ、美味しい。私このお酒好きかもです」

と、笑った。

「それはよかった」

と、俺も微笑む。

「貴方は、何のお酒が好きなんですか?」

そう彼女が聞いてきたので、俺は一瞬だけ返答を考え、

「そうだな、ウイスキーとか、他には甘くないカクテルとかを飲むことが多いかな」

と、答えた。

「そうなんですね。大人だぁ」

彼女の話し方がだんだんふわふわしてきている。

酔いが回っているのだろう。

そういえば、と、俺は思い出す。

甘い酒は度数が高めに作られていることが多い。

その辺、マスターは配慮しただろうが、悪いことをしたと思った。

その時。

彼女が急に、俺の肩にもたれかかってきた。

俺はぎょっとして彼女を見る。

彼女は、えへへ、と笑い、

「ねぇ、これから二人きりになりませんか?」

と、蠱惑的に舌なめずりをした。

あぁ、甘い酒は度数が高い。

俺は、彼女の度数に当てられて酔いそうだ。

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