バームクーヘン(著:兎華白莉犀)
今日は、親友の結婚式だった。
「スピーチ、やってくれよ。こんな大事なこと頼めるの、お前しかいなくてさ」
その言葉が、とても嬉しかった。
慣れないスーツを着て、震える手でカンペを持って、ありったけの思いを伝えた。
俺はその時ふと、親友の隣で微笑む新婦が目に入った。
白いウェディングドレスがよく似合う、月のように綺麗な女の人だと思った。
だけど俺にとって、お前の方が、太陽のようにとてもとても眩しかったんだよ。
これから一生をともに過ごすであろう女性と並んで教会を歩く親友は、とても頼もしく見えた。
いつも俺に見せるおちゃらけた態度は、欠片も見えなかった。
新婦に見せる親友の微笑みは、夫としての力強さに満ち溢れ、それでいて、とてもとても柔らかかった。
それは愛おしいものを大事に慈しむ顔だった。
何だよ、お前、そんな笑い方出来たのかよ。
俺には一度もそんな顔見せなかったじゃん。
俺も、お前にとって大事な人間であるはずなのに。
お色直しのあと、新郎新婦と少しだけ話した。
「おめでとうございます」
俺がそう言うと、
「ありがとうございます。スピーチ、とてもよかったです」
と、月のような女性ははにかんだ。
優しそうで、少し気弱そうな人だった。
一体どうして親友はこの人を選んだのだろうと思ったのだけど、彼女とこうして話してみて、そうだよな、と納得してしまった。
優しいお前は、優しさを分かち合える人と共にいたかったんだろうな。
激しく燃える太陽の隣には、仄かにきらめく月が相応しい。
幸せになれよ。
そう親友に言おうとして、
「この人を幸せにしてあげろよ」
と、言ってしまった。
親友は、歯を見せてにかっと笑い、
「おう、二人で幸せになるよ」
と、言った。
その笑顔があまりにも眩しくて、ずっと見ていると心が痛くなりそうだった。
俺は苦笑し、
「お前はそういうやつだよな」
と返すので精一杯だった。
引き出物をもらった。
俺の顔ぐらいある大きい箱は、ずっしりと重たかった。
テーブルに置かれた花は自由に持ち帰っていい。
そう言われたけれど、俺は、なんだか持ち帰る気になれず、一緒のテーブルに座った他の人に譲った。
家に帰り、箱を開ける。
中には大きめのバームクーヘンが入っていた。
切るのがめんどくさくて、そのままフォークを突き立てる。
バームクーヘンをもさもさ食いながら、色んなことが頭によぎる。
一緒にコンビニに寄ってアイスを買い食いした、制服が汗で濡れたとても暑い夏。
俺の家に泊まりに来て、堂々とこたつの中で寝やがった親友を静かに見守った、雪がはらはらと降った冬。
あの時も、あの時も、俺はお前を見ていた。
お前のことが好きだった。
俺がお前のものになればいいと思っていた。
だけどお前はそうしなかった。
なぁ、どうしても俺じゃ駄目だったのか。
俺はお前の月になれないのか。
塩辛いバームクーヘンを、口いっぱいに頬張る。